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37話

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さてと......ひと段落しましたし、一旦夕食でも食べましょうか。

そう思った私は

「ユリ、夕飯をここに持ってきてくれる?」

とお願いして、再び今日の仕事をした分を確認していると

「お嬢様っ!」

なんだかユリが顔色を悪くして戻ってきましたね。

どうしたんでしょう?

そう思って

「どうしたの?」

と私が尋ねると、ユリが

「あの、それが........」

何か言いづらそうにしていますね。

まさか、後宮のメイドに虐められたのかしら?

あり得るわね.....ここのメイドは性格の悪そうな顔をしていましたもの。

ユリの話を聞くために、ソファーに座らせて待っていると、コンコン、と扉をノックする音の後に

「皇妃様、夕食を持ってきました」

と言う声が聞こえてきましたわ。

あら、わざわざ持ってくるなんて珍しいわね。

なんて思いながら

「入ってちょうだい」

と指示すると、後宮のメイド長がニヤニヤといやらしい笑みをしながら

「さっき、ユリさんが取りに来たんですけど、なぜか持っていかずに置いていってしまったので......」

そう言って、トレイを持っています。

もうこの時点で何かしているな、というのは察してしまいますよね。

このメイド長は私のことが嫌いですし、わざわざ親切なことをするとは思えませんもの。

なので警戒を解かないまま

「そうだったの。そこに置いてちょうだい」

そう言うと、メイド長は

「かしこまりました」

と大人しく指示に従いました。

大人しいですわ。

何を企んでいるのかしら?

そう思いながらメイド長を見ていると、なぜかトレイを置いた後も一向に部屋を出る様子がなく、つい

「まだ何か?」

と尋ねてしまいましたわ。

だって、普段なら逃げるように出ていくか、いや、それどころか私と関わること自体嫌がりますもの。

本当に何を考えているのかわかりませんわ。

するとメイド長は

「いえ.....召し上がらないのかと思いまして......」

.......は?

驚きですわ。

まさか自分の前で食べてもらえるとでも思っているんでしょうか?

皇帝もいる場ならわかりますが、それ以外は絶対にありえませんわよ。

そう思いながら

「なぜ貴方の前で食べなきゃいけないの?さっさと出ていってもらえる?」

なるべく厳しめの口調で言うと、渋々といった様子で部屋を出ていきました。

「なんですの?あれは.......」

そう呟きながら、食事の置かれた机に移動すると、すかさずユリが

「お、お嬢様、食べなくていいです!」

と止めています。

なるほど......ユリはこれを私に食べさせないために持ってこなかったんですね。

そう思って見ると

「何?この匂いは........」

肉は豚肉なのに生焼けの状態で、スープは何やら酸っぱいにおいがしますわ。

パンも見てわかるほどパサパサな状態ですわね。

パンだけならスルー出来ますが、流石にやりすぎですわ。

そう思っていると

「私が取りに行ったときにこの状態だったので、流石に持っていけなくて.....」

ユリが申し訳なさそうにそう言っています。

「そうだったの。でもあのメイド長は嬉々として運んできた、ということね」

昨日まではまともな食事でしたのに、急にこんなことになるなんて候補の誰かが関わっていると思うしかありませんわね。

そう考えると、ため息が出てきますわ。

「はぁ.....また面倒なことになっていますわね」

しかも、皇帝には半年の間は泳がせてあげることを言ってしまいましたからね。

これがあと半年ですか.......。

わざと食べないようにして私が見るからに痩せ細っていったら皆不審に思うでしょうか?

なんて思っていると、料理を見たカーラが

「どうします?ほぼ生の状態ですけど......」

と尋ねてきたので

「そうねぇ.....私が調理でもしようかしら?」

もうそれが一番な気がしますわ。

自分の好きな味付けにもできますし。

正直、この国の料理はあまりおいしくないんですよね。

ですが、そんな私の考えに

「で、でもここではそういうことは......」

とカーラが止めようとするので

「でも食材は何も悪くないでしょう?それにとってもまずそうな料理だし」

そう言ってにっこり微笑むと、カーラは何やら複雑そうな表情で苦笑していますわ。

でも、本当にまずそうなんですもの。

私だったらクビにしますけどね。
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