2 / 12
新米冒険者カイリの場合
第2話「クリムホッグの煮込みは美味しかったです!」
しおりを挟む「え? え?」
きょとんとし、それから不安そうにしだしたカイリを見てライラは慌てたように手を振って、「ああっ」と食堂を指さした。
「ご飯! ご飯食べようよ! 講習まで時間あるし、ギルドのご飯美味しいんだよ~ライラ、お腹ぺこぺこだよ」
なんともわざとらしい話題転換だったが、たしかに昼時。カイリもお腹が空いているし、先程から漂う美味しそうな匂いは気になっていた。
咄嗟にお腹を擦ってしまったカイリにライラは明るく笑い、胸を叩いた。
「よーし! 今日はライラ、後輩ちゃんにお昼ご飯奢っちゃうよ!」
ふふんっと胸を張るライラ。話題転換ではあったものの、ライラ自身『後輩』というものに対して思うところがある……つまり、先輩風吹かせたいようだ。
レイリアがライラをどこか呆れたようでいて、微笑ましそうに見ていた。
「ふふ……ライラもこう言ってますし、たしかに講習まで時間もあるので、お食事してきてください。ここにしかない料理もありますし、他の冒険者の話も聞けるかも知れませんよ」
淡々としつつも優しい声でそう言われ、カイリは頷いた。冒険者ギルドの料理は、たしかに気になる。
ライラが歓声を上げた。
「やったぁ! 行こう行こう! あのね、ライラのオススメはやっぱりクリムホッグだよ! ダンジョンでよく穫れるから新鮮なものから熟成を重ねたベーコンまであって、どれも美味しいんだ!」
にこにこと話すライラに、カイリも緊張を解して目を輝かせ始めた。
「クリムホッグ!? え、でもあの肉、美味しくないよね?」
「チッチッチ! 甘いよ、カイリちゃん! チョコみたいに甘いよ!」
空いている席につきながら、ライラは先輩として話せるのが嬉しいのか、その口は止まらない。そしてカイリもまた、憧れの冒険者から話を聞くのが楽しくてたまらないらしく、キラキラと目を輝かせて話を聞く。
二人の少女のなんとも微笑ましい姿に、周囲で昼間から酒を飲んでいたベテランの冒険者たちも気持ちを和ませていた。
「がはははっ、そうだぜ嬢ちゃん。クリムホッグが不味いってのは外の話。リンドベルダンジョンのやつらは外の倍はデカくて、肉がしまっていて美味いんだぜ?」
和んでいた一人の大男が豪快に笑いながら会話に参加した。焦げ茶の髪をオールバックにし、鋭い青い右目。左目を黒い眼帯で覆ったその男は、いかつい風貌とは似つかぬ人懐っこい笑顔を浮かべていた。
ライラが男を見てぱぁっと顔を輝かせ「ギル長!」と呼んだ。
「聞いて聞いて、ギル長! 今日ね、ライラ、後輩ちゃん出来たの! カイリちゃんって言うんだよ」
男に紹介されるカイリだが、突然のことに目をパチパチと何度か開閉させた。
(ギルちょう……ギル長……ギルド長!?)
頭の中でライラの言葉が変換され、一気にカイリは目が覚めたような感覚になる。慌てて立ち上がる。
「はわっ、す、すみません! さっき登録を済ませたカイリって言います! よろっく、お願いしぁす!」
必死過ぎて舌が回ってないが、その人柄は十分に伝わったのだろう。男、ギルド長のギルバートは鋭い目を楽しげに細めた。
「おうっ、俺はギルバートだ。たしかにギルド長だが、様付けはやめてくれよ? レイヴンのせいで職員連中から様付けされるだけでも鳥肌立ってしょうがねーんだからな」
まったくあいつは頭がかてー。
と、ギルバートはここにはいない副官に文句を言いつつ、カイリの肩をバンバンと叩く。少し痛いが、加減はしてくれてるのだろう。その後、ぐしゃぐしゃとライラと同時に頭を撫でられる。
「わわわっ」
「わー! ちょっと、ギル長! 頭めちゃくちゃになっちゃうよぉ!」
どうして良いかわからないカイリに対し、ライラは反論していたがどこか嬉しそうだ。悪い悪いと軽く謝るギルバートとのやり取りは、どこか親子のように見えた。
「悪いって。よしっ、お詫びと新しい仲間を祝して俺が奢ってやる! 好きなの頼め!」
カイリはぽかんと口を開けていた。
何せ、リンドベルの冒険者ギルドといえば世界各地のギルドの総本山。そんな組織のトップが目の前にいて、そんなすごい人に頭を撫でられたのだ。――彼女の思考の限界を超えていた。
しかしライラは無邪気に飛び跳ねていた。
「ほんとっ? やったー! じゃあライラ、クリムホッグのルブルート煮と、焼き立てパンと……食後のチョコパフェ! カイリちゃんどうする?」
急に注文を聞かれたが、カイリはもういろんなことが起こりすぎて考える気力がなかった。
「え、ええ? じゃあ、ライラちゃんと同じで」
「分かった!」
「良いもん頼むじゃねえか。うちのクリムホッグは普通でも美味いんだが、ベテランが解体して処理してるから、他の街とはまた違うぜ?」
ニッと笑うギルバートからは、どこか誇らしげな空気を感じた。
(解体する人と知り合いなのかな?)
カイリは疑問に思ったが質問する気力はなかった。
そして運ばれてきたクリムホッグの煮込み料理は、想像していた数倍は美味しかった。
臭みはなく、筋っぽい感触もなく、程よい脂身と赤身のバランスが最高で、それが赤い根菜のルブルートのソースとよく合った。
「美味しいでしょ? で、パンをこのソースつけると……ん~~~、最高っ」
ライラが頬を押さえて叫ぶのを見て、ごくりとつばを飲み込んだカイリ。彼女の真似をしてパンを一口。
途端に口の中に広がる小麦の香りとソースの酸味がちょうどよいハーモニーを生み出した。
これが毎日食べられるなんて、冒険者って最高。
と、とても単純に思った。
ちなみに冒険者ギルドの食堂兼酒場では、冒険者以外も食事をできるが冒険者証を出すと割引してくれるらしい。
今回は奢ってもらったが、これはいい情報を聞けたとカイリは思った。
「ギルドのご飯は美味しいし、程よい値段でたくさん食べられるから、ありがたいよね」
「それはたしかに」
少し神妙な顔をしながらチョコパフェを食べる少女たちに、ギルバートは酒を飲みながら笑う。
「がははっ、ま、その分頑張って大元の肉を獲ってこれるようになれってこった」
それが彼なりのエールだったのか。それとも単純に彼がクリムホッグを食べたいだけかは分からなかったが、カイリはいつか自分が獲って帰った肉がここで提供される日を想像して、また気持ちが高揚した。
すっかり、初心者講習に対する恐怖は消えたようだった。
――数時間後、悲鳴を上げるとも知らずに。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
異世界ショコラティエの甘い革命~チョコレートが存在しない世界でカカオを育ててバレンタインを流行らせます~
黒崎隼人
ファンタジー
【2月14日はバレンタイデー!】
現代日本でパティシエを目指していた記憶を持つ少年ルカは、貧しい農村の三男坊として異世界に転生した。しかし、そこは「チョコレート」が存在しない世界だった!
砂糖はある、ミルクもある。けれど、あの芳醇で甘美な黒い宝石だけがない。
「ないのなら、作るしかない」
ルカは森の奥で嫌われ者の「オニノミ」がカカオの原種であることを見抜き、独自に栽培を開始する。発酵、乾燥、焙煎――前世の知識と魔法を駆使して、ついに完成した「ショコラ」。その味は、粗悪な菓子しか知らなかった異世界の人々に衝撃を与え、やがて頑固な父、商魂たくましい商人、そして厳格な領主や宗教家までも巻き込んでいく。
これは、甘いお菓子で世界を変える、少年のサクセスストーリー。
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
冴えない建築家いずれ巨匠へと至る
木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」
かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。
安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。
現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。
異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
元侯爵令嬢の異世界薬膳料理~転生先はみんな食事に興味が無い世界だったので、美味しいご飯で人の身も心も癒します~
向原 行人
ファンタジー
異世界へ転生して数日。十七歳の侯爵令嬢、アリスとして目覚めた私は、早くも限界を迎えていた。
というのも、この世界……みんな食事に興味が無くて、毎食パンとハムだけとか、ハムがチーズに変わるとか、せいぜいその程度だ。
料理というより、食材を並べているだけって感じがする。
元日本人の私としては温かいご飯がたべたいので、自分で食事を作るというと、「貴族が料理など下賤なことをするのは恥だ!」と、意味不明な怒られ方をした。
わかった……だったら、私は貴族を辞める!
家には兄が二人もいるし、姉だっているから問題無いでしょ。
宛てもなく屋敷を飛び出した私は、小さな村で更に酷い食事事情を目の当たりにする。
育ち盛りの子供たちや、身体を使う冒険者たちが、それだけしか食べないなんて……よし、美味しいご飯でみんなも私も幸せになろう!
医食同源! 大食いモフモフ聖獣に、胃袋を掴んでしまった騎士隊長と一緒に、異世界で美味しくて身体に良い食材探しだ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
『異世界味噌料理人』〜腹を満たす一杯から、世界は動き出す〜
芽狐@書籍発売中
ファンタジー
事故をきっかけに異世界へ転移した料理人タクミ。流れ着いた小さな村で彼が目にしたのは、味も栄養も足りない貧しい食事だった。
「腹が満ちれば、人は少しだけ前を向ける。」
その思いから、タクミは炊事場を手伝い、わずかな工夫で村の食卓を変えていく。やがて彼は、失われた発酵技術――味噌づくりをこの世界で再現することに成功する。
だが、保存が利き人々を救うその技術は、国家・商人・教会までも動かす“戦略食料”でもあった。
これは、一杯の料理から始まる、食と継承の長編異世界物語。
【更新予定】
現在ストックがありますので、しばらくの間は毎日21時更新予定です。
応援いただけると更新ペースが上がるかも?笑
『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』
KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。
日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。
アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。
「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。
貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。
集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。
そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。
これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。
今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう?
※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは
似て非なる物として見て下さい
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる


