毎朝俺の悲鳴から始まる!世話焼き幼馴染の溺愛治療

えなが つぐみ

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16-1 流通に関してはあまり詳しくないの

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レイチェルはそれだけ言うと、荒い息を整えながら、俺とトモロウがいるテーブルまで近づいてきた。
よく見ると頬も少し赤らんでいて、髪もボサボサだ。
きっとこの占いの館まで走ってきたのだと想像できた。

レイチェルは、立ち尽くす俺の隣に来ると、テーブルの上にある“聖なるガラス瓶”を一瞥した。
そしてトモロウに視線を移して、一度小さくため息をついた。

「トモロウ、駄目だよ。
世利さんには変なもの売りつけないでって言ったでしょ?」

──変なもの?

俺はレイチェルの顔とガラス瓶を交互に見つめた。
そして、俺はガラス瓶を指差し恐る恐るレイチェルに問いかけた。

「もしかして、変なものって……これのこと?」

「そうだよ。
世利さんは、危うく悪徳商法に引っかかるところだったんだよ」
レイチェルは俺をまっすぐ見つめて答えた。

「悪徳商法っ?!」
俺は勢いよくトモロウの顔を睨みつけると、彼は自分の頬に手のひらを当て微笑んでいた。

「帰ってきて早々何かしら?
やめてよ、悪徳商法なんて言いがかりだわ」

トモロウの余裕のある態度に、俺は口を開けたまま固まった。
しかし、レイチェルは“聖なるガラス瓶”を持ち上げて、じっくりと観察しながらトモロウに言い返す。

「言いがかりだって?
……これ、そこの雑貨屋に売ってたけど?」

「あら、そうなの?流通に関してはあまり詳しくないの」

流通って……。
俺は二人のやり取りを唖然として聞いていた。

──俺、詐欺られるところだった?

さっきまでとは違う種類の汗が俺の背中を伝っていく。

「世利さん、こんなの相手にしてちゃ駄目だよ!外に行こう!」

「レイチェ……わっ!」

レイチェルは、俺の腕を掴み占いの館から走るように飛び出した。
俺は足をもつれさせながら、必死にレイチェルの後を追った。



──バタンッ!

勢いよく開いた扉の先は、もう夜の帳が下りていた。
路地の奥にある占いの館の前には人影はなかったが、すぐ近くからは飲み屋の喧騒が聞こえた。
頬に当たる夜風が、さっきまでの甘ったるい香りをどこかへさらっていった。

レイチェルは外に出るとすぐに掴んでいた手を離して振り返った。

「世利さん、大丈夫だった?
あたしが遅れたせいで、怖い思いさせちゃったね」
眉間にシワを寄せ暗い顔のレイチェルに、俺はできるだけ明るい声で語りかけた。

「レイチェルが来てくれたおかげで、俺は平気だったよ。
それより、レイチェルの方こそ大変なんだろ?」
俺の問いかけに、レイチェルは小さく首を傾げた。

「大変?もしかして、裁判のこと?」

「うん。トモロウに聞いたんだ。
レイチェルが詐欺罪で裁判所に行ってたこと。
それと、レイチェルは占いの仕事ができなくなったってことも……」

俺は、トモロウに聞いた内容をレイチェルに伝えた。
レイチェルの気持ちを考えると、言葉にしながら胸が締め付けられた。

「そっか、呪いの代償の話……聞いちゃったんだね」
その声は呟くように小さかった。
俺は、レイチェルの目を見てしっかりと頷いた。

「はあぁぁー……」
レイチェルは一度大きくため息をついた。
その大きさに俺の肩が一瞬ビクッと跳ねる。

「トモロウなんで喋っちゃったんだろ。
世利さんには呪いの代償のこと、秘密にしてようと思ってたのに」

レイチェルは大きく肩を落とした。

「なんで俺には秘密にしてたの?
俺は前回会ったときに話してほしかったよ」

前回、レイチェルは代償については何も話さなかった。
話してくれていれば、俺は優成が失ってしまった“友情”について、もっと考えることができたかもしれないのに。
それに、レイチェルのことだって、何かしてあげられたかもしれない。

俺の言葉にレイチェルは、小さな声で反論した。
「だって……世利さんにこれ以上は迷惑かけられないよ」

「迷惑って……俺には代償がないんだから、話してくれても大丈夫だったよ」
そう言うと、レイチェルは大きく首を振って声を上げた。

「大丈夫なわけない!
優成が苦しむって知ってたら、世利さんは告白の答えなんて出せなかった!」

「あっ……」

レイチェルの反論に、俺は言葉を失った。

代償を背負って付き合うか。
因果から抜けて別れるか。

そんなことを考えていたら、優成に思いを伝えることなんて俺にはできなかったはずだ。

俺は俯くレイチェルをただ見つめた。
この子は、俺の重荷にならないように、代償のことを話さないでいてくれたんだ。

「世利さんには、呪いなんてものかけちゃって、本当に申し訳ないと思ってるんだ。
だから、代償のことは考えないで生きてほしかった」

「レイチェル……。
君は、自分が大変な思いをしているのに、俺のことまで考えてくれてたんだね」

レイチェルは、一番大切にしていた“占いの仕事”を失って悲しくないわけがない。
それでも、俺の選択の自由を守るために行動してくれていた。

俺はレイチェルの優しさに気づいて、胸が苦しいほど嬉しくなった。

俯く俺の腕に、レイチェルの温かい手が添えられた。

「世利さんのことを心配してるのは本当だけど、あたしのことは実は大したことじゃないんだよ」

「レイチェル、強がらないでよ。
君が辛くないわけないんだ」
俺は、レイチェルが俺に心配かけないように言ってる言葉だと思って、優しく声をかけた。
それでもレイチェルは、表情を変えずに口を開いた。

「ううん、本当だよ。
裁判も落ち着きそうだし、それに次にやりたいことも見つけてるんだ」

「……え、次?占いの仕事は?」

「占いの仕事は流石にできないけどさ。
あたしのやりたいことって、それだけじゃないんだ」

微笑みながら話すレイチェルが強がって言っているようには見えなくて、なんだか俺は体の力が一気に抜けた。

レイチェルは、拳に力を入れてガッツポーズを見せる。
それだけで、この場の空気が軽くなったように感じた。

「トモロウにどこまで話を聞いたのかわからないけど、代償ってそんなに怖がらなくてもいいんだよ」
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