（完結）記憶喪失令嬢は幸せを掴む

プロローグ

    私は不安な気持ちを抑えて急いで馬車を走らせていました。
    気持ちばかりが焦ってしまい、ハンカチをギュッと握りしめ、祈るような気持ちで夜の道をひた走ります。

    突然、ガタンと音がして馬車が停まり、私は道半ばで外に出ました。

    笑い声。先に向かった筈のお姉様と、アレク様…
    御者が、何名かの男性と、私の乗っていた馬車を崖の下に落としました。
「アレク様…お姉様…」
    ニヤニヤと笑いながら、私に近付きます。
「状況が分かってなさそうね？心配しなくても、アレク様と家の心配はないわ…お前はここで退場するの。いつも私を馬鹿にしていたあんたは、ここで終わりよ！」

「な、何を…！」
    アレク様に羽交い締めにされ、崖まで連れて行かれました。そうして、お姉様と一緒に、私は突き落とされたのです…

    落下の恐怖と、裏切られた心の痛み…水の冷たさ。
    お姉様と、私の婚約者だったアレク様の笑い声…それらを聞きながら、私は意識を閉ざしました。