3 / 12
新米冒険者カイリの場合
最終話「副ギルド長に期待されました!」
しおりを挟む
そうして……そして。
ついに。
ついにやって来た――初心者講習が!
「…………」
ごくり、とつばを飲み込みつつ、カイリは講習のドアに手をかけた。ライラはいない。受けるのはカイリ一人なので当然ではあるのだが、「逃げた」という印象になるのはなぜだろう。
ドアを開けると、カイリ以外の新米冒険者らしき姿が数人いて、彼女は無意識にホッとする。
「来ましたか」
しかし次の瞬間に聞こえた平坦な声にぴしりと固まる。
見れば講師がいるべき場所に一人の男が立っていた。
青い服。長い銀色の髪。麗しい、という表現が相応しいほどの整った顔。そしてまるで動かない氷のように冷たい表情。
それらはライラから聞いていた副ギルド長――レイヴンそのもので、カイリは体を縮める。
レイヴンは眼鏡に軽く触れ、冷たく輝く水色の瞳でそんなカイリを見下ろした。
「……あなたがカイリ=ラングーですね。あなたで最後です。席に座りなさい」
「は、はいっ! すみません」
ふぇっと半泣きになっていたカイリの言葉に、レイヴンはなぜか少し固まったようだった。
「……別に遅刻ではありません」
ただそれだけをぼそりと呟いたが、焦っているカイリには届いてなさそうだ。小さな段差につまずきながら席に向かっていた。
カイリが席につくと、レイヴンは意識を切り替えるように顔を上げた。
「では、始めます」
瞬間、部屋の空気がピンと張り詰めた。
「今回皆さんの講習を受け持つレイヴンです。副ギルド長をしておりますが……まぁそれはどうでもいいことです」
レイヴンが淡々とした声で自己紹介し、場がざわつく。まさか初心者講習に副ギルド長という高い立場の人が来るとは普通思わない。カイリもあらかじめ聞いていなければ慌てたことだろう。
「受付で『冒険者の心得』は受け取りましたね?
ここには各種手続きの方法や施設、講習、その他の生態やダンジョンについて簡単に書かれているので、各自で確認しておいてください」
彼はそう言うと、もうほとんどその書籍に興味はないようだった。代わりに、新米たちの顔をじっと見つめる。まるで、心に全員の顔を刻みつけるかのように。
(……気の所為、かな?)
カイリは軽く首を振って意識がそれそうになったのを止めた。
「この講習ではもっと大切なこと……『生き残ること』についてを学んでもらいます。なぜならば、どれだけ功績を上げても死んでは意味がないからです」
レイヴンは表情一つ変えずに『死』について淡々と語った。無表情と相まって、とても冷たく聞こえた。
なのでカイリは最初、緊張で体を震わせていた。
しかし、その後に続く講義内容は分かりやすく実践的で、そこにはレイヴンの『生き残って欲しい』という想いが見える気がした。
「――ダンジョンは時折『更新』と呼ばれている内部環境の激変を起こします。
リンドベルのダンジョンが『更新』されてから年月が経っているため、だいぶ調べられていると言えます。ですがそれでもダンジョンは未知の領域です。
何か違和感を覚えたら無視はしないようにしてください。そして必ず報告を。あなたたちの小さな報告が、誰かの命を救うかも知れません」
カイリは必死にレイヴンの話を聞き、彼の冷たく見えた瞳の奥に、優しい光を確かに見た。彼はどこまでもまっすぐにカイリ達を見ていた。そこに『新人だから』という嘲りの色は一切なく、どこまでも真剣だった。
(レイヴン様は、私たちのことをしっかりと考えてくださってるんだ!)
そのことに気づくと、もうカイリに緊張はなくなった。彼女はレイヴンの話をしっかりと聞き、時にメモを取った。いくらここで話を聞いても、実践できるかはわからない。
しかしそれでも、レイヴンの言うことに間違いはないと、カイリは強く信頼していた。
「……事前の情報収集や準備が生死を分けます。心しておくように。以上」
長いようで短い講座が終わる頃には、カイリはすっかりレイヴンを尊敬の目で見つめていた。
「ありがとうございました、レイヴン様! 私、頑張ります!」
素直に、純粋に輝く目を向けられたレイヴンは、相変わらず無表情だったが、少し戸惑っているようにも見えた。資料を抱えた手が、ピクリと少し動く。
「……そうですか。期待してます」
何度か開閉された後にレイヴンが口にしたのは、そんな当たり障りのない言葉。声も相変わらず平坦だ。
しかし彼をよく知る者が見れば分かっただろう。レイヴンの口元が少し、緩んでいることを。
カイリはもちろん、そんなことには気づかない。だが、彼の目の奥にある優しい光に、嬉しそうに笑う。
(これから冒険者として、『生きて』いくんだ!)
そしてそんな風に思うのだった。
ついに。
ついにやって来た――初心者講習が!
「…………」
ごくり、とつばを飲み込みつつ、カイリは講習のドアに手をかけた。ライラはいない。受けるのはカイリ一人なので当然ではあるのだが、「逃げた」という印象になるのはなぜだろう。
ドアを開けると、カイリ以外の新米冒険者らしき姿が数人いて、彼女は無意識にホッとする。
「来ましたか」
しかし次の瞬間に聞こえた平坦な声にぴしりと固まる。
見れば講師がいるべき場所に一人の男が立っていた。
青い服。長い銀色の髪。麗しい、という表現が相応しいほどの整った顔。そしてまるで動かない氷のように冷たい表情。
それらはライラから聞いていた副ギルド長――レイヴンそのもので、カイリは体を縮める。
レイヴンは眼鏡に軽く触れ、冷たく輝く水色の瞳でそんなカイリを見下ろした。
「……あなたがカイリ=ラングーですね。あなたで最後です。席に座りなさい」
「は、はいっ! すみません」
ふぇっと半泣きになっていたカイリの言葉に、レイヴンはなぜか少し固まったようだった。
「……別に遅刻ではありません」
ただそれだけをぼそりと呟いたが、焦っているカイリには届いてなさそうだ。小さな段差につまずきながら席に向かっていた。
カイリが席につくと、レイヴンは意識を切り替えるように顔を上げた。
「では、始めます」
瞬間、部屋の空気がピンと張り詰めた。
「今回皆さんの講習を受け持つレイヴンです。副ギルド長をしておりますが……まぁそれはどうでもいいことです」
レイヴンが淡々とした声で自己紹介し、場がざわつく。まさか初心者講習に副ギルド長という高い立場の人が来るとは普通思わない。カイリもあらかじめ聞いていなければ慌てたことだろう。
「受付で『冒険者の心得』は受け取りましたね?
ここには各種手続きの方法や施設、講習、その他の生態やダンジョンについて簡単に書かれているので、各自で確認しておいてください」
彼はそう言うと、もうほとんどその書籍に興味はないようだった。代わりに、新米たちの顔をじっと見つめる。まるで、心に全員の顔を刻みつけるかのように。
(……気の所為、かな?)
カイリは軽く首を振って意識がそれそうになったのを止めた。
「この講習ではもっと大切なこと……『生き残ること』についてを学んでもらいます。なぜならば、どれだけ功績を上げても死んでは意味がないからです」
レイヴンは表情一つ変えずに『死』について淡々と語った。無表情と相まって、とても冷たく聞こえた。
なのでカイリは最初、緊張で体を震わせていた。
しかし、その後に続く講義内容は分かりやすく実践的で、そこにはレイヴンの『生き残って欲しい』という想いが見える気がした。
「――ダンジョンは時折『更新』と呼ばれている内部環境の激変を起こします。
リンドベルのダンジョンが『更新』されてから年月が経っているため、だいぶ調べられていると言えます。ですがそれでもダンジョンは未知の領域です。
何か違和感を覚えたら無視はしないようにしてください。そして必ず報告を。あなたたちの小さな報告が、誰かの命を救うかも知れません」
カイリは必死にレイヴンの話を聞き、彼の冷たく見えた瞳の奥に、優しい光を確かに見た。彼はどこまでもまっすぐにカイリ達を見ていた。そこに『新人だから』という嘲りの色は一切なく、どこまでも真剣だった。
(レイヴン様は、私たちのことをしっかりと考えてくださってるんだ!)
そのことに気づくと、もうカイリに緊張はなくなった。彼女はレイヴンの話をしっかりと聞き、時にメモを取った。いくらここで話を聞いても、実践できるかはわからない。
しかしそれでも、レイヴンの言うことに間違いはないと、カイリは強く信頼していた。
「……事前の情報収集や準備が生死を分けます。心しておくように。以上」
長いようで短い講座が終わる頃には、カイリはすっかりレイヴンを尊敬の目で見つめていた。
「ありがとうございました、レイヴン様! 私、頑張ります!」
素直に、純粋に輝く目を向けられたレイヴンは、相変わらず無表情だったが、少し戸惑っているようにも見えた。資料を抱えた手が、ピクリと少し動く。
「……そうですか。期待してます」
何度か開閉された後にレイヴンが口にしたのは、そんな当たり障りのない言葉。声も相変わらず平坦だ。
しかし彼をよく知る者が見れば分かっただろう。レイヴンの口元が少し、緩んでいることを。
カイリはもちろん、そんなことには気づかない。だが、彼の目の奥にある優しい光に、嬉しそうに笑う。
(これから冒険者として、『生きて』いくんだ!)
そしてそんな風に思うのだった。
0
あなたにおすすめの小説
俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~
あけちともあき
ファンタジー
冒険者ナザルは油使い。
魔力を油に変換し、滑らせたり燃やしたりできるユニークスキル持ちだ。
その特殊な能力ゆえ、冒険者パーティのメインメンバーとはならず、様々な状況のピンチヒッターをやって暮らしている。
実は、ナザルは転生者。
とある企業の中間管理職として、人間関係を良好に保つために組織の潤滑油として暗躍していた。
ひょんなことから死んだ彼は、異世界パルメディアに転生し、油使いナザルとなった。
冒険者の街、アーランには様々な事件が舞い込む。
それに伴って、たくさんの人々がやってくる。
もちろん、それだけの数のトラブルも来るし、いざこざだってある。
ナザルはその能力で事件解決の手伝いをし、生前の潤滑油スキルで人間関係改善のお手伝いをする。
冒険者に、街の皆さん、あるいはギルドの隅にいつもいる、安楽椅子冒険者のハーフエルフ。
ナザルと様々なキャラクターたちが織りなす、楽しいファンタジー日常劇。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます
今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。
アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて……
表紙 チルヲさん
出てくる料理は架空のものです
造語もあります11/9
参考にしている本
中世ヨーロッパの農村の生活
中世ヨーロッパを生きる
中世ヨーロッパの都市の生活
中世ヨーロッパの暮らし
中世ヨーロッパのレシピ
wikipediaなど
過労死した俺、異世界で最強農業チートに目覚める。神農具で荒野を楽園に変えたら、エルフや獣人が集まって最高の国ができました
黒崎隼人
ファンタジー
「君、死んじゃったから、異世界で国、作らない?」
ブラック企業で過労死した俺、相川大地。
女神様から授かったのは、一振りで大地を耕し、一瞬で作物を育てる**最強の『神農具』**だった!?
右も左もわからない荒野でのサバイバル。
だけど、腹ペコのエルフ美少女を助け、頼れるドワーフ、元気な猫耳娘、モフモフ神狼が仲間になって、開拓生活は一気に賑やかに!
美味しいご飯とチート農具で、荒野はあっという間に**「奇跡の村」**へ。
これは、ただの農民志望だった俺が、最高の仲間たちと世界を救い、種族の壁を越えた理想の国『アグリトピア』を築き上げる物語。
農業は、世界を救う! さあ、今日も元気に、畑、耕しますか!
〖完結〗終着駅のパッセージ
苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。
彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。
王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは振り返る。
夫と婚姻してから三年という長い時間。
その間に夫が帰宅したのは数えるほどだった。
※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜
山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。
息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。
壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。
茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。
そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。
明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。
しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。
仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。
そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
