貴族の四男に生まれて居場所がないのでゴブリンの村に移住して村長をします

佐藤スバル

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第二章

ドライアドの依頼②

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 ゲッターは執務室に戻ると、まずはレイクにアイナを呼んでもらうよう頼んだ。
 アイナが来るまでの間、ゲッターはガプロと共に先ほどのエリーとの会話を振り返りながら考えを巡らせていた。

「ガプロ、君はスタンピードについて何か知っていたのか?」
 ゲッターが問いかけると、ガプロは少し考え込んでから答えた。
「スタンピードや世界樹については全く知りませんでした。しかし、津波のような現象については、私が子供の頃からの言い伝えで耳にしたことがあります」

「津波とはどういうことだ?」とゲッターがさらに詰め寄ると、ガプロは少しずつ思い出しながら話し始めた。
「それは、何十年かに一度、森の奥深くから巨大な力が津波のように押し寄せてきて、森の外まで押し流されるというものです。どんなに踏ん張っても、木にしがみついても、その力には抗えず、文字通り押し流されてしまうそうです」

 ゲッターはその話を聞き、深く頷いた。
「その森からモンスターたちが溢れ出す現象を、人間たちはスタンピードと呼んでいたのだな」と納得したように言った。

「しかし、世界樹とは一体どんなものなのでしょうか?」とガプロは興味深そうに尋ねたが、ゲッターは首を振りながら答えた。
「さっきのエリーとの話だけでは、全くわからないな」

 ゲッターは続けて深刻な表情を浮かべた。
「それよりも、ヴェルデリオンという竜の存在が気になる。強大な力を持つ竜がこの森に住んでいるとなると、我々の防衛体制を一から見直す必要があるかもしれない」と、彼は考え込んだ。

「竜から身を守る方法なんて、まるで見当もつきませんね」と、ガプロはお手上げのポーズをしながら冗談めかして言ったが、その表情には不安が隠せなかった。

 そんな話をしていると、レイクがアイナを連れて戻ってきた。
 アイナは普段通りの落ち着いた様子だったが、レイクは少し息を切らしていた。どうやら急いで走って呼びに行ってくれたようだ。
 アイナはレイクを椅子に座らせると、自らお茶を淹れるために立ち上がった。

 アイナがお茶を淹れて戻ってきた頃には、レイクの息もだいぶ落ち着いていた。
 ゲッターはレイクにそこで休むよう指示し、アイナにはエリーから聞いた話を詳細に説明した。

 アイナは話を聞き終えると、不思議と納得したように頷いた。
「なるほど、違和感の正体は世界樹だったんですね」と、彼女は深く息をついた。

「洗礼式で『気配制御』を授かってから、森の中で常に何かしらの違和感を感じていました。気配は感じないのに、何かがそこにいるような気がして、気味が悪かったんです。その感覚は、森の中ならどこにいても消えないので、『気配制御』で広範囲に探ってみたりもしましたが、結局正体を掴むことはできませんでした。ドライアドに隠されていたのなら、それも納得ですね」と、アイナはほっとしたように微笑んだ。

「緑竜のことは、今気にしても仕方ないと思います。ドライアドが私たちのことを知っているなら、緑竜もすでに知っているでしょう。それでもこれまで何もされていないのですから、すぐに襲われることはないと思います」とアイナは冷静に続けた。

 ゲッターは考え込んだ末に意見を述べた。
「ヴェルデリオンが世界樹を守っているのなら、エリーとは仲間と言える関係なのだろう。それなら私たちがエリーの依頼を受けている間は、少なくとも襲われることはないだろう。この状況を利用して、エリーからヴェルデリオンについての情報を集めたいと思う」

 ガプロとアイナはその意見に同時に頷いた。
「機会があれば、ヴェルデリオンと直接会って真意を問う必要がありますね」とガプロが言うと、ゲッターとアイナは苦い表情を浮かべたが、何も言い返さなかった。

 アイナは一口お茶を飲んでから言った。
「何にしても、世界樹を実際に見てみないことには始まらないですね。世界樹の実の大きさや形もわからないままでは、どうしようもありませんから」

 ゲッターもその意見に賛成し頷いた。
「そうだな。明日は私、ガプロ、アイナの三人で向かうことにしよう。レイクは留守の間を頼む」
 レイクは息が整ったようで、きれいな姿勢で「承知しました」と答えた。

 ゲッターはアイナに向き直り、「猟の方はアイナがいなくても大丈夫か?」と確認した。

 アイナは笑顔で答えた。
「ミロスとヨイチはもう一人前ですよ。それに他の者たちも形になってきましたから、私が不在でも大丈夫です」

 ゲッターは少し安心しながらも、ため息をついた。
「それにしても、思わぬところで問題が飛び込んできたな」

 ガプロもそれに同意し、「ゆっくり子どもと過ごす時間がありませんね」と言った。
「まだまだ隠居はさせませんよ」とアイナは笑顔でガプロの肩を軽く叩き、微笑みを浮かべた。


             ⭐️⭐️⭐️

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