貴族の四男に生まれて居場所がないのでゴブリンの村に移住して村長をします

佐藤スバル

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第二章

ドライアドの依頼①

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「レイクはドライアドに会ったことがあるの?」
 ドライアドのエリーが来てるというところに向かいながらゲッターはレイクに聞いてみた。
「私は会ったことはありません。村にドライアドが来たという話も聞いたことがありません」とレイクは答えた。
 ゲッターにはドライアドに関する知識が森の妖精であるということくらいしかなかった。正直心細い。
「ガプロにも来てもらった方が良さそうだな」とゲッターが言うと「すでに呼びにいっているので向こうで会えると思います」とレイクは答えた。

 エリーのところに行くとすでにガプロは来ていた。

 ゲッターを見るとエリーは笑顔になり、きれいなお辞儀をして挨拶をした。
「私はこの森に住むドライアドでエリーといいます。今日はお会いできて嬉しく思っております」
「私はこのゴブリン村の村長でゲッターといいます。私もお会いできて光栄です」とゲッターも丁寧に挨拶した。
 ガプロは挨拶をすでに済ませたとのことだった。

 エリーはアイナと同じくらいの背でとてもきれいな人、というか妖精だった。
 羽は無いが緑色の羽衣のような服を着て手には木の杖を持っていた。 
 美人で穏やかな笑顔を浮かべているがオーラというか存在感がすごく、ゲッターは気圧されないように内心気合いを入れた。

「建物の中では私が落ち着かないのでここまでご足労いただきました。申し訳ありません」とエリーが言うのでゲッターは「今日はどのようなご用件で」と聞いた。
「まずは座ってゆっくり話ましょう」とエリーは言って近くの木陰を指差した。
 ゲッターは「まるっきり話が向こうのペースだな」と内心警戒を強めて誘われた木陰に座った。ガプロを見ると彼も緊張しているようだった。

 全員が座るとエリーが話始めた。
「実はゴブリンの村が急速に発展していると聞いて少しお願いがあってきたのです」
「どんなお願いですか?」とゲッターが聞くと「その前に、人間のあなたが村長になったから、ゴブリンの村が急速に発展したのですね?」と尋ね返してきた。
「私の力など微々たるものです。みんなの努力があってのことです」とゲッターが答えると「ご謙遜を」とエリーは返した。
「ゴブリンたちに食糧と知識を与えることはなかなかできません。ガプロに知識を与えた人間もガプロ以外には授けませんでしたから」とエリーが言うのでゲッターは「このドライアドはどこまで知っているのだ?」と警戒をさらに強くした。

「私はこの森でゴブリンたちとの共存を望んでいます。ですがゴブリンたちが貧しいままでは共存も何もありません。だから食糧を集める術や快適に暮らすための知識を与えているのです。」とゲッターは答えた。
 エリーは微笑みを深めると「ゲッター様とアイナ様がお持ちのスキルは何なのですか?」といきなり単刀直入に聞いてきた。

 ゲッターはすぐには答えられず黙ってしまい、その場に重い空気が流れた。

 スキルは洗礼式の際に神父から大々的に伝えられるので、身近な人はどんなものか知っていることが多い。
 それ以外の人にも教えるかどうかは人それぞれではあったが、それでも初対面の人にいきなり教えるものではない。
 今後の関係がどうなるかわからず、人によっては切り札にもなり得るスキルについて他人に教えるのはリスクがあった。

 ゲッターが黙っているとエリーは真剣な表情で「不躾に質問してしまい申し訳ありません。ですがゲッター様とこの村にお願いしたいことに関わってくるのでお聞きしました」とエリーは頭を下げた。
「そのお願いの内容を先に教えてもらうことはできませんか?」とゲッターが尋ねると、今度はエリーが黙って考え込んだ。

 美人なエリーだが真剣な表情で静かに考え込んでいると、冷たい印象があった。きれいな透き通るような肌がそう感じさせるのかもしれない。

 しばし黙考していたエリーだったが「うん」と言うと覚悟を決めて話し始めた。
「これからのことはできるだけ内密にお願いします。」と前置きしてからエリーは話始めた。
「この森の中心には世界樹があります。実はその世界樹になる実が近々熟れて落ちそうなのです。ゲッター様たちにはその世界樹の実を地面に落ちないようにしてほしいのです」とエリーはゲッターたちに頼んできた。
 ゲッターは全く想像もしていなかったお願いで、正直何が何やらまったくわからなかった。だから一つずつ聞いていくことにした。
「私たちに何ができるのかさっぱりわかりませんが。まず世界樹について教えてくれませんか?」とゲッターは聞いた。
「世界樹とは原初の太古からこの世界を支える聖なる木で万物の命の源です。この世界には8本の世界樹の成木があり、その一本がこの森の中心にあります」とエリーは説明した。
「この森にそんな木があるのですか?聞いたこともない」と言ってゲッターがガプロを見るとガプロも知らないのか首を横に振った。
「普段は私が世界樹から力を借りて世界樹の周囲に結界を張っています。その結界の効果で世界樹は見つからないようになっています」とエリーは言った。
ゲッターが「外敵から身を守るためですか」と聞くとエリーは頷いた。
「そうです。世界樹は大きな力を持っていますが、自らはほとんど何もできません。力を蓄えて周りに与えるのみです。そのため世界樹の世話役として私たちドライアドがいるのです」とエリーは言った。
 さらに「世界樹はそれだけでも力があり、その葉や枝一つでも色々な道具の素材や魔法の触媒になります。そのため外敵に狙われることが多く身を守るために結界が必要なのです。世界樹の存在はできるだけ秘密にしてください」とエリーは頭を下げた。
「それで世界樹の実というのは?」とゲッターはエリーに続きを促した。
「世界樹の実は数十年に一度世界樹になります。世界樹も繁殖するため実をつけ周囲に飛ばすのです。他の植物と一緒で、できるだけ広い地域に繁殖するため他の生物に運んでもらう必要があります。この森でその役目を負っていたのが、この森の守護者である緑竜ヴェルデリオンです。」

「そのヴェルデリオンがいるなら私たちの力は必要ないのではないですか?」とゲッターは思ったことを聞いてみた。
 エリーは困った顔をして「緑竜ヴェルデリオンはこの森の世界樹がまだ苗木の頃から見守ってくれているエルダードラゴンです。ヴェルデリオンが守ってくれていたから世界樹は成木にまで成長でき、森もここまで大きくなれたのです。これまでの長い間ヴェルデリオンが世界樹の実を遠くの地まで運んでくれていました。ですがある時ヴェルデリオンが言ったのです。『飽きた』と」と言った。
 ゲッターは最初エリーが何を言ったのかわからず聞き返した。
「ヴェルデリオンは飽きたから世界樹を守るのをやめたということですか?」
「ヴェルデリオンはこの森を住処にしているので世界樹を守ることはやめていないと思います。森を守るためには世界樹も守るでしょう。ヴェルデリオンがやめたのは世界樹の世話である実を遠くまで運ぶことです。」とエリーは言った。
「世界樹の実を広く蒔くことで世界樹は繁殖しますが実際には芽を出して苗木、そして成木になることはほとんどありません。多くは芽を出すこともないです。世界樹の実には多くの聖なる力が宿り、また味も格別に美味しいらしいので他の生物に見つかったらほとんど食べられてしまうからです」
「ヴェルデリオンは世界樹の実の味に飽きてしまったのですか」とゲッターは呆れていった。
「ヴェルデリオンも遠くへ持っていって蒔いてくれていたこともありました。ですがそれも面倒になり次は実を食べるようになりました。今では味に飽きて食べるのもやめてしまったのです」とエリーは言った。
「ヴェルデリオンが食べるのをやめると何か都合が悪いことがあるのですか?」とゲッターはまた疑問をぶつけた。
「世界樹の実には聖なる力がたくさん宿っています。実が熟れて地面に落ちると周囲に一斉にその聖なる力が広がります。するとその聖なる力に耐えられない動物たちが森からみんな逃げてしまうのです。しばらくすると動物たちは帰ってきますが、森に生きるものが一時的とはいえ全くいなくなってしまうと森が荒れてしまうのです」とエリーは悲しそうに言った。
「ヴェルデリオンも森が荒れると困るのでは?」とそれまで黙っていたガプロが聞いた。
「長久を生きるドラゴンにとって森が荒れて元に戻るまでの時間は一瞬みたいなものです。ですが森を出ていく動物たちにとっては死活問題です。ゴブリンもそうでしょう?」とエリーはガプロに聞き返した。
 そのことから世界樹の実が落ちた際の聖なる力に耐えられないのはゴブリンも同じであることがわかった。ゴブリンもとなると人間であるゲッターたちも耐えられないのは一緒だろう。
 ふとゲッターは気付いたことを聞いてみた。
「数十年周期で発生するモンスターのスタンピードは世界樹の実が落ちるから発生するのですか?」
「モンスターも森で生きるものという意味で他の動物たちと同じです。世界樹の実が落ちても森から逃げ出さないのはヴェルデリオンや私たちドライアド以外にはほんの数種類の力あるものたちだけです」とのエリーの答えでスタンピードの原因がわかった気がした。
 そうなるとゲッターたちにエリーのお願いを断る選択肢はない。エリーの言うとおり森を捨てて逃げ出すことは不可能だ。
 ガプロも同じ結論なのだろう。ゲッターと目が合うと頷いて返してきた。
「わかりました。その願いお引き受けしたいと思います」とゲッターが言うとエリーはほっとした表情で「ありがとうございます」とお礼を言った。
「私のスキルは『加工』です。アイナのスキルは彼女に確認してからお伝えします。それで私たちのスキルを使って具体的にはどうすればいいのですか?」とゲッターは改めて聞いた。
「世界樹の実が地面に落ちて強い衝撃を受けると、その弾みで聖なる力が森一帯に広がります。なので実が落ちる前にゲッター様たちに実を取ってほしいのです。取った実は差し上げます。どうかお願いします」とエリーは答えた。
 実がもらえるのはうれしいなと思いながらゲッターは重ねて聞いた。
「世界樹の実の数は一つですね?」
 エリーは頷きながら「そうです。ごく稀に複数の実がなることもありますが今回は一つです」と答えた。
「どうやって実を取るか考えるためにも、近いうちに複数人で世界樹を訪れたいと思いますが大丈夫ですか?」とゲッターが聞くとエリーは「大丈夫です。ですができるだけ世界樹の存在が広がらないようにお願いします」と答えた。
 ガプロを見ると頷いて「私は大丈夫だ」と言うのでゲッターはこの話を終わらせることにした。
「わかりました。明日にも何人かで世界樹を訪れたいと思いますがどうすればいいでしょうか?」とゲッターが聞くと「明日の朝私がこちらにお迎えにきます。私がいないと結界を越えられないので」とエリーは言いながら手を出してきた。
 ゲッターは手を握り「ではよろしくお願いします」と答えた。
 エリーは笑顔で「よろしくお願いします。ではまた明日。ごきげんよう」と言うとフッと消えてしまった。
 今までのやり取りが全部まぼろしではないかとゲッターは一瞬思ったが、ガプロとレイクも「消えた」と言うのでまぼろしではないのかと思い直した。


             ⭐️⭐️⭐️

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