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小さな世界

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    教本を配り、皆さん新しい知識にすぐに飛び付いた。
    錬金術に関しては、直接教えられない…低級ポーションを作ろうとしても、効果が勝手に上がってしまうから。

    それでも、成功させた他の人の物を見ると、しっかり低級ポーションになっている。
    因みに、世界樹の葉を使った万能薬は、私が作ると何故か生きてさえいれば、死にかけていても万全の状態にまで回復してしまうエリクサーになってしまう…私の錬金術は封印しないとだね。

    高い効果があるからと、うっかり流通もさせられない。これを巡って争いが起きるレベルの物だからね。

    本は、もう一冊作った。スキルに関して書いた本だ。但し、チートだと思われるスキルに関しては、他にもありますよ…的な事をチラッと書いて終了だ。
   
    勿論人によって向き不向きがあるだろうけど、習得方法の触りだけだ。あとは自分で考えて、研さんしていく物だからね。

    スキルの本は、希望者があまりにも多かった為、重版に次ぐ重版をして、やっと落ち着いてきたかな…どのみち触りしか書いてないから参考程度にしかならない。

    そして、ふっと我に返って考える…あれから五年だ…カレンダーもないし、大体の目安でしかないけど、もうすぐ17歳…多分ね。
    いや、姿が全く変わらないし、多分そうなるとは薄々考えていた。信仰対象の姿が変わらないのは、お約束みたいなものだ。
    
    管理者代理から、管理者になった。ついさっきだけどね、気がついたのは。
    まずね、精霊のみんなの態度が変わった。あのキーキー煩かったミカルが、今では敬語だし…最初に聞いた時は、変な物でも食べたかと思ったよ。

    しばらく貰った部屋にも帰っていなかった。自分の部屋が作れたからだけど、良く考えたら貰ったというより間借りさせて貰ってるの方が近いのかなと考えたら、出て行く算段つけるじゃん?普通に。

    私物は全部アイテムボックスの中だし、家具も自分でコツコツ揃えた物があるから、特に苦労はしていない。
    私とトールの間には加護の繋がりがあるから、無事なのは分かっているだろうし。

    でも、代理が消えた事はトールも気がついただろうから、久しぶりに、懐かしのトールの部屋に帰ってみようと思った。

    懐かしの玄関のドア…引き戸を開け、中に入る。
「ミノリ…!良かった。やっと帰って来た!」
    ギュッと抱き締められて、あれ?と思う。
「いや…無事なのは分かるでしょ?」
「だからって…この部屋から出て行くなんて、聞いてない!というか、どうしてそういう考えになったのか…俺に会いたくなかったから?」

    なんだか情けない顔だ。捨てられた犬みたいな顔?
「だって、メール来てないし…え?え?」
    何故か、ここに戻った途端に怒涛のメールの嵐。
    帰って来てほしい…そんな願いを感じた。

「まあ…そこまで思い当たらないのは、仕方ないな…どうやら嫌われた訳じゃないと知って、ほっとしてる」

「つまり、異世界の神様であるトールは、この世界に足を踏み入れる事すら出来なくて、介入不可だから、メールも届かなかった…何かごめんなさい」

「いや、俺も先の事は説明出来なかったし…元々確率的には非常に低かった。一番のキーは、ドラゴンゾンビだったけど、あれは倒さない選択もあったんだ…俺は決して強要はしてなかっただろう?」

「そう…なんだ。確かに私も、移住させる方法は考えたけど、勢いもあったし」

「ふるさとを大切にしたい、って思った?」
「そうだね。帰れない私は、特に切実に思ったよ。仕方なくても思い出しちゃうし、記憶は消したくない」

「それで…ここから出た理由は?聞かせてくれる?」
「いや…間借りしてた訳だし、自分の力で部屋作れたら、普通に考えたら引っ越すでしょ」

「えええ…そんな理由?本当にそれだけ?」
「だって、家賃払ってないアパートに我が物顔で住み続けられる程、神経図太く出来てないよ」

「だけど、ここはミノリとの唯一の繋がりで…」
「だからそれ、知らなかったし…代理が外れたのに気がついたのは、ついさっきで…さすがに報告は、と思って」

    トールはがっくりとソファーに座り込む。
「結構前だったよ…まあ、何にせよ、おめでとう…これでバルスは安定して成長していくよ」
「そっか…私はもう、バルスにはいられないんだね」
「ルールだからね。…それで提案なんだけど、君は新神だし…少なくとも慣れるまでは、傘下に入らない?」

「…零細企業が、大企業の傘下に加わるという名の、吸収合併?」
「?ええと…違うね。一部繋がるけど、違う世界に変わりはない。…てか、喩えがマイナー過ぎて、理解も難しかったし…言ってて虚しくならない?」
「あ、ごめん…ていうか、こっちがお願いする立場だよね?」

「そうだけど、了承してくれなかったらなかなか会えなくなるし…それは嫌だ」
「そっか…ホトス様が残した最後の世界だもんね」
「そうじゃない!…っ!もう。鈍いのかはっきり言われたくないのか、どっちだよっ!」

「は?…何いきなり切れてるの?」
「好きだから会えなくなるのは嫌だ!」

「………」

「そのキョトン顔、地味に傷つくな…全くそういう風に考えた事もなかったし、気持ちにも欠片も気がつかなかった?」

「あ…うん。初耳だし、今までそんな素振りあった?」
「ええと…いつも怒らせてるし…タイミングが」
「タイミングって…最後の最後には言ってくれた…って事だよね…トールの事は嫌いじゃないよ?命の恩人…じゃおかしいか。感謝してる。わ、私もさ…何でかトールには、素直になれないっていうか…これまで生意気でごめんなさい」

「じゃあ…!これからは好きになってくれる?」
「そ…そんなのわかんないよ!恋愛経験ゼロの私に、無茶言わないでよ!」

「そうだね…でも、拒否られないだけでも凄く嬉しいよ!」
「そ…そう?」
    見つめられて、ドキドキして目を閉じた…軽く触れるだけのキス…長生き主神様は、以外と奥手?

「今から俺の世界に来る?仲間に紹介したいし」
   うん…最初は肝心だよね。というか、お荷物に思われてたりしないかな?

    手をつないで移動した先には、興味津々な方々が…
「おお!賭けは俺の勝ちかな?」
「大穴狙いで精霊のアトム君に賭けたのに…失敗だわ」
「うちの主神と対等に付き合える、大物だと噂しておったよ!」
「…やっぱりトーラス様、ロリコン?」
「こらー!お前ら!賭けとか…好き勝手言うな!」
「だって、久々に面白そうだしな!」
「トール、がんばれー」

    娯楽扱い?
「あの…これからはよろしくお願いいたします。何卒ご指導ご鞭撻を賜りたく…」
「あ、そういうのいいから。勿論、先輩としては色々と…」
「オルゲン!進捗報告!」
「それで?これからはお付き合いをしたり…勿論仕事抜きでよ?」
「え…」
「ミレイユ、ミノリを困らせるなよ?」

    まあ、淋しさとは無縁に過ごせそう?かな。

    トールとはまだまだこれからだし、先の事なんてわからない。素直になれない時だってあるだろう。今までみたいにね。

    人口六千人弱の、小さな星の、小さな世界。だけど、今ではミノリが頑張った事を誰もが知っている。
    一度は滅びに瀕した世界だけど、これからは発展してゆくだろう。



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