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染舞(ぜんまい)

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おまけ『ヴァレリオという男』

最終話「少年たちの別れ道」

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 特別だった二人が、パーティーを組むことになるのは、自然な流れだっただろう。

「俺がリーダーな! 年上だし」
「……年上って言っても数ヶ月だろ。俺の方がランクは上だ」
「うるせー! ランクなんてすぐに抜かしてやるよ」

 そんな……どこにでも転がっているようなやりとりを、少年たちは人生で初めて経験した。

 依頼や連携しての戦いは……最初は、正直見ていられないくらいボロボロだった。何せ、お互い『誰かに合わせた』ことがない。

「くそっ! あんなゴブリンなんて俺一人だったら楽なのに」
「それはこっちの台詞だ。お前が突っ込んでいくから」
「何だとぉ! 俺が行かなきゃお前は今頃矢が突き刺さりまくってるだろうが!」

 ぎゃーぎゃー、と年相応に言い合う二人。それは、時と場合によっては微笑ましい光景だろう。

「……あなたたち、反省はしているのですか?」
 が、ここにいる第三者は、そんな甘いことはしなかった。

 ピシリッ! という、空気が凍る音がしそうだった。

 氷の副長。
 もう少し先の未来でそう呼ばれることになるレイヴン=フローが、眼鏡を光らせながら二人を見下ろしていた。





「あなたたちが受けた依頼が失敗したのはまだしも、変にゴブリンたちを刺激したせいでどれだけ周囲に迷惑をかけたか。本当に分かっているのですか?」
 床の上に直接正座させられている二人は、淡々としたレイヴンの声に縮こまる。

 まったくレイヴンの言う通り。そして、二人のしでかしたことのフォローを彼がしてくれたため、事なきを得たのだった。

「反省文と、3日間のギルド奉仕を命じます」
「はい」「……はい」

 少年たちは、痺れた足に悲鳴を上げながらレイヴンの執務室を後にした。

「……まじであの人こえーな」
 ケンジが唸る。しかしどこか嬉しそうなのをヴァレリオは感じ取った。気持ちは良く分かったからだ。
 二人は、故郷で怒られたことがない。それも、あんな風に真剣に彼らのことを想って怒ってくれる人は、いなかった。

 だからヴァレリオは「うん」とだけ返した。彼は、レイヴンが助けに来てくれた時の姿を頭に浮かべる。

『怪我はありませんか?』

 まず何よりも最初に彼が確認したのが、自分たちの安否で……自分たちを見つめるその瞳が、とても温かいとヴァレリオは思った。



***



 そんな失敗をしつつ、少年たちは進んでいった。
 その進み方は……やっぱり『普通』とはどこか違ったかも知れない。
 何せ18歳で、彼らはAランクにまで上り詰めてしまった。もはや同期の冒険者たちは彼らに嫉妬すらしなくなった。

 きっと……ここで終わったのならば、誰もが羨む人生だったのかも知れない。



**さらに4年後**



 気づくとヴァレリオはそこに立っていた。
 賑やかなリンドベルに置いて、唯一と言っていいほど年中静かな場所。
 平たく開けた土地に、整然と石が並ぶ場所。

 石には、文字が彫られていた。

 ヴァレリオが文字を読み切る前に、ごぉっと強い風が吹いた。そこで彼はようやく、もう夕方になっているとに気づく。――指先が寒さで震えていた。
 火の魔法を顕現した火に愛されたはずの彼は、『あの日』から自身を温めることが出来ないでいる。

 土を蹴る音がした。
 ヴァレリオが顔を上げると、よく行く食堂の店主がそこにいた。反射で彼の名を呼ぶ。

「あ……ダンさん」

 元冒険者でもある料理人ダンは、力のない声を出すヴァレリオに対し、顔をしかめることも、変に明るい顔もしなかった。
 ただ一言。

「よお。来るか?」
 短い誘い。まるで日常の続きのような会話。だが今のヴァレリオには、それがありがたかった。ヴァレリオが少し笑う。

「はい……夕方になって少し、冷えましたから。ダンさんのスープが飲みたいです」

 そう。冷えていた。心の底から、ヴァレリオは凍えていた。彼の炎は、あの頃のように熱くならない。
 ダンが笑う。

「ははっ、スープか。スープだけでいいのか? 最近いい酒が手に入ったんだが……」

 顎に手を当て、にやりと笑うダンに、ヴァレリオはしばらく唖然とした。一瞬、何を言われたか分からなかった。しかし、味に拘るダンが『いい酒』と呼ぶものの味を想像してしまい、「う」と声をつまらせた。
 彼の赤い目が、宙を彷徨うように揺れた。
 明らかに酒に興味を惹かれてしまったものの、つい先日も酒に酔ってダンの店で眠りこけ、一夜明かしてしまったことを思い出す。
 大先輩にこれ以上迷惑はかけられないし、そんな失態を犯したくもない。

(でも……あのダンさんが褒める酒、絶対美味しいに決まってる)

 飲みたい。しかし……!
 葛藤の末に飲まないと決めたヴァレリオ。

 だが、それらを全部見越した先輩のあの手この手に乗せられ、結局酒を飲んで寝てしまうのだが、それはまた別の話。
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