11 / 12
おまけ『ヴァレリオという男』
第2話「少年たちの自己紹介」
しおりを挟む
鬼人の少年の名前は、ケンジ=タンダ。
中でも〈蒼角族(そうかくぞく)、という突然変異で生まれてくる存在らしい。つまり……彼も『特別』だった。
そんな話を、彼が手続きを待つ間、ギルドに併設されている食堂で食事をしながら聞いた。
彼は『特別』扱いに嫌気が差し、ライガイアのギルドを飛び出してリンドベルに拠点を移そうと変更手続きをしていたようだ。
「で、お前は?」
短い問いかけ。そんな問いかけにヴァレリオは一瞬驚いてしまう。何せリンドベルの冒険者で『彼のことを知らないものはいない』と、言い切っても大げさではなかった。
ケンジは他のギルドから来たばかりなのだから知らなくて当然なのだが……『お前は?』と、聞かれたことが、ヴァレリオはなぜだか嬉しく思った。
「俺は……」
しかし説明しようとして、彼はうまく言えなかった。何せ彼は、自分のことを説明した経験がほとんどなかった。皆が皆、彼のことを知っていて、わざわざ話す必要がなかった。
ヴァレリオはどう説明すべきなのか、悩んだ。
そのままを言えばいいだけなのだが、同期の冒険者たちの嫉妬を思い出す。自慢しているのか、と怒られたのは記憶に新しい。自慢しているつもりはないのに。
だから結局「俺は、ヴァレリオ=アークライト。……Cランク、だ」と、とても短く答えた。
Cランク、と言う時、彼はとても緊張した。
話を聞いたケンジは
「へー……それで? 他は?」
骨付き肉に食らいつきながら、ヴァレリオに更に聞いてきた。彼は焦った。
「ほ、他?」
「どこ出身とか、いつから冒険者やってるとか。……なんだよ、お前。Cランクなのにろくに自己紹介も出来ねーのかよ」
呆れきったような青い瞳がヴァレリオを見た。その目は人間で言う白目の部分が真っ黒で、人によっては怖いと感じるかも知れなかったが、なぜだかヴァレリオはドキドキした。――初めて、誰かにまっすぐ見てもらった気がした。
「わ、悪い……自己紹介、したことなくて」
「は? なんだそりゃ。有名人なのかよ。サインもらったほうが良いか?」
ケンジは大きく口を開けて笑った。ぎざぎざの歯が見えた。こんなに大口開けて笑われたことなどなく、ヴァレリオはまた戸惑う。――不快には感じなかった。
「いや、別にそういうつもりじゃ」
「じゃあ話せよ。お前の口で、さ。……いつまでも逃げてんじゃねえよ」
明るい口調だったケンジが、最後にボソリと呟いた言葉がヴァレリオの胸を突き刺した。ケンジは青い瞳をまっすぐにヴァレリオに向けている。その瞳は、彼もまた同じ道を辿ったのだと語っていた。
ケンジもまた、『自分から話さなくても皆が知っている』存在だったのだ。
「リンドベルとライガイアは隣国だけどよ。歩けばそれなりに距離はある。数週間。天候や状況次第じゃ一月かかる」
「……そうなのか」
「ああ。その間、俺が何回自己紹介したか、分かるか?」
ケンジは最後の肉を噛み切り、骨だけになったそれを皿に放った。カランカランと音が鳴る。
ヴァレリオの心の中の『何か』を揺さぶる音がした。
「数えるのは途中でやめた。馬鹿らしくなったからな」
馬鹿らしい、と言うケンジだが、どこか誇らしげに見えた。ヴァレリオはそんな彼の顔が眩しいと思った。
「それで気づいたよ。俺は――誰よりも俺自身が、俺のことを分かってなかったってな」
「っ!」
「他の奴らから見た俺を、俺だと思ってた。そんな勘違いに気づいた。
蒼角族だから凄いだの、神に愛されただの……全く俺自身に関係なかった。俺は、ケンジだ。ケンジ=タンダだ」
ケンジは言い切ると、水の入ったグラスを手に取り一気に飲み干した。青みがかった肌が少し赤らんでいた。少し気恥ずかしくなったらしい。
「くそっ。初対面に何語ってんだか……ほらっ、お前のせいだぞ! 責任取って自己紹介しろ」
急に目の前の少年が、自分と同じくらいの年だということを思い出し、ヴァレリオは笑った。否定するためではなく、ただ笑った。
それからヴァレリオは辿々しく『自己紹介』した。彼が詰まってもケンジは笑わなかった。時折「それでどうなった?」「お前はどう思った?」と、助け舟のように相槌を打った。
そうしてヴァレリオは知った。自分はずっと……自分自身のことを話したかったのだと。
中でも〈蒼角族(そうかくぞく)、という突然変異で生まれてくる存在らしい。つまり……彼も『特別』だった。
そんな話を、彼が手続きを待つ間、ギルドに併設されている食堂で食事をしながら聞いた。
彼は『特別』扱いに嫌気が差し、ライガイアのギルドを飛び出してリンドベルに拠点を移そうと変更手続きをしていたようだ。
「で、お前は?」
短い問いかけ。そんな問いかけにヴァレリオは一瞬驚いてしまう。何せリンドベルの冒険者で『彼のことを知らないものはいない』と、言い切っても大げさではなかった。
ケンジは他のギルドから来たばかりなのだから知らなくて当然なのだが……『お前は?』と、聞かれたことが、ヴァレリオはなぜだか嬉しく思った。
「俺は……」
しかし説明しようとして、彼はうまく言えなかった。何せ彼は、自分のことを説明した経験がほとんどなかった。皆が皆、彼のことを知っていて、わざわざ話す必要がなかった。
ヴァレリオはどう説明すべきなのか、悩んだ。
そのままを言えばいいだけなのだが、同期の冒険者たちの嫉妬を思い出す。自慢しているのか、と怒られたのは記憶に新しい。自慢しているつもりはないのに。
だから結局「俺は、ヴァレリオ=アークライト。……Cランク、だ」と、とても短く答えた。
Cランク、と言う時、彼はとても緊張した。
話を聞いたケンジは
「へー……それで? 他は?」
骨付き肉に食らいつきながら、ヴァレリオに更に聞いてきた。彼は焦った。
「ほ、他?」
「どこ出身とか、いつから冒険者やってるとか。……なんだよ、お前。Cランクなのにろくに自己紹介も出来ねーのかよ」
呆れきったような青い瞳がヴァレリオを見た。その目は人間で言う白目の部分が真っ黒で、人によっては怖いと感じるかも知れなかったが、なぜだかヴァレリオはドキドキした。――初めて、誰かにまっすぐ見てもらった気がした。
「わ、悪い……自己紹介、したことなくて」
「は? なんだそりゃ。有名人なのかよ。サインもらったほうが良いか?」
ケンジは大きく口を開けて笑った。ぎざぎざの歯が見えた。こんなに大口開けて笑われたことなどなく、ヴァレリオはまた戸惑う。――不快には感じなかった。
「いや、別にそういうつもりじゃ」
「じゃあ話せよ。お前の口で、さ。……いつまでも逃げてんじゃねえよ」
明るい口調だったケンジが、最後にボソリと呟いた言葉がヴァレリオの胸を突き刺した。ケンジは青い瞳をまっすぐにヴァレリオに向けている。その瞳は、彼もまた同じ道を辿ったのだと語っていた。
ケンジもまた、『自分から話さなくても皆が知っている』存在だったのだ。
「リンドベルとライガイアは隣国だけどよ。歩けばそれなりに距離はある。数週間。天候や状況次第じゃ一月かかる」
「……そうなのか」
「ああ。その間、俺が何回自己紹介したか、分かるか?」
ケンジは最後の肉を噛み切り、骨だけになったそれを皿に放った。カランカランと音が鳴る。
ヴァレリオの心の中の『何か』を揺さぶる音がした。
「数えるのは途中でやめた。馬鹿らしくなったからな」
馬鹿らしい、と言うケンジだが、どこか誇らしげに見えた。ヴァレリオはそんな彼の顔が眩しいと思った。
「それで気づいたよ。俺は――誰よりも俺自身が、俺のことを分かってなかったってな」
「っ!」
「他の奴らから見た俺を、俺だと思ってた。そんな勘違いに気づいた。
蒼角族だから凄いだの、神に愛されただの……全く俺自身に関係なかった。俺は、ケンジだ。ケンジ=タンダだ」
ケンジは言い切ると、水の入ったグラスを手に取り一気に飲み干した。青みがかった肌が少し赤らんでいた。少し気恥ずかしくなったらしい。
「くそっ。初対面に何語ってんだか……ほらっ、お前のせいだぞ! 責任取って自己紹介しろ」
急に目の前の少年が、自分と同じくらいの年だということを思い出し、ヴァレリオは笑った。否定するためではなく、ただ笑った。
それからヴァレリオは辿々しく『自己紹介』した。彼が詰まってもケンジは笑わなかった。時折「それでどうなった?」「お前はどう思った?」と、助け舟のように相槌を打った。
そうしてヴァレリオは知った。自分はずっと……自分自身のことを話したかったのだと。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
異世界ショコラティエの甘い革命~チョコレートが存在しない世界でカカオを育ててバレンタインを流行らせます~
黒崎隼人
ファンタジー
【2月14日はバレンタイデー!】
現代日本でパティシエを目指していた記憶を持つ少年ルカは、貧しい農村の三男坊として異世界に転生した。しかし、そこは「チョコレート」が存在しない世界だった!
砂糖はある、ミルクもある。けれど、あの芳醇で甘美な黒い宝石だけがない。
「ないのなら、作るしかない」
ルカは森の奥で嫌われ者の「オニノミ」がカカオの原種であることを見抜き、独自に栽培を開始する。発酵、乾燥、焙煎――前世の知識と魔法を駆使して、ついに完成した「ショコラ」。その味は、粗悪な菓子しか知らなかった異世界の人々に衝撃を与え、やがて頑固な父、商魂たくましい商人、そして厳格な領主や宗教家までも巻き込んでいく。
これは、甘いお菓子で世界を変える、少年のサクセスストーリー。
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
冴えない建築家いずれ巨匠へと至る
木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」
かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。
安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。
現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。
異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。
元侯爵令嬢の異世界薬膳料理~転生先はみんな食事に興味が無い世界だったので、美味しいご飯で人の身も心も癒します~
向原 行人
ファンタジー
異世界へ転生して数日。十七歳の侯爵令嬢、アリスとして目覚めた私は、早くも限界を迎えていた。
というのも、この世界……みんな食事に興味が無くて、毎食パンとハムだけとか、ハムがチーズに変わるとか、せいぜいその程度だ。
料理というより、食材を並べているだけって感じがする。
元日本人の私としては温かいご飯がたべたいので、自分で食事を作るというと、「貴族が料理など下賤なことをするのは恥だ!」と、意味不明な怒られ方をした。
わかった……だったら、私は貴族を辞める!
家には兄が二人もいるし、姉だっているから問題無いでしょ。
宛てもなく屋敷を飛び出した私は、小さな村で更に酷い食事事情を目の当たりにする。
育ち盛りの子供たちや、身体を使う冒険者たちが、それだけしか食べないなんて……よし、美味しいご飯でみんなも私も幸せになろう!
医食同源! 大食いモフモフ聖獣に、胃袋を掴んでしまった騎士隊長と一緒に、異世界で美味しくて身体に良い食材探しだ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
『異世界味噌料理人』〜腹を満たす一杯から、世界は動き出す〜
芽狐@書籍発売中
ファンタジー
事故をきっかけに異世界へ転移した料理人タクミ。流れ着いた小さな村で彼が目にしたのは、味も栄養も足りない貧しい食事だった。
「腹が満ちれば、人は少しだけ前を向ける。」
その思いから、タクミは炊事場を手伝い、わずかな工夫で村の食卓を変えていく。やがて彼は、失われた発酵技術――味噌づくりをこの世界で再現することに成功する。
だが、保存が利き人々を救うその技術は、国家・商人・教会までも動かす“戦略食料”でもあった。
これは、一杯の料理から始まる、食と継承の長編異世界物語。
【更新予定】
現在ストックがありますので、しばらくの間は毎日21時更新予定です。
応援いただけると更新ペースが上がるかも?笑
【完結】うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。
かの
ファンタジー
孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。
ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
