毎朝俺の悲鳴から始まる!世話焼き幼馴染の溺愛治療

えなが つぐみ

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16-2 形を変えて存在し続けるの

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代償はそんなに怖がらなくてもいい?
どういうことだよ、それ。

占いの代償の『一生消えない』『理由はわからないけど絶対』という重い話を、ついさっきトモロウから聞かされたばかりなのに。

俺はレイチェルの言葉を、そのまま鵜呑みにすることはできなかった。

「それは、トモロウの話が嘘ってこと?」
俺はレイチェルに問いかけた。

トモロウが詐欺師だとわかった今、俺は占いの代償の話がどこまで信用していいか確かめなきゃいけないと思った。

「どこまで話を聞いたの?」
今度はレイチェルが俺に聞いた。

「えっと……呪いには代償があって、発動者の一番大切なものが失われているってこと。
それから、発動者同士はもう会えないってこと……かな」

俺は、トモロウから聞いた話を思い出しながらレイチェルに答えた。

すると、レイチェルは小さく頷いてから口を開いた。
「うん、それは本当の事だよ。
トモロウは変な商売する人だけど、魔法や呪いについては嘘はつかないよ」

「……そ、そっか」
トモロウの話が真実ではないことを期待していた俺は小さく肩を落とした。

そして、俺はレイチェルに問いかけた。
「それなら、レイチェルはなんで代償が怖くないなんて言えるの?
君だって、仕事を失うほどの代償を背負ってるんだよ?」

「うーん……」
レイチェルは手を口元に当てて、少し考えているようだった。

居酒屋通りの人のざわめきが、路地裏まで聞こえてくる。
さっきまで薄ら明るかった空には、星がいくつも瞬いていた。

しばらくして、レイチェルは俺を見つめてから軽い調子で語り始めた。

「まず、発動者同士が会えない代償はあたし的にどうでもいいことかな。
だって、そもそも優成と会ったことないし」

「それは……確かにそうだね」
レイチェルと優成の接点は、今は存在しないレイチェルの占いサイトだけだ。
会ったこともない人との縁を切られても、確かにダメージは少ない。

「じゃあ、占いの仕事をなくしたことは?」

俺の問いに、レイチェルは少しだけ視線を横に向けた。
風に揺れる髪を耳にかけて見えた横顔は、どこか遠くを見ているようだった。

「占いの仕事は、私にとって一番大切なものだったから本当につらかったよ。
実際、詐欺で悪い噂が広まっちゃったから、占いの仕事はもうできないしね」
その声は淡々としていたけれど、言葉の奥に消えない痛みが隠れているのを感じた。


そこで俺は、聞くに聞けないでいた疑問をレイチェルに投げかけた。
「そこだよ!どうして詐欺なんてしたの?」

思わず声が強くなった。
さっきトモロウの詐欺に怒っていた姿を見ても、レイチェルは詐欺なんてするような人じゃないと思っていた。

すると彼女は苦しそうに微笑みながら、俺に視線を向けてきた。

「詐欺をしようと思ったわけじゃないよ。
ただ、お金をもらっていたのにずっと魔法を失敗してたから訴えられちゃったの。
たぶん代償の力も作用して、普通なら訴えられないことで訴えられちゃったんだと思う」

──なんだそれ!ファンタジーの世界観?!
いや、でも俺にも呪いがかかってるわけだし……。

俺は現実と非現実の間に立たされているようで、頭がぐちゃぐちゃになった。


「でも、その裁判も落ち着いてきたし、この件は大丈夫だと思うよ」
レイチェルは少しだけ笑みを浮かべた。

「それなら良かったけど……。
俺にできることがあったら何でも言ってほしい」
俺は思わず言葉を重ねていた。
彼女の苦しみを少しでも軽くできるなら、今からでも助けになりたいと思った。

「ありがとう、世利さん」
レイチェルの声は柔らかく、俺の気持ちを汲んでいるようだった。


遠くで電車が通り過ぎる音が聞こえた。
それがすっと消えたタイミングで、俺は口を開いた。

「けど、占いの仕事ができなくなったことは、もう気持ちの整理ができたの?
さっき、次にやりたいことも見つけてるって言ってたけど……」

俺が問いかけると、レイチェルの表情が一瞬で明るくなった。
そして、その場で跳ねる勢いで話を始めた。

「うん!あたしさ、アパレルに興味があるんだ」

「ア、アパレル!?」

思わず声が裏返った。
占いだの呪いだの言っていた彼女からは、想像もつかない答えだったからだ。

俺の驚きをよそに、レイチェルは楽しそうに笑みを浮かべる。

「そう!実はもう服屋でバイトも始めてるの」

その言葉に俺は目を丸くした。
俺はレイチェルの立ち直りの速さに驚きを隠せないでいた。

「ちょ、ちょっと待って。
レイチェルにとっての占いの仕事って失っても平気なものだったの?
呪いの代償って、そんなものなのか?」

俺の疑問にレイチェルは首を横に振り、真剣な眼差しを向けてきた。

「違うよ、あたしにとって占い師になることは、物心ついたときから目指していたものだった。
これまで積み重ねてきたものが無意味になったんだ。あたしにとっても代償は重いものだったよ。」

その声には、悔しさと誇りが入り混じっていた。
俺は胸の奥が締め付けられるように痛んだ。

しかし俺の気持ちをよそに、レイチェルはチラッと俺の目を見て優しく微笑んだ。

「でもね、占いの仕事ができなくてもあたしは占いが好き!」

その明るい声で、強がりではなく本心からの言葉だとわかった。

「これからも占いをすることはできるし、占い師になるために頑張ってきたことが、違うかたちで実ることもあるかもしれない」

そう言ってレイチェルは空を見上げた。
瞬く星を見つめる彼女の言葉が、俺の心に少しずつ染み込んでくる。

「呪いの代償は一番大切なものを奪っていったけど、あたしの中では形を変えて存在し続けるの」

「形を……変えて?」

「そうだよ、世利さん。
あたしは呪いの代償を自分の形に変えてこれからの人生を進んでいくよ」

その瞬間、レイチェルの姿が眩しく感じられた。
レイチェルの持っているものは、ただの前向きさや正しさだけじゃない。
失ったものを悲しむだけでなく、未来へと繋げようとする強さが、彼女の輝きなんだとわかった。



──俺と優成も、レイチェルみたいに未来を変えられるのかな

俺はトモロウに言われた“失われた友情”について考えた。
でも俺は、まだ失われている実感をもっていない。
そもそも、恋人になって友情を失うって言葉の意味が理解できないでいる。

そのせいで俺の頭の中がモヤモヤして、全く考えがまとまらない。

俺はレイチェルを見つめてから口を開いた。
「あのさ、俺と優成の友情が失われてるって話に、まだ納得がいかないんだ」

するとレイチェルは小首をかしげた。
「なにがわからないの?」

「だって、友情が失われても俺たちは今までどおりなんだ。実感が湧かないんだよ」

眉間にしわを寄せながら話す俺を、レイチェルはしばらく眺めていた。
俺たちの間に一筋の風が通ると、レイチェルはやっと俺の質問に答えをくれた。

「それはそうかも。
世利さんには“優成の友情”を実感できないかも」

「優成の……友情?俺たちの友情でしょ?」

「うん。でも優成はね、世利さんと同じような気持ちを抱えていたわけじゃないんだよ」

俺はその言葉のせいで余計に頭が混乱した。

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