貴族の四男に生まれて居場所がないのでゴブリンの村に移住して村長をします

佐藤スバル

文字の大きさ
23 / 42
第三章

サルバトールの歓迎会

しおりを挟む
 村に着いたサルバトールは目を点にして驚いていた。
 彼はゴブリンの村を訪れるのは初めてのことだったがこんなに発展しているとは思っていなかった。
 サルバトールはゲッターに「他のゴブリンの村もこんなに発展しているのですか?」と聞いたが、ゲッターは他のゴブリンの村を知らないので「わからない」としか答えられなかった。
 
 サルバトールは特に家の壁に描かれたゴブリンたちの色とりどりの絵が気になるようで誰が描いたのか一つ一つ尋ねてきた。
 ゲッターはその問いに丁寧に答えていった。

 ゲッターの家に着くとレイクに「今夜はサルバトール殿の歓迎会をする」と伝え、準備をするように指示した。
 ゲッターはサルバトールに客間に荷物を置いてくつろぐように言ったが、サルバトールは「村の中を見学させていただけませんか?いくつか気になる絵があったもので」と言ってきた。
 サルバトールは少し興奮した様子で「ゴブリンがこんなに芸術的センスにあふれた種族とは知りませんでした。ぜひ作家さんを紹介して欲しいのです」とゲッターに迫ってきた。
 ゲッターは「作家?」と疑問形の呟きを発してから「わかりました。夜の宴の際にご紹介します」と答えた。
 そんな時、勢いよく扉を開けて「ゲッター様!私に何か用があると聞きましたが」と言いながらアイナが入ってきた。
 アイナはサルバトールに気づくと真っ赤になり急いで姿勢を正して「これは大変失礼しました」と丁寧に謝罪した。
 サルバトールは「いえいえ」と気にしていない様子だったが、ゲッターはジト目でアイナを睨んでしまった。
 ゲッターは気を取り直してサルバトールにアイナを、アイナにサルバトールを紹介して夜に歓迎会を催すことを伝えた。
 それからアイナにサルバトールが村の見学を希望していることを伝え、その案内を頼んだ。
 アイナは名誉挽回とばかりに張り切ってサルバトールを案内して回った。

 夜になり、サルバトールの歓迎会が始まった。
 この夜はお酒は振る舞われなかったが、ゴブリンたちはいつものように楽しんでいる。
 食料事情の改善のおかげで恥ずかしくない準備ができたとゲッターは自信を持っていた。

 サルバトールも上機嫌で、酒も飲んでないのに興奮のためか少し赤い顔をしていた。
 サルバトールはよっぽど気に入ったのか、しきりにゴブリンの絵を褒めていた。
 サルバトールは特に3人のゴブリンの絵が気に入ったようで紹介を頼まれたのでゲッターは近くに呼んだ。
 
 1人目は洞窟の壁画でもその芸術性を発揮していたイレだ。
 イレの描く絵の特徴はその繊細なタッチだ。細かいところまで精密に描かれている。さらにとても写実的でまるで目の前に実物があるかのように描かれていた。
 見る者の記憶に鮮明に刻み込まれる絵が評判だった。
 
 2人目はゴータという男のゴブリンだ。
 ゴータの描く絵の特徴はその色彩だ。ゴータは色使いにとてもこだわっていて村で1番顔料を集めていた。
 村のみんなの推薦で、ゴータは村の食料集めには参加せず顔料集めを仕事にしていた。顔料が欲しいときはゴータに言えばもらえるのだ。
 ゴータが描く絵で特に評判がいいのはグラデーションの美しさにあった。見る者の心を震わせる力があった。
 
 3人目はペルという若い女のゴブリンだ。
 ペルの描く絵の特徴はそのデザイン性だ。ペルは独創的で奇抜なデザインの絵を描いた。時に可愛らしく、時にユーモラスに描かれるペルの絵は子どもたちにとても人気があった。子どもたちにせがまれいつも何かに絵を描いてあげていた。

 ゲッターは芸術的センスがないので「みんな上手いな」くらいにしか思っていなかったが、サルバトールが選んだ3人は村でも特に評判が高く、ヴェルデリオンも認める腕前らしい。
 
 ゲッターが3人をサルバトールに紹介するとサルバトールは目を輝かせて「私が出資するからグリプニス王国の王都で工房を開かないか?」と提案した。
 この話には本人たちも含めて一緒に話を聞いていたゲッターも驚いた。
 サルバトールは勢い込んで「あなたたちの芸術的才能は間違いなく本物だ。絶対に国で1番の画家になれる。きっとお金持ちになれる。王家の目に止まれば宮廷画家も夢ではない」と捲し立てた。
 森を出たことがない3人たちはピンときていないようで困った顔をしていた。
 イレは助けを求めるようにゲッターの方を見た。
 ゲッターはサルバトールを宥めるように「彼女たちは森を出たことがありません。王都での暮らしは無理ですよ」と言った。
 その言葉にサルバトールは少し落ち着いたが「確かに王都ではゴブリンをほとんど見かけませんが、地方の街や村なら暮らす者たちもいます。冒険者ギルドに所属するゴブリンもいると聞きました。私が持てる力を結集してあなたたちの芸術ギルド入りを働きかけます」と力強く言った。
「いづれにせよ彼女たちにも考える時間が必要ですし、サルバトール殿にも準備が必要なのでは?」とゲッターが言うとサルバトールは諦めきれない様子であったが勧誘するのをやめた。
 それを見てゲッターは笑顔を見せながら「彼女たちはサルバトール殿に褒められたのがとてもうれしかったようですよ。自分たちが絵付けした食器を贈りたいとのことです」と言って3人に頷いて見せた。
 3人はそれぞれ絵付けした食器を手渡し「褒めてくれてうれしかったです」「認めてくれてありがとう」「こんなに絵を喜んでもらえたのは初めてです」とお礼をした。
 サルバトールは食器を受け取ると「信じられない」と言って一つ一つをじっくりとまるで鑑定でもするように観察し始めた。
 そのあまりにも真剣な表情は見ているゲッターたちが緊張してしまうほどであった。
 食器を観察し終わるとサルバトールはゆっくりと「他にもあなたたちが絵付けした食器、あるいはなんでもいいので作品はありますか?」と尋ねた。
 ゲッターが3人の顔を見回すとイレは「少しなら」ゴータは「いくつかある」ペルは「子どもたちに描いたのでよければ」と答えた。
 するとサルバトールは今日1番の力強さで「今持っている全てのお金を出すので譲ってください。足りないなら、持ってきた商品も渡す。それでも足りないなら店に戻って持ってくる。どうかあるだけ譲ってほしい」と途中から土下座しながらお願いしてきた。
 いくら止めてもサルバトールは土下座をやめなかったので、ついにイレが切れて「顔をあげないと食器は渡しません」と怒ったのでサルバトールは土下座をやめた。
 イレのおかげでゲッターはやっと話ができると思った。
「明日落ち着いて交渉しましょう。悪いようにはしませんから」と言うとサルバオールも落ち着いたようで「明日が待ち遠しいですな」と言った。
 サルバトールは貰った食器を抱え込むと「明日の準備のために荷物の整理をしたいと思います。本日はこれで失礼します」と言って客室に帰っていった。
 ゲッターたちはどっと疲れが押し寄せたが、明日のために打ち合わせを行なった。
 そのため主賓のいなくなった宴はもう少し続くのであった。


             ⭐️⭐️⭐️

❤️応援されるととてもうれしいのでよかったらお願いします。
励ましのコメントもお待ちしてます。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

処理中です...