聾唖のバレリーナ

夜千流

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氷上で、きみと…

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「手術、か…」

フィガロと晶が結婚して、早2ヶ月…
重度の呼吸器障害を持つフィガロは、最新の医療技術による治療を受ける事になった
だが、この手術はかなりの危険を伴うらしい…
しかしフィガロは、晶の為にも自らの病を治す決断をした

「心配しないで。手術は必ず成功するさ」

病院の待合室で、フィガロは不安気な表情の晶の頭を撫でる
聴覚障害を持つ晶には、フィガロの言葉は聞こえていないが、晶の頭を撫でるフィガロの優しい手つきから彼の意図を読み取った

〘愛してるよ、晶〙

フィガロは、親指、人差し指、小指を立て、手話で晶への愛を伝える

〘愛しています、フィガロ〙

晶は、心臓を両手で包むように、バレエのマイムでフィガロへの愛を伝えた

《手術中》のライトが点灯する

手術室の前の長椅子に座った晶は、夫の無事を必死で祈った








5時間に及ぶ長い手術の後…
フィガロは、病院の個室のベッドの上に居た

「はは、…目が赤くなってるよ…」

フィガロは、ベッドの横で泣き顔を晒す晶を茶化す
夫の生還を確かめたくて、晶はフィガロに抱き着いた





「よいしょ…っと…!」

二人が暮らす自宅の庭で、フィガロは晶を抱き上げる
しかし人生の長い間、運動などした事がなかった貧弱なフィガロは、妻の重さに耐え兼ねて晶を抱えたまま、芝生の上に倒れ込んだ

「痛た…。ごめんね、晶…」

フィガロは、自身を下敷きにする晶へ謝る

「人間って、思っていた以上に重たいんだね…」

舞台の上で晶を軽々と抱え上げる相手役の男達への嫉妬がフィガロの胸をチリリ、と焦がす

「ふふっ…でもこれが、『生命きみ』の重さなんだね…」

フィガロはそう言うと、心配そうに自身の顔を覗き込む晶の頬を愛おしげに撫でた

それからフィガロは、今まで身体が弱くて出来なかった『運動』をするようになった
少しずつ身体を鍛えて、晶とバレエを踊る為だ

フィガロは『夢』を見る…
あの日…
晶と出逢った氷上の舞台で、晶と共に舞い踊る『夢』を…





晶がプリマドンナを務める劇場の休館日…
フィガロと晶は、劇場に家族や友人、知人を招いてバレエを披露する

フィガロを知る者達は、フィガロの以前の病弱さが嘘のようで、彼の計り知れない努力に胸打たれた

フィガロに支えられ、晶の身体が白鳥のように宙を舞う

晶がフィガロへ、『愛のマイム』を行う
フィガロは晶を抱き寄せると、観客達の前で晶の唇にキスをした

初な晶の友人達が二人のキスシーンを見て、顔を赤らめる

「パパもママも、すごーい!」

最前列の席で舞台を観賞していたのは、フィガロと晶の娘であるマナだ
マナは、耳が聴こえない母へ手話で賛辞を伝える
フィガロは晶を抱き上げ、晶は観客席に向かって手を振った






禄に運動などした事のなかったフィガロには、氷上で晶と踊る『夢』を叶える事は出来なかった
しかし、病に苦しむ事なく、愛する家族と共に幸せな人生を送ったのだ












ここは、北の国…
死の湖と呼ばれる場所だ

氷に覆われた湖面の上を双子の魔法使い・スノウとホワイトが滑り踊っている
その様子をスノウとホワイトの弟子・フィガロと賢者・真木 晶が遠くから眺めていた

「魔法って、凄いですね。厳しい訓練なんてしなくても、フィギュアスケートの選手みたいに氷の上を滑れるなんて…」

「賢者様も、滑ってみる?」

「えっ…いいんですか?」

「うん。一緒に滑ろうか」

「はい!」

フィガロは晶の手を取って、湖へと足を踏み入れる
転倒しないように魔法で補助する
フィガロに手を引かれ、晶は氷上を滑る

「賢者様、ほら」

「わわっ!」

フィガロは、魔法で晶の体重を軽くして抱え上げる

「高い!高いです、フィガロ!」

フィガロに両側のウエストを掴んだまま高く掲げられた晶は、不安定な体勢に緊張する

「ふふっ…羽根みたいに軽いね」

晶をふわりと掲げるフィガロは、そのまま流れるように氷上で晶とバレエのようなダンスを踊った
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