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おまけ『ヴァレリオという男』
第1話「少年たちの出会い」
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ヴァレリオ=アークライトの人生は、もしかしたら多くが羨むものかもしれない。
4歳で炎魔法を発現させた。
魔法というものは、特別なものじゃない。努力は必要だが指導者のもとで学べば、基本は誰でも使えるようになるもの。それでも殆どのものが魔法を使えないのは、魔法が戦闘に特化していて日常生活には魔道具があればいいからだ。
そんな中、自然に発現して扱えるようになるのは一部の天才だけ。
ヴァレリオは、間違いなく、戦いの才能に愛されてしまった男だった。
勉学の方はあまり得意ではなかったが、体格にも優れ、目も良く、直感力も長け……リンドベル周辺で生まれたこともそうかも知れない。
彼が冒険者の道を歩むようになったのは、自然なことだろう。何せリンドベルは、冒険者ギルド発祥の地なのだから。
しかし、ヴァレリオ自身がそれを喜んだかと言うと、そうでもなかった。
(別に、冒険者になんかなりたくないけどな)
彼はただ、実家の畑仕事や牛の世話を手伝う、そんな生活に満足していた。そのままでいいと思っていた。
だが村の皆は、彼を見ずに喜んだ。村から英雄が生まれるぞ、と。
笑顔で「凄い」と声をかけてくる村人たちに……彼は笑い返した。笑うしかなかった。
村中からの歓声を浴びながら彼が村を出てリンドベルに来たのは14歳だった。希望のもとに送り出されたのか、追い出されたのか、彼には良く分からなかった。
見知らぬ人々が行き交う。あまり見慣れない種族の顔もある中、彼はぽつんとリンドベルに立っていた。
周囲の人々は気にしなかった。
彼が北を見ていたから。北にある巨大な結界樹を初めて直接見たものは、しばし呆然と佇むからだ。
(……あの樹がなければ違ったのか?)
まさか、ヴァレリオが心の中で結界樹を憎々しく思っていたなど、予想しなかっただろう。
リンドベルが結界樹を要する冒険者の街でなければ、自分はまだあの村に――。
そんな風に何かのせいにしようとして、ヴァレリオは笑った。
「変わらないか」
ただ一言呟いて。ヴァレリオは北に向かって歩き出した。結界樹の根元にある、冒険者ギルドを目指して。
***
それからの冒険者人生。それもまた、順風満帆そうに見えた。
Fランクから始まり、半年後には最短でDランク。更に半年後――つまり15でCランク。
冒険者ギルドで規定されている最も最短で駆け上った。
Cランクの冒険者と言うと、少なくとも数年は冒険者としてコツコツと依頼を受けて、実績と実力を積み上げてきたものが到達するものだ。
凄い、と誰かが言った。ヴァレリオは笑って「そんなことない」と否定した。
村と同じようでいて違ったのは、同時期に冒険者になった者たちの嫉妬や妬みをぶつけられたことだろうか。彼らはまだEランクだったが、それが普通だった。
ヴァレリオは、そんな『普通』が羨ましかった。
似たような年齢の冒険者たちが、パーティーを組んで依頼を受けたりダンジョンに向かう中、ヴァレリオはいつもソロだった。
同じCランクとなると、もう何年も共に行動してきた仲間たちがいるものばかり。
ランクを駆け上がってしまったヴァレリオには、そんな仲間はいなかった。
その日も、ヴァレリオは一人で依頼書が張り出された掲示板の前に立っていた。
「いやだからさ、俺はそんなふうに書いた覚えないって」
「ですが、実際記録として残ってるんです。今すぐ変更手続きしますのでお待ち下さい」
「あー、もう……分かったよ」
そんな中、受け付けから聞こえた声に、ヴァレリオはどうしてか振り返った。声が若かったからだろうか。
そこにいたのは一人の少年。ヴァレリオとそう変わらないように見えるが、肌は青みがかっていて頭には角が生えていた。
橙色が混ざったような茶色の髪をがしがしと掻きむしっていた少年が、そんなヴァレリオの視線に気づいて顔を上げた。
青い瞳と、ヴァレリオの赤い瞳がぶつかった。
それがヴァレリオと、鬼人の少年ケンジとの出会いだった。
4歳で炎魔法を発現させた。
魔法というものは、特別なものじゃない。努力は必要だが指導者のもとで学べば、基本は誰でも使えるようになるもの。それでも殆どのものが魔法を使えないのは、魔法が戦闘に特化していて日常生活には魔道具があればいいからだ。
そんな中、自然に発現して扱えるようになるのは一部の天才だけ。
ヴァレリオは、間違いなく、戦いの才能に愛されてしまった男だった。
勉学の方はあまり得意ではなかったが、体格にも優れ、目も良く、直感力も長け……リンドベル周辺で生まれたこともそうかも知れない。
彼が冒険者の道を歩むようになったのは、自然なことだろう。何せリンドベルは、冒険者ギルド発祥の地なのだから。
しかし、ヴァレリオ自身がそれを喜んだかと言うと、そうでもなかった。
(別に、冒険者になんかなりたくないけどな)
彼はただ、実家の畑仕事や牛の世話を手伝う、そんな生活に満足していた。そのままでいいと思っていた。
だが村の皆は、彼を見ずに喜んだ。村から英雄が生まれるぞ、と。
笑顔で「凄い」と声をかけてくる村人たちに……彼は笑い返した。笑うしかなかった。
村中からの歓声を浴びながら彼が村を出てリンドベルに来たのは14歳だった。希望のもとに送り出されたのか、追い出されたのか、彼には良く分からなかった。
見知らぬ人々が行き交う。あまり見慣れない種族の顔もある中、彼はぽつんとリンドベルに立っていた。
周囲の人々は気にしなかった。
彼が北を見ていたから。北にある巨大な結界樹を初めて直接見たものは、しばし呆然と佇むからだ。
(……あの樹がなければ違ったのか?)
まさか、ヴァレリオが心の中で結界樹を憎々しく思っていたなど、予想しなかっただろう。
リンドベルが結界樹を要する冒険者の街でなければ、自分はまだあの村に――。
そんな風に何かのせいにしようとして、ヴァレリオは笑った。
「変わらないか」
ただ一言呟いて。ヴァレリオは北に向かって歩き出した。結界樹の根元にある、冒険者ギルドを目指して。
***
それからの冒険者人生。それもまた、順風満帆そうに見えた。
Fランクから始まり、半年後には最短でDランク。更に半年後――つまり15でCランク。
冒険者ギルドで規定されている最も最短で駆け上った。
Cランクの冒険者と言うと、少なくとも数年は冒険者としてコツコツと依頼を受けて、実績と実力を積み上げてきたものが到達するものだ。
凄い、と誰かが言った。ヴァレリオは笑って「そんなことない」と否定した。
村と同じようでいて違ったのは、同時期に冒険者になった者たちの嫉妬や妬みをぶつけられたことだろうか。彼らはまだEランクだったが、それが普通だった。
ヴァレリオは、そんな『普通』が羨ましかった。
似たような年齢の冒険者たちが、パーティーを組んで依頼を受けたりダンジョンに向かう中、ヴァレリオはいつもソロだった。
同じCランクとなると、もう何年も共に行動してきた仲間たちがいるものばかり。
ランクを駆け上がってしまったヴァレリオには、そんな仲間はいなかった。
その日も、ヴァレリオは一人で依頼書が張り出された掲示板の前に立っていた。
「いやだからさ、俺はそんなふうに書いた覚えないって」
「ですが、実際記録として残ってるんです。今すぐ変更手続きしますのでお待ち下さい」
「あー、もう……分かったよ」
そんな中、受け付けから聞こえた声に、ヴァレリオはどうしてか振り返った。声が若かったからだろうか。
そこにいたのは一人の少年。ヴァレリオとそう変わらないように見えるが、肌は青みがかっていて頭には角が生えていた。
橙色が混ざったような茶色の髪をがしがしと掻きむしっていた少年が、そんなヴァレリオの視線に気づいて顔を上げた。
青い瞳と、ヴァレリオの赤い瞳がぶつかった。
それがヴァレリオと、鬼人の少年ケンジとの出会いだった。
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