フィガロと晶のおとぎ話シリーズ

夜千流

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大地は血を憶えている

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時は、大航海時代…
栄華を極めた王侯貴族達は、さらなる繁栄を求めて海を越え、新天地を目指した
船医のフィガロは、貴族の繁栄などに興味はないが、新大陸という未知の世界に心が浮き足立つのを感じた
広大な大地、豊かな森林、美しい清流が長旅の疲れを癒す
開拓者達は直ぐ様、この大地を誰が所有するかで揉めに揉めた
これだけの土地なら砂金や鉱石、天然資源は豊富だろう
フィガロは、醜い諍いを冷めた目で見つめた

飲み水を確保する為に野営地の近くの川にやって来たフィガロは、そこで原住民と思われる少女を見つけた
背を向けているので表情は窺えないが、少女は清流で身を清めているようだ
鮮やかな入れ墨が印象的な少女の裸体に、フィガロは思わず目を奪われる
息を呑んだフィガロの気配に気付いた少女が、こちらを振り返った
互いに視線が交錯し、不思議と惹かれ合うのを感じた

「失礼、お嬢さん。俺は船医のフィガロ。言葉は通じるかな?」

「ふぃ、がろ…?」

どうやら、あまり通じていないようだ
フィガロは少女が民族衣装を纏うのを待って、改めて自己紹介をした

「俺の名は、フィガロ。きみの名前は?」

「な、まえ…?」

少女はフィガロを指差した

「ふぃがろ…?」

「そう。俺の名前は、フィガロだよ」

少女はふっ…と、微笑んだ
そして、自分を指差して告げた

「あきら」

「アキラ…。それが、きみの名前?」

少女は頷いて肯定した






アキラに導かれて、フィガロは彼女の父親と思われる族長の元へと案内された
最初は警戒されていたが、フィガロの身振り手振りを交えた巧みな話術で族長の警戒心を解く事に成功する
族長は、容姿端麗なフィガロを気に入ったらしい
アキラをフィガロの側に座らせ、何やらウムウムと唸っている
アキラはそわそわと、族長とフィガロの様子を伺っている
しばらくして、族長はフィガロとアキラに揃いの首飾りを掛けた
アキラの表情がパァーと、明るくなった
よく分からないが、フィガロはこの集落に受け入れてもらえたらしい
アキラは、フィガロにそっと身を寄せて嬉しそうにしている
フィガロは、そんなアキラを微笑ましく見守った

後日、通訳の者を伴って集落を訪れたフィガロは、首飾りの意味をようやく理解する
あの揃いの首飾りは、婚約の証だという
フィガロは己の知らぬ間に、アキラの婚約者になっていたのだ
大人しそうなアキラは、案外大胆な娘だったようだ
可愛らしい婚約者を持ち、フィガロも満更悪い気はしない
フィガロは、現状を受け入れる事にした






新大陸に辿り着いて、1年が経過した
現地の言葉や風習を覚えたフィガロは、アキラとの関係をより深いものにしていった
大樹に両手をついたアキラの衣服をたくし上げ、背後から柔らかな女体を愛撫するフィガロは、湿り気を帯びたアキラの秘所に剛直を突き立てた
野外で大胆に交わる2人は、族長からはやく世継ぎを残すように急かされている
アキラの集落では、婚約の後、子を成した後で、正式に婚儀を行うのだという
アキラとの子を授かる事は、開拓者側と原住民側の関係を取り持つ為に有効な手段である
打算的な思惑はあれど、フィガロはアキラを本気で愛しているのも事実である
フィガロは雄猫が雌猫にするように、衝動に任せてアキラの首筋に噛み付いた
猫のような嬌声を上げ、膣を強く収縮させたアキラの子宮に熱く滾る精液が放たれた






アキラと出会って2年の月日が経過した
アキラは、フィガロとの子を身籠った
これで婚儀が行われて、めでたしめでたし…といけば良かったのだが…

開拓者側と原住民との間に諍いが起きた
度重なる森林破壊や環境汚染に、大地の精霊達が怒ったのだという
争いは激化し、やがて殺し合いにまで発展してしまった
フィガロは原住民側に人質として捕らえられた
アキラは族長にフィガロを解放するように訴えたが、族長は娘の言葉に耳を貸してはくれなかった
集落の男達に嬲られるフィガロを、アキラは泣きながら見ている事しか出来なかった

虫の息のフィガロをアキラは必死で介抱した
痛みに呻くフィガロに心を痛めたアキラは、昔からこの地に伝わる土地神の伝承を思い出した
アキラは身重の身体に鞭打って、土地神の御わす森の泉へと辿り着く
アキラの切実な祈りに応えた土地神が姿を現し、アキラに自身の角の一部を与えた
アキラは土地神に深く感謝を述べ、フィガロの元へ向かった
アキラは土地神の角を煎じた薬湯をフィガロに飲ませた
3日も経てば、フィガロは忽ち回復した
土地神に愛されたフィガロを、集落の者達は素直に受け入れる事にしたようだ
しかし、この噂を聞きつけた開拓者達は、土地神の力を我が物にせん、と目論んだ





アキラは無事出産を終え、可愛らしい娘が誕生した
集落は喜びに湧いたが、フィガロは嫌な胸騒ぎがした

アキラとの婚儀を控えたある日の晩、フィガロは森の奥深くから響く銃声を聞いて飛び起きた
やはり、あの強欲な開拓者達が大人しくしている訳がなかったと、フィガロは呆れと憤りを感じる
フィガロは集落の男達と共に土地神の御わす泉へ向かう事になった
アキラもフィガロと共に向かうと主張した

「駄目だよ。危ないから、此処で待っていなさい」

「嫌です!私も行きます!」

槍を持ったアキラは、フィガロと共に行くとの一点張りだ
アキラの頑固さに根負けしたフィガロは、アキラを連れて行く事にした






土地神の御わす泉へ辿り着くと、そこには大きな男鹿が開拓者達に囲まれていた
男鹿は神々しい雰囲気を纏い、見る者を圧倒する
しかし、一発の銃弾が男鹿の首に命中した

「っ…!なんて事を…!」

アキラは槍を構えて駆け出そうとする
そんなアキラをフィガロは羽交い締めにして静止する

「フィガロ!放して!」

「駄目だよ、アキラ。嫌な予感がするんだ…」

2発目の銃弾が男鹿の首を吹き飛ばした
歓喜に湧く開拓者達…
しかし、集落の男達は一斉にその場を離れた
男鹿の首を誇らしげに掲げ、首桶に納める開拓者達…
彼等は気付かなかった
男鹿の身体から、不気味な瘴気が漏れ出している事に…

フィガロはアキラの手を引いて森の外へと直走る
きっと開拓者達もこの森も終わりだ…
土地神を殺したのだ
その報いは、この大地全体に及ぶだろう…
フィガロはアキラと娘を伴って船を出す
集落の者達も幾人か連れ出したが、この地に残る者も多かった
彼等は、この土地以外では生きられないのだろう
アキラの父親のように…

滅びゆく大地を遠目に眺める
アキラは娘を抱えながら、あの地に残った父を想い、涙した
フィガロはアキラの悲しむ姿を横目に、舵輪を操作する
果たして、あの大地が蘇る時は訪れるのだろうか…
フィガロはアキラと出会い、愛を育んだ第2の故郷を偲んだ







数千年後…
フィガロと同じ海色の髪の青年が、遥か昔に滅んだとされる大陸に降り立った
昔は船での移動手段しか無かったが、今では飛行機でひとっ飛びだ
青年はアキラに似た吊り目の妹と共に、この大陸に旅行に来た
何でも、自分達のご先祖様はこの土地で出会い、その血筋が自分達の代まで続いているのだ
青年は、この美しい大地と此処で育まれた異民族同士のロマンスを思い描いて手記を綴った
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