毎朝俺の悲鳴から始まる!世話焼き幼馴染の溺愛治療

えなが つぐみ

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9-3 誰にでもあんな顔すんの?

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優成の会社から出てきた俺たちは、近くのベンチに腰を掛けた。
なんとなく気まずい空気が流れ、俺は話し出すタイミングを見失っていた。
目の前を行き交う人たちを見ながら、しばらく優成の様子をうかがう。


「今朝は会えなくてごめん。体は大丈夫か?」
軽く握った自分の手を見ながら、優成が声をかけてきた。

「うん、体は大丈夫。でも男に戻ってるよ」
俺は自分の股間をポンポン、と叩きながら優成に説明した。

「……また、変化したのか。一体何が引き金になってんだ?」
俺の股間にチラリと目線を移したあと、優成は顎に手を当てて俯いた。

「そのことなんだけど、今夜俺の家で話せないかな?朝、LINE送ったんだけど……」

「あぁ、実は今夜、残業することになって……佐々山さんと。また明日でもいいか?」

優成の言葉に俺は体をピクッと震わせた。
「…………佐々山さんと?」

「さっきの案件、二人で詰めることが多くてさ」
優成はあくまで仕事の一環、という顔で答える。

「二人きりで、打ち合わせ……」
頭の中に、佐々山さんが優成に熱っぽい視線を送っていた光景が浮かんできた。
その頬の赤みまで鮮明に思い出してしまい、胸がきゅうっと締め付けられる。

「世利?」
俺の沈黙に気づいた優成が、怪訝そうに俺を覗き込んできた。

優成と視線が交わった瞬間、胸の内を覗かれたような気がして一瞬息が止まった。
そして俺は、言わなくてもいい事を口走ってしまった。
「優成、あんまり佐々山さんを勘違いさせるような態度は良くないよ」

「…………は?なんだそれ」
優成の目が細められ、声に少しだけ苛立ちが混じった。

「……あ、いや」
焦った俺は慌てて訂正しようとしたが、それはもう遅かった。

「勘違いさせる態度なのはお前だろ、世利」
その声はゆっくりと落ち着いていたが、間違いなく怒りを孕んでいた。

──え、何の話?
優成の言っていることが全く理解できず、俺は優成の顔を見返した。

「お前、さっき塩野さんと何話してた?
頬赤らめて、あんなに擦り寄って……」

「あっ……!」
俺はさっきの塩野との風俗トークを思い出して、裏返った声を上げた。

「ち、ちがっ……あれは!風俗の話を……!」
言いかけて慌てて口を押さえた。
言ったら言ったで余計にやばい。

優成は眉をひそめ、ジロッと俺を睨む。
「……風俗の話をして、あんな顔してたのか」

「いや、だから!俺は別に塩野にその……!
ただ、ちょっと……興奮しただけで……」

「興奮した?
塩野さんとそういうことしたいの?」
優成の低い声がすぐ隣で響き、背中がゾワリと震える。

「違う!そんなわけないだろ!」
必死に否定したのに、言葉が空回りする。

優成は俺から目を逸らさず、苛立ちと、何か別の感情が混ざった視線を投げかけてきた。

「世利……お前、誰にでもあんな顔すんの?」
その声は僅かに寂しそうで、俺の心臓をぎゅっと押し潰した。



「はぁ……」
俺が何も答えられずに黙っていると、優成が静かにため息を吐いた。

「まぁ、とりあえず今夜は残業だから。
また今度話そう」
俺と視線を合わせることなく優成は淡々と告げた。
それが逆に悲しいような、寂しいような……。胸の奥に重たいものが沈んでいく。

「うん、わかった。また今度……」
絞り出すように答えると、優成は短く頷き、立ち上がった。

人の流れに紛れていく背中を、俺はただ見送るしかなかった。

──また今度。
そう言われただけなのに、まるで距離を置かれたように感じてしまう。
優成を頼りきっていただけに、少しのことで胸に穴が開いたようだった。


それに俺、さっき……どんな顔してたんだ?
塩野と話して、頬赤らめて、鼻息荒くして……。

誰にでも、あんな顔してたのか?
優成は、それを見てどう思ったんだろう。

ベンチに一人残され、冷たい風に頬を撫でられながら、俺は自分の顔を両手で覆った。




自分の会社に戻った俺は、デスクでしばらくぼんやりと資料を眺めていた。
頭に浮かぶのは、優成の低い声と鋭い視線ばかり。

──誰にでも、あんな顔してんの?

その言葉が、胸の奥で何度も反響していた。

結局、午後は仕事に集中できないまま、最低限のタスクだけを片付けて会社を出た。

あたりが暗くなり始める頃、俺は人混みの中をぼんやりと歩いていた。
たまにポツポツと頬に雨が当たったが、傘を持ってなかったせいで濡れながら帰った。
何を考えていたのか、どんな道を通ったのかもよく覚えていない。

気づけば、アパートまで帰ってきていた。
エントランス脇の花壇の縁に、傘をさした人影がひっそりと腰掛けていた。
ぼやけた街灯の光に照らされ、風に金色の髪が揺れている。

俺の姿を見つけると、その人影が静かに立ち上がった。

「おかえり、世利さん」

柔らかそうな髪をなびかせて、三ツ木梓──レイチェルが微笑んでいた。
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