リンドベルへようこそ

染舞(ぜんまい)

文字の大きさ
4 / 12
料理人ダンのレシピ帳

第1話「ストレイト鳥の唐揚げと肉好きなギルド長」

しおりを挟む


 リンドベルの朝は早い。
 まだ日が昇りきっていない中、家の外に出て、もしくは窓から結界樹を見て祈る――リンドベルで育った者たちの日課だ。

 冒険者ギルドから歩いて五分もない場所にある小さな食堂。
 そこでも一人の男性が窓から見える結界樹を見上げ、ニカッと笑った。

「ははっ、今日もでかいな」

 軽く目を瞑っただけで起き上がった彼――ダンは、睡眠で固まった体をゆっくりとほぐす。膝も慎重に伸ばした。そして身だしなみを軽く整えると厨房へ向かう。
 若干だけ、左足を引きずるようにしながら動く彼が通り過ぎた壁には、一枚の写真。焦げ茶の髪の男と少し若いダンが、各々の得物である大剣と杖を掲げて笑っていた。

 ダンは保存庫を覗き込む。

「たしかスレイト鳥の肉がまだ……あったあった! 今日はこいつで揚げ物にでもするか。あいつは『肉だ! 肉!』ってうるせぇし、これなら満足するだろ」
 独り言を言いながら、ダンは手際よく鶏肉を取り出して下準備をする。
 彼の店は朝は開かない。昼からだ。店の開店準備をしつつ、自分用の朝食には銀鱗魚を塩焼きにする。ダンは年下の幼馴染と違い、肉より魚派だ。
 それにランデルの葉をメインにした和え物なども用意してしっかりとした朝食の完成だ。
 昼間には肉好きと同時にさっぱり好きという真逆の趣味の二人組がやってくるため、両方を用意しないといけないので気合を入れなければ。

「……って、そういやコーヒー切らしてたか」
 物静かな銀色の髪を揺らす姿をダンは頭に浮かべる。
 きっと礼儀正しい彼のことだ。コーヒーがないといっても文句は言わないだろうが、残念そうにするだろう。彼は表情こそ動かさないが、目がよく語る。
 幼馴染の面倒を見てくれているのだ。気遣ってやりたい。
 ダンはそう思って、他の食材を買うついでにコーヒーも買いに行くことにした。

 朝食を食べて外に出ると

「あー、でも……ワクワクするなぁ!」
 
 なんとも元気そうな声が聞こえ、ダンは思わずそちらを見る。
 耳の尖った少女――エルフだろうか。目をキラキラと輝かせて北――冒険者ギルドの方へ向かっていく。
 どうやら今日もまた、新しい冒険者、彼の後輩が増えるようだった。

「あの嬢ちゃん、あいつらにビビらさられないと良いが」
 冒険者ギルドのトップは顔がいかつく、その補佐は無愛想だ。
 そんな心配をして肩を軽くすくめたダンに「ん? お、ダンじゃねえか。珍しいな、こんな時間に」と彼に声をかけたきた人物がいた。

 焦げ茶の髪をオールバックにした大男。ただでさえゴツいというのに左目に黒い眼帯をつけ、残った右目も鋭く周囲を睥睨しているので威圧感が凄まじい。



 大男――ギルド長のギルバート=レイグは、しかしニカッと人懐っこく笑った。

「いつも仕入れは人任せか、夜にしかしないやつが朝から市場とは、急用か? 俺が獲ってきてやろうか?」
「ギル、あのなぁ。俺だって朝に出かけることはあるさ」
 人を何だと思ってるんだ、とダンが睨むもギルバートは意に介さずに大声で笑い、彼の肩を叩く。

「がははっ! でも事実だろ」
「――今日の飯、野菜だらけにしてやろうか?」
「おいおいっ、それは勘弁してくれよ! あ、まさか肉がねえのか!? 今から獲ってきてやる! クリムホッグでいいか?」
 今すぐに飛び出ていきそうなギルバートに、ダンは額を押さえた。
「やめろ。肉ならある。俺を言い訳にダンジョンでサボろうとするんじゃねえよ。レイヴンに迷惑かけてやるなって」
「ははは、バレたか!」
 からからと笑うギルバートにダンは呆れる。こんな適当な男が上司だなど、レイヴンには同情する……心の底から。

「で、今日は何なんだ?」
「スレイト鳥の唐揚げだ」
「おおっまじか! ダン兄の唐揚げは絶品だからなぁ! こりゃ楽しみができたぜ」
 そんなやり取りをしながら、ダンは慣れた様子で買い物をしていく。ギルバートの話は適当に流すのがコツだ。

(レイヴンは適当に、が出来ないからなぁ。そこがいいところなんだが、この男の元じゃ苦労の元だな)

 銀髪眼鏡で周囲からは『氷の副長』と呼ばれるレイヴンだが、その実態はただの真面目で上司に苦労している男だということを知っている者は、数少ない。
 ダンは街の人々と楽しげに話しているギルバート(もう出勤時間のはずだが、仕事はどうした)を横目で見て息を吐く。
 そして今日の昼間は、レイヴンの胃に優しいメニューを作ってやろうと彼は思うのだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき
ファンタジー
冒険者ナザルは油使い。 魔力を油に変換し、滑らせたり燃やしたりできるユニークスキル持ちだ。 その特殊な能力ゆえ、冒険者パーティのメインメンバーとはならず、様々な状況のピンチヒッターをやって暮らしている。 実は、ナザルは転生者。 とある企業の中間管理職として、人間関係を良好に保つために組織の潤滑油として暗躍していた。 ひょんなことから死んだ彼は、異世界パルメディアに転生し、油使いナザルとなった。 冒険者の街、アーランには様々な事件が舞い込む。 それに伴って、たくさんの人々がやってくる。 もちろん、それだけの数のトラブルも来るし、いざこざだってある。 ナザルはその能力で事件解決の手伝いをし、生前の潤滑油スキルで人間関係改善のお手伝いをする。 冒険者に、街の皆さん、あるいはギルドの隅にいつもいる、安楽椅子冒険者のハーフエルフ。 ナザルと様々なキャラクターたちが織りなす、楽しいファンタジー日常劇。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

過労死した俺、異世界で最強農業チートに目覚める。神農具で荒野を楽園に変えたら、エルフや獣人が集まって最高の国ができました

黒崎隼人
ファンタジー
「君、死んじゃったから、異世界で国、作らない?」 ブラック企業で過労死した俺、相川大地。 女神様から授かったのは、一振りで大地を耕し、一瞬で作物を育てる**最強の『神農具』**だった!? 右も左もわからない荒野でのサバイバル。 だけど、腹ペコのエルフ美少女を助け、頼れるドワーフ、元気な猫耳娘、モフモフ神狼が仲間になって、開拓生活は一気に賑やかに! 美味しいご飯とチート農具で、荒野はあっという間に**「奇跡の村」**へ。 これは、ただの農民志望だった俺が、最高の仲間たちと世界を救い、種族の壁を越えた理想の国『アグリトピア』を築き上げる物語。 農業は、世界を救う! さあ、今日も元気に、畑、耕しますか!

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

〖完結〗終着駅のパッセージ

苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。 彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。 王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは振り返る。 夫と婚姻してから三年という長い時間。 その間に夫が帰宅したのは数えるほどだった。 ※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。

処理中です...