貴族の四男に生まれて居場所がないのでゴブリンの村に移住して村長をします

佐藤スバル

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第三章

グリプニス王国へ

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 その日、ゲッターたちはグリプニス王国のペセタの街へ向けて出発した。
 街へ行く話をカプルたちにしたら2人は飛び上がって喜んでいた。

 2人はゲッターとアイナの旅装と同じように革製の装備にバックパック、いつも使用しているロングソードとショートボウを装備していた。
 アイナは父ノリスが作ってくれたショートボウでなく自分で作ったロングボウを持っていくことにした。
 森の西側に大型のモンスターが棲んでいることと、もしかしたら森を抜けたら草原など広い場所で戦闘することが想定されたからだ。
 それに今回はカプルとアッグがいるので森の中で速射をする必要があまりないと思われたからだ。

 一行は村中総出の見送りで出発した。
 旅程としては村から東へ一週間ほどの旅となる。
 森の東側にはイビルベアーやグレートブルの営巣地があると知ると、サルバトールは震え上がっていた。
 しかしこの辺りは森からすると北東に位置するので、サルバトールが今までそれらのモンスターと出会っていないことからすると営巣地はもっと南にあると予想された。

 ただゲッターとアイナはそれらのモンスターが出ても囲まれなければ大丈夫だと考えていた。
 もちろんアイナがいるからというのが1番の理由なのだが、今回はカプルとアッグがいるのも大きな理由であった。

 カプルは剣の腕前をメキメキと伸ばしていた。弓よりもやはり剣の方が才能があるようで、今ではミロスよりも強く村のゴブリンでは最強だった。
 ゲッターもこのままではいつか追いつかれると本気で感じていて、隠れてヴェルデリオンに稽古をつけてもらったり、夜中や早朝に剣を振るったりして修行していた。 
 いつまでもカプルの大きな壁でありたいと考えていたからだ。
 
 アッグは個人ではそこまでの強さはなかった。だがその場の状況に合わせてカプルと連携をとるのがとても上手だった。
 アッグは今でも「アニキ、アニキ」とカプルについて一緒に行動している。そのためカプルの援護をする機会が多かった。
 2人の連携は素晴らしく、ミロスとヨイチのコンビも今では歯が立たなかった。
 アッグは周りをよく見ているし、他人に気を配ることが上手だ。
 今回の旅を通じてカプル以外の人とも連携がうまく取れるようになるきっかけになればとゲッターは考えていた。

 ゲッターたちは道中サルバトールからグリプニス王国について教えてもらっていた。

 グリプニス王国は大陸の北側、海に面している国だ。北の海は大型のモンスターが多く棲む過酷な海だが沖まで出なければそれほど危険はない。そのため海からの恵みはグリプニス王国の貴重な資源となっていた。国土の中央をレイプス川という大河が流れていて、川を利用して上流の国々に多くの物を輸出していた。
 国王はレイバロス3世という人物で、すでに治世が30年以上となり名君の誉が高かった。ただすでに高齢で最近は王太子のフィオレン王子が中心になって政治を行っているようだ。レイバロス3世は若い頃は苛烈で国内を統べるためにかなり武力を振るったが、国が安定してからは内政に努め、他国とも外交を通じて良好な関係を保っていた。その甲斐あって現在のグリプニス王国はかなりの国力を持っている。だがまだ若いフィオレン王子は他国に対して高圧的な態度を取っているらしい。条約の改正の際に強く譲歩を迫ったり、武器を買い集めたりして少し気になる様子があるのだそうだ。国の中枢には人間が多いが、能力のある人物は幅広く登用されていて、エルフやドワーフ、小人族も多く活躍している。ただ国内のゴブリンは数は多いが冷遇されているとのことだ。ゴブリンの能力の低さが原因だが住む場所を追いやられ、農村部や鉱山などで仕事をして暮らしているなら良い方で、野盗に落ちぶれている者も多くいるとのことだ。サルバトールがミロスたちにとても怯えたのはそんな事情があったからだ。
 ゲッターたちはグリプニス王国でのゴブリンの待遇の低さを聞いても驚きはしなかった。リスモンズ王国でも同じようなものだからだ。気持ちの良い話ではないがアトラ村には関係がないことなので、ゲッターからすると自分でがんばってくださいとしか言いようがなかった。ただカプルたちは同胞の扱かわれ方について憤慨していた。
カプルとアッグのまっすぐな心根がゲッターはうれしかった。

 森の中の道のりはとても順調だった。
 モンスターに襲われることもなく、オオカミなど危険な獣はすぐに追い払ってしまった。
 ゲッターがカプルやアッグの経験にもならないなと思っていたら森を抜けてしまった。

 森を抜けるとペセタの街まであと1日という距離だがゲッターたちはそこで不穏な空気を感じた。
 
 カプルがゲッターに「さっきから見張られている」と警告を発した。
 ゲッターはもちろん気づいていたがその一言で一行に緊張が走った。
 サルバトールを中心に周りを囲んで守ることができるようにすると、気づかぬふりをして進んでいった。
 しかしやはり見逃してはくれないようで丘の陰から20人ほどの一団が近づいてきた。

「お前らちょっと止まれ!」と見窄らしい格好をした髭面の男が声をかけてきた。
 アイナが目線で攻撃することを求めてきたがゲッターは止めて、相手の出方を伺うことにした。
 盗賊らしき一団は近づいてきてゲッターたちを囲もうとしたが、それはさせないようにゲッターたちは移動した。
 それに気付いた盗賊たちは一度動きを止めて話しかけてきた。

「お前らペセタに行くんだろ?俺たちが護衛をしてやるよ」と先頭の男が話しかけてきた。そしてすぐに「なんだおっさん。子どもとゴブリンなんか連れているのか。見かけによらず金がないんだな」とサルバトールに言った。すると別の男が「いや、おっさん大事な商品を守るのにケチっちゃ駄目だぜ。俺たちがペセタまで格安で護衛してやるよ」と話しかけた。
 サルバトールは迷惑そうな顔をして「護衛は間に合っている。用がそれだけなら通してもらえないか」と言った。
 先頭の男は「こっちの用事はまだあるんだ。最近、この辺も物騒でペセタに危険物を持ち込む輩がいるんだ。だから荷物を確認させてもらうぞ」と言って近づいてきた。
 するとアイナが強い口調で「それ以上近づくな。近づくと攻撃する」と警告を発した。
 男は馬鹿にしたように「荷物を確認するだけだ。それに嬢ちゃん戦えるのか?」と言って腰に下げていたロングソードを抜いた。
 すると他の男たちも威嚇するように一斉に武器を取り出した。
 ゲッターは無駄とは思いながらもアイナに代わって男たちに最後の警告をした。
「最後の警告だ。黙って私たちを通しなさい。これ以上私たちに関わるなら容赦はしない」
 先頭の男は「おお、怖い怖い」と全く怖くなさそうに言いながら、急に素早く踏み込んできた。
 その瞬間ゲッターたちは動いた。
 先頭の男はゲッターが、そして後方で弓を持っていた男をアイナが射抜く。
 カプルはロングソードを抜くと男たちの中に飛び込み1人を一刀のもとに倒した。
 その後事前に決めていたようにゲッターがサルバトールの守りに、そしてカプルが先頭、アッグが援護、アイナが遊撃の隊形で盗賊たちを倒していった。あっという間に半分倒すと男たちはすぐに逃げ出していった。

 盗賊たちを追い払うと「こんなペセタに近いところで盗賊が出るなんてあの噂は本当だったのか」とサルバトールは言った。
 ゲッターが「あの噂とは」と聞くとサルバトールは「ペセタの領主は最近代替わりをしたのですが、その領主が裏で盗賊団を操っていて商人を襲っているという話です。領主に貢物をしないとその盗賊団に襲われるとか」と言った。
「まさかそんなことはしないでしょう?だって王様とかに知られたら死罪ものよ」とアイナが聞いたが、サルバトールは首を振り「新領主のゼルカンはフィオレン王子派閥です。それで見逃してもらっているのだと。これもあくまで噂ですが」と言った。
 ゲッターたちは不穏なものを感じながらペセタの街に向かったのであった。


             ⭐️⭐️⭐️

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