(完結)記憶喪失令嬢は幸せを掴む

あかる

文字の大きさ
2 / 14

私は誰でしょう?

しおりを挟む
    ふわふわと優しい魔力の波動。
    
    うっすらと目を開けた私が見たのは、血のように紅い瞳…長い黒髪を鬱陶しそうにかき上げて、私の意識が戻った事に気がつくと、引き結ばれた精悍な口元を緩め、ふっと笑いました。

「こ…こは…」
「無理に喋るな。怪我は治したが、熱もあったし消耗しているだろう」

    もう一人いた青年が、湯気の立ったカップを傍らに置き、スプーンで掬い、中身を飲ませてくれようとしたので、少し口を開く。
「…!熱…苦い、です…」
「ふっ…グレンも気がきかないな。ふーふーして冷ましてやれ」
「嫌ですよ…ですが、苦いのは我慢して下さい、身体が暖まります」

    薬草のスープか…確かに、お腹の中からぽかぽかしてくる。
「あの…ここは、あなたは…」
    見た所、山小屋のようだ。グレンと呼ばれた人は、きっちりとした服を着て、剣も下げているけど、この方は只の作業着のようだ。なのに、グレン様は敬語を使っている。

「その前に一番不思議なのは君だがな。どこかの令嬢?元着てたのはボロボロだけど、ドレスだよな?」
「私…うっ!私は…誰でしょう?」
「は?いや、聞いてるのは俺だけど?」

    壁にかかっているのは、ブルーのドレス…ただし、あちこち切れていて、もう廃棄するしかないだろう。
    今、私が着てるのは簡素なシャツ。

「あの…私、この服は」
「いや、あの場合仕方ないだろう?君は川を流されてきたんだ。それにこの小屋には女性もいないが…どう見ても成人前だし?人助けだ。俺は悪くない」

「はあ…だとしても言い方ってものがあるでしょうに。ジーク様、子供でもレディに対してそれはちょっと」

    私…子供でしょうか?…何かを思い出そうとすると、酷く頭が痛みます。
「それで?名前位は聞いてもいいよな?」
「失礼しました…ですが、何も思い出せなくて…すみません。あの、助けて頂きありがとうございました」

「記憶がない?おいまさか…」
「装っているようには見えませんが。間者の類いにしては随分お粗末ですし」
「確かにな。俺に差し向けるなら、これはない」

    良く分からないですが、そこはかとなく馬鹿にされているような…?
「事故か事件か。少なくとも名前も分からないんじゃな…おい、適当に名前言うから、引っ掛かったら言えよ」

    名前から愛称から、色々と言って下さった。
「あ!…多分、マリーでしょうか?何か懐かしい気がします」
「んー…愛称みたいだけど、まあいいや。いずれ分かるだろう」

「それで、どうするのですか?」
「どうするって…置き去りには出来ないだろう?俺が拾ったんだし、面倒は見てやる」
「ありがとうございます、ジーク様」
    ふらつきながらもカーテシーを…やはり無理がありましたわ。
「いいから寝てろ。動けるようなら、明日には出るからな」

    今は昼間のようです。状況がまだいまいち掴めませんが、取り敢えず命に別状はないようです。

    ジーク様とグレン様は、釣りに出掛けたようです。
    ここには息抜きと趣味を兼ねて来ているそうで、お二人はとても仲が良さそうです。

    夕ご飯にと渡されたのは、魚の串焼き。正直、どうやって食べたらいいか困っていたら、ジーク様が頭からかぶりついた。

    頭はちょっと…グレン様は、背びれを取って背中から食べているようなので、そちらを真似して食べてみました。
    食事自体が久しぶりだったのもあって、とても美味しく頂きましたが、カトラリーの類いはないのでしょうか?
    けれど、こうして食べるとより美味しく感じるのは不思議ですわ。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

能ある妃は身分を隠す

赤羽夕夜
恋愛
セラス・フィーは異国で勉学に励む為に、学園に通っていた。――がその卒業パーティーの日のことだった。 言われもない罪でコンペーニュ王国第三王子、アレッシオから婚約破棄を大体的に告げられる。 全てにおいて「身に覚えのない」セラスは、反論をするが、大衆を前に恥を掻かせ、利益を得ようとしか思っていないアレッシオにどうするべきかと、考えているとセラスの前に現れたのは――。

運命の番より真実の愛が欲しい

サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。 ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。 しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。 運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。 それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。

【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し

有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。 30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。 1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。 だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。 そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。 史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。 世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。 全くのフィクションですので、歴史考察はありません。 *あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。

だって悪女ですもの。

とうこ
恋愛
初恋を諦め、十六歳の若さで侯爵の後妻となったルイーズ。 幼馴染にはきつい言葉を投げつけられ、かれを好きな少女たちからは悪女と噂される。 だが四年後、ルイーズの里帰りと共に訪れる大きな転機。 彼女の選択は。 小説家になろう様にも掲載予定です。

モブ令嬢、当て馬の恋を応援する

みるくコーヒー
恋愛
侯爵令嬢であるレアルチアは、7歳のある日母に連れられたお茶会で前世の記憶を取り戻し、この世界が概要だけ見た少女マンガの世界であることに気づく。元々、当て馬キャラが大好きな彼女の野望はその瞬間から始まった。必ずや私が当て馬な彼の恋を応援し成就させてみせます!!!と、彼女が暴走する裏側で当て馬キャラのジゼルはレアルチアを囲っていく。ただしアプローチには微塵も気づかれない。噛み合わない2人のすれ違いな恋物語。

【完結】好きになったら命懸けです。どうか私をお嫁さんにして下さいませ〜!

金峯蓮華
恋愛
 公爵令嬢のシャーロットはデビュタントの日に一目惚れをしてしまった。  あの方は誰なんだろう? 私、あの方と結婚したい!   理想ドンピシャのあの方と結婚したい。    無鉄砲な天然美少女シャーロットの恋のお話。

夢を現実にしないための正しいマニュアル

しゃーりん
恋愛
娘が処刑される夢を見た。 現在、娘はまだ6歳。それは本当に9年後に起こる出来事? 処刑される未来を変えるため、過去にも起きた夢の出来事を参考にして、変えてはいけないことと変えるべきことを調べ始める。 婚約者になる王子の周囲を変え、貴族の平民に対する接し方のマニュアルを作り、娘の未来のために頑張るお話。

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

処理中です...