23 / 50
9-3 誰にでもあんな顔すんの?
しおりを挟む
優成の会社から出てきた俺たちは、近くのベンチに腰を掛けた。
なんとなく気まずい空気が流れ、俺は話し出すタイミングを見失っていた。
目の前を行き交う人たちを見ながら、しばらく優成の様子をうかがう。
「今朝は会えなくてごめん。体は大丈夫か?」
軽く握った自分の手を見ながら、優成が声をかけてきた。
「うん、体は大丈夫。でも男に戻ってるよ」
俺は自分の股間をポンポン、と叩きながら優成に説明した。
「……また、変化したのか。一体何が引き金になってんだ?」
俺の股間にチラリと目線を移したあと、優成は顎に手を当てて俯いた。
「そのことなんだけど、今夜俺の家で話せないかな?朝、LINE送ったんだけど……」
「あぁ、実は今夜、残業することになって……佐々山さんと。また明日でもいいか?」
優成の言葉に俺は体をピクッと震わせた。
「…………佐々山さんと?」
「さっきの案件、二人で詰めることが多くてさ」
優成はあくまで仕事の一環、という顔で答える。
「二人きりで、打ち合わせ……」
頭の中に、佐々山さんが優成に熱っぽい視線を送っていた光景が浮かんできた。
その頬の赤みまで鮮明に思い出してしまい、胸がきゅうっと締め付けられる。
「世利?」
俺の沈黙に気づいた優成が、怪訝そうに俺を覗き込んできた。
優成と視線が交わった瞬間、胸の内を覗かれたような気がして一瞬息が止まった。
そして俺は、言わなくてもいい事を口走ってしまった。
「優成、あんまり佐々山さんを勘違いさせるような態度は良くないよ」
「…………は?なんだそれ」
優成の目が細められ、声に少しだけ苛立ちが混じった。
「……あ、いや」
焦った俺は慌てて訂正しようとしたが、それはもう遅かった。
「勘違いさせる態度なのはお前だろ、世利」
その声はゆっくりと落ち着いていたが、間違いなく怒りを孕んでいた。
──え、何の話?
優成の言っていることが全く理解できず、俺は優成の顔を見返した。
「お前、さっき塩野さんと何話してた?
頬赤らめて、あんなに擦り寄って……」
「あっ……!」
俺はさっきの塩野との風俗トークを思い出して、裏返った声を上げた。
「ち、ちがっ……あれは!風俗の話を……!」
言いかけて慌てて口を押さえた。
言ったら言ったで余計にやばい。
優成は眉をひそめ、ジロッと俺を睨む。
「……風俗の話をして、あんな顔してたのか」
「いや、だから!俺は別に塩野にその……!
ただ、ちょっと……興奮しただけで……」
「興奮した?
塩野さんとそういうことしたいの?」
優成の低い声がすぐ隣で響き、背中がゾワリと震える。
「違う!そんなわけないだろ!」
必死に否定したのに、言葉が空回りする。
優成は俺から目を逸らさず、苛立ちと、何か別の感情が混ざった視線を投げかけてきた。
「世利……お前、誰にでもあんな顔すんの?」
その声は僅かに寂しそうで、俺の心臓をぎゅっと押し潰した。
「はぁ……」
俺が何も答えられずに黙っていると、優成が静かにため息を吐いた。
「まぁ、とりあえず今夜は残業だから。
また今度話そう」
俺と視線を合わせることなく優成は淡々と告げた。
それが逆に悲しいような、寂しいような……。胸の奥に重たいものが沈んでいく。
「うん、わかった。また今度……」
絞り出すように答えると、優成は短く頷き、立ち上がった。
人の流れに紛れていく背中を、俺はただ見送るしかなかった。
──また今度。
そう言われただけなのに、まるで距離を置かれたように感じてしまう。
優成を頼りきっていただけに、少しのことで胸に穴が開いたようだった。
それに俺、さっき……どんな顔してたんだ?
塩野と話して、頬赤らめて、鼻息荒くして……。
誰にでも、あんな顔してたのか?
優成は、それを見てどう思ったんだろう。
ベンチに一人残され、冷たい風に頬を撫でられながら、俺は自分の顔を両手で覆った。
自分の会社に戻った俺は、デスクでしばらくぼんやりと資料を眺めていた。
頭に浮かぶのは、優成の低い声と鋭い視線ばかり。
──誰にでも、あんな顔してんの?
その言葉が、胸の奥で何度も反響していた。
結局、午後は仕事に集中できないまま、最低限のタスクだけを片付けて会社を出た。
あたりが暗くなり始める頃、俺は人混みの中をぼんやりと歩いていた。
たまにポツポツと頬に雨が当たったが、傘を持ってなかったせいで濡れながら帰った。
何を考えていたのか、どんな道を通ったのかもよく覚えていない。
気づけば、アパートまで帰ってきていた。
エントランス脇の花壇の縁に、傘をさした人影がひっそりと腰掛けていた。
ぼやけた街灯の光に照らされ、風に金色の髪が揺れている。
俺の姿を見つけると、その人影が静かに立ち上がった。
「おかえり、世利さん」
柔らかそうな髪をなびかせて、三ツ木梓──レイチェルが微笑んでいた。
なんとなく気まずい空気が流れ、俺は話し出すタイミングを見失っていた。
目の前を行き交う人たちを見ながら、しばらく優成の様子をうかがう。
「今朝は会えなくてごめん。体は大丈夫か?」
軽く握った自分の手を見ながら、優成が声をかけてきた。
「うん、体は大丈夫。でも男に戻ってるよ」
俺は自分の股間をポンポン、と叩きながら優成に説明した。
「……また、変化したのか。一体何が引き金になってんだ?」
俺の股間にチラリと目線を移したあと、優成は顎に手を当てて俯いた。
「そのことなんだけど、今夜俺の家で話せないかな?朝、LINE送ったんだけど……」
「あぁ、実は今夜、残業することになって……佐々山さんと。また明日でもいいか?」
優成の言葉に俺は体をピクッと震わせた。
「…………佐々山さんと?」
「さっきの案件、二人で詰めることが多くてさ」
優成はあくまで仕事の一環、という顔で答える。
「二人きりで、打ち合わせ……」
頭の中に、佐々山さんが優成に熱っぽい視線を送っていた光景が浮かんできた。
その頬の赤みまで鮮明に思い出してしまい、胸がきゅうっと締め付けられる。
「世利?」
俺の沈黙に気づいた優成が、怪訝そうに俺を覗き込んできた。
優成と視線が交わった瞬間、胸の内を覗かれたような気がして一瞬息が止まった。
そして俺は、言わなくてもいい事を口走ってしまった。
「優成、あんまり佐々山さんを勘違いさせるような態度は良くないよ」
「…………は?なんだそれ」
優成の目が細められ、声に少しだけ苛立ちが混じった。
「……あ、いや」
焦った俺は慌てて訂正しようとしたが、それはもう遅かった。
「勘違いさせる態度なのはお前だろ、世利」
その声はゆっくりと落ち着いていたが、間違いなく怒りを孕んでいた。
──え、何の話?
優成の言っていることが全く理解できず、俺は優成の顔を見返した。
「お前、さっき塩野さんと何話してた?
頬赤らめて、あんなに擦り寄って……」
「あっ……!」
俺はさっきの塩野との風俗トークを思い出して、裏返った声を上げた。
「ち、ちがっ……あれは!風俗の話を……!」
言いかけて慌てて口を押さえた。
言ったら言ったで余計にやばい。
優成は眉をひそめ、ジロッと俺を睨む。
「……風俗の話をして、あんな顔してたのか」
「いや、だから!俺は別に塩野にその……!
ただ、ちょっと……興奮しただけで……」
「興奮した?
塩野さんとそういうことしたいの?」
優成の低い声がすぐ隣で響き、背中がゾワリと震える。
「違う!そんなわけないだろ!」
必死に否定したのに、言葉が空回りする。
優成は俺から目を逸らさず、苛立ちと、何か別の感情が混ざった視線を投げかけてきた。
「世利……お前、誰にでもあんな顔すんの?」
その声は僅かに寂しそうで、俺の心臓をぎゅっと押し潰した。
「はぁ……」
俺が何も答えられずに黙っていると、優成が静かにため息を吐いた。
「まぁ、とりあえず今夜は残業だから。
また今度話そう」
俺と視線を合わせることなく優成は淡々と告げた。
それが逆に悲しいような、寂しいような……。胸の奥に重たいものが沈んでいく。
「うん、わかった。また今度……」
絞り出すように答えると、優成は短く頷き、立ち上がった。
人の流れに紛れていく背中を、俺はただ見送るしかなかった。
──また今度。
そう言われただけなのに、まるで距離を置かれたように感じてしまう。
優成を頼りきっていただけに、少しのことで胸に穴が開いたようだった。
それに俺、さっき……どんな顔してたんだ?
塩野と話して、頬赤らめて、鼻息荒くして……。
誰にでも、あんな顔してたのか?
優成は、それを見てどう思ったんだろう。
ベンチに一人残され、冷たい風に頬を撫でられながら、俺は自分の顔を両手で覆った。
自分の会社に戻った俺は、デスクでしばらくぼんやりと資料を眺めていた。
頭に浮かぶのは、優成の低い声と鋭い視線ばかり。
──誰にでも、あんな顔してんの?
その言葉が、胸の奥で何度も反響していた。
結局、午後は仕事に集中できないまま、最低限のタスクだけを片付けて会社を出た。
あたりが暗くなり始める頃、俺は人混みの中をぼんやりと歩いていた。
たまにポツポツと頬に雨が当たったが、傘を持ってなかったせいで濡れながら帰った。
何を考えていたのか、どんな道を通ったのかもよく覚えていない。
気づけば、アパートまで帰ってきていた。
エントランス脇の花壇の縁に、傘をさした人影がひっそりと腰掛けていた。
ぼやけた街灯の光に照らされ、風に金色の髪が揺れている。
俺の姿を見つけると、その人影が静かに立ち上がった。
「おかえり、世利さん」
柔らかそうな髪をなびかせて、三ツ木梓──レイチェルが微笑んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
壁乳
リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。
最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。
じれじれラブコメディー。
4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。
(挿絵byリリーブルー)
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた
こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる