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おまけ『ヴァレリオという男』
第2話「少年たちの自己紹介」
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鬼人の少年の名前は、ケンジ=タンダ。
中でも〈蒼角族(そうかくぞく)、という突然変異で生まれてくる存在らしい。つまり……彼も『特別』だった。
そんな話を、彼が手続きを待つ間、ギルドに併設されている食堂で食事をしながら聞いた。
彼は『特別』扱いに嫌気が差し、ライガイアのギルドを飛び出してリンドベルに拠点を移そうと変更手続きをしていたようだ。
「で、お前は?」
短い問いかけ。そんな問いかけにヴァレリオは一瞬驚いてしまう。何せリンドベルの冒険者で『彼のことを知らないものはいない』と、言い切っても大げさではなかった。
ケンジは他のギルドから来たばかりなのだから知らなくて当然なのだが……『お前は?』と、聞かれたことが、ヴァレリオはなぜだか嬉しく思った。
「俺は……」
しかし説明しようとして、彼はうまく言えなかった。何せ彼は、自分のことを説明した経験がほとんどなかった。皆が皆、彼のことを知っていて、わざわざ話す必要がなかった。
ヴァレリオはどう説明すべきなのか、悩んだ。
そのままを言えばいいだけなのだが、同期の冒険者たちの嫉妬を思い出す。自慢しているのか、と怒られたのは記憶に新しい。自慢しているつもりはないのに。
だから結局「俺は、ヴァレリオ=アークライト。……Cランク、だ」と、とても短く答えた。
Cランク、と言う時、彼はとても緊張した。
話を聞いたケンジは
「へー……それで? 他は?」
骨付き肉に食らいつきながら、ヴァレリオに更に聞いてきた。彼は焦った。
「ほ、他?」
「どこ出身とか、いつから冒険者やってるとか。……なんだよ、お前。Cランクなのにろくに自己紹介も出来ねーのかよ」
呆れきったような青い瞳がヴァレリオを見た。その目は人間で言う白目の部分が真っ黒で、人によっては怖いと感じるかも知れなかったが、なぜだかヴァレリオはドキドキした。――初めて、誰かにまっすぐ見てもらった気がした。
「わ、悪い……自己紹介、したことなくて」
「は? なんだそりゃ。有名人なのかよ。サインもらったほうが良いか?」
ケンジは大きく口を開けて笑った。ぎざぎざの歯が見えた。こんなに大口開けて笑われたことなどなく、ヴァレリオはまた戸惑う。――不快には感じなかった。
「いや、別にそういうつもりじゃ」
「じゃあ話せよ。お前の口で、さ。……いつまでも逃げてんじゃねえよ」
明るい口調だったケンジが、最後にボソリと呟いた言葉がヴァレリオの胸を突き刺した。ケンジは青い瞳をまっすぐにヴァレリオに向けている。その瞳は、彼もまた同じ道を辿ったのだと語っていた。
ケンジもまた、『自分から話さなくても皆が知っている』存在だったのだ。
「リンドベルとライガイアは隣国だけどよ。歩けばそれなりに距離はある。数週間。天候や状況次第じゃ一月かかる」
「……そうなのか」
「ああ。その間、俺が何回自己紹介したか、分かるか?」
ケンジは最後の肉を噛み切り、骨だけになったそれを皿に放った。カランカランと音が鳴る。
ヴァレリオの心の中の『何か』を揺さぶる音がした。
「数えるのは途中でやめた。馬鹿らしくなったからな」
馬鹿らしい、と言うケンジだが、どこか誇らしげに見えた。ヴァレリオはそんな彼の顔が眩しいと思った。
「それで気づいたよ。俺は――誰よりも俺自身が、俺のことを分かってなかったってな」
「っ!」
「他の奴らから見た俺を、俺だと思ってた。そんな勘違いに気づいた。
蒼角族だから凄いだの、神に愛されただの……全く俺自身に関係なかった。俺は、ケンジだ。ケンジ=タンダだ」
ケンジは言い切ると、水の入ったグラスを手に取り一気に飲み干した。青みがかった肌が少し赤らんでいた。少し気恥ずかしくなったらしい。
「くそっ。初対面に何語ってんだか……ほらっ、お前のせいだぞ! 責任取って自己紹介しろ」
急に目の前の少年が、自分と同じくらいの年だということを思い出し、ヴァレリオは笑った。否定するためではなく、ただ笑った。
それからヴァレリオは辿々しく『自己紹介』した。彼が詰まってもケンジは笑わなかった。時折「それでどうなった?」「お前はどう思った?」と、助け舟のように相槌を打った。
そうしてヴァレリオは知った。自分はずっと……自分自身のことを話したかったのだと。
中でも〈蒼角族(そうかくぞく)、という突然変異で生まれてくる存在らしい。つまり……彼も『特別』だった。
そんな話を、彼が手続きを待つ間、ギルドに併設されている食堂で食事をしながら聞いた。
彼は『特別』扱いに嫌気が差し、ライガイアのギルドを飛び出してリンドベルに拠点を移そうと変更手続きをしていたようだ。
「で、お前は?」
短い問いかけ。そんな問いかけにヴァレリオは一瞬驚いてしまう。何せリンドベルの冒険者で『彼のことを知らないものはいない』と、言い切っても大げさではなかった。
ケンジは他のギルドから来たばかりなのだから知らなくて当然なのだが……『お前は?』と、聞かれたことが、ヴァレリオはなぜだか嬉しく思った。
「俺は……」
しかし説明しようとして、彼はうまく言えなかった。何せ彼は、自分のことを説明した経験がほとんどなかった。皆が皆、彼のことを知っていて、わざわざ話す必要がなかった。
ヴァレリオはどう説明すべきなのか、悩んだ。
そのままを言えばいいだけなのだが、同期の冒険者たちの嫉妬を思い出す。自慢しているのか、と怒られたのは記憶に新しい。自慢しているつもりはないのに。
だから結局「俺は、ヴァレリオ=アークライト。……Cランク、だ」と、とても短く答えた。
Cランク、と言う時、彼はとても緊張した。
話を聞いたケンジは
「へー……それで? 他は?」
骨付き肉に食らいつきながら、ヴァレリオに更に聞いてきた。彼は焦った。
「ほ、他?」
「どこ出身とか、いつから冒険者やってるとか。……なんだよ、お前。Cランクなのにろくに自己紹介も出来ねーのかよ」
呆れきったような青い瞳がヴァレリオを見た。その目は人間で言う白目の部分が真っ黒で、人によっては怖いと感じるかも知れなかったが、なぜだかヴァレリオはドキドキした。――初めて、誰かにまっすぐ見てもらった気がした。
「わ、悪い……自己紹介、したことなくて」
「は? なんだそりゃ。有名人なのかよ。サインもらったほうが良いか?」
ケンジは大きく口を開けて笑った。ぎざぎざの歯が見えた。こんなに大口開けて笑われたことなどなく、ヴァレリオはまた戸惑う。――不快には感じなかった。
「いや、別にそういうつもりじゃ」
「じゃあ話せよ。お前の口で、さ。……いつまでも逃げてんじゃねえよ」
明るい口調だったケンジが、最後にボソリと呟いた言葉がヴァレリオの胸を突き刺した。ケンジは青い瞳をまっすぐにヴァレリオに向けている。その瞳は、彼もまた同じ道を辿ったのだと語っていた。
ケンジもまた、『自分から話さなくても皆が知っている』存在だったのだ。
「リンドベルとライガイアは隣国だけどよ。歩けばそれなりに距離はある。数週間。天候や状況次第じゃ一月かかる」
「……そうなのか」
「ああ。その間、俺が何回自己紹介したか、分かるか?」
ケンジは最後の肉を噛み切り、骨だけになったそれを皿に放った。カランカランと音が鳴る。
ヴァレリオの心の中の『何か』を揺さぶる音がした。
「数えるのは途中でやめた。馬鹿らしくなったからな」
馬鹿らしい、と言うケンジだが、どこか誇らしげに見えた。ヴァレリオはそんな彼の顔が眩しいと思った。
「それで気づいたよ。俺は――誰よりも俺自身が、俺のことを分かってなかったってな」
「っ!」
「他の奴らから見た俺を、俺だと思ってた。そんな勘違いに気づいた。
蒼角族だから凄いだの、神に愛されただの……全く俺自身に関係なかった。俺は、ケンジだ。ケンジ=タンダだ」
ケンジは言い切ると、水の入ったグラスを手に取り一気に飲み干した。青みがかった肌が少し赤らんでいた。少し気恥ずかしくなったらしい。
「くそっ。初対面に何語ってんだか……ほらっ、お前のせいだぞ! 責任取って自己紹介しろ」
急に目の前の少年が、自分と同じくらいの年だということを思い出し、ヴァレリオは笑った。否定するためではなく、ただ笑った。
それからヴァレリオは辿々しく『自己紹介』した。彼が詰まってもケンジは笑わなかった。時折「それでどうなった?」「お前はどう思った?」と、助け舟のように相槌を打った。
そうしてヴァレリオは知った。自分はずっと……自分自身のことを話したかったのだと。
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