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1.突然の縁談
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「正気ですか、父上!?」
新緑まぶしい初夏。
高い声が非難の色を含んで、屋外にまで響いた。
その怒声にはじかれたように顔をあげた使用人たちだが、声の主が王女セラだと気づくと、何事もなかったのように作業に戻る。
スイハの王宮では、はねっかえりの第五王女がにぎやかなのは、自然の一部だった。
「正気で本気だ。おまえにはハルオーン国に嫁いでもらうことになった」
「なんで? だって? ハルオーンにはミナ姉様が嫁ぐという話だったではないですか!」
今年16のセラには、4人の姉がいる。3人の姉たちはとうに縁づいており、1つ違いのミナも今回の縁談で大国ハルオーンへの輿入れが決まっていた。
同盟国、といえば聞こえが良いが、実のところ相手は盟主的存在であり、数百年前は実質、かの国の支配下にあった。
碧海六島の長たるハルオーン。
スイハは碧海六島に属し、西端に位置する。
盟主国から"同盟強化のため、姫を妃として迎えたい"という連絡が来れば、小国スイハとしては要求通りに差し出すしかなく、適齢期でもあった第4王女ミナーディアに白羽の矢が立っていたはずであるが。
「……ミナは嫁せなくなった」
「…………なぜですか?」
鋭い視線で問い返すセラに、父王が言い淀む。
だが、理由も聞かずに「はい、わかりました」というような従順な王女でないことは……父も娘も、互いが承知しきっている。しぶしぶながら、王が明かした。
「…………からだ」
「聞こえません」
「ミナが身ごもったからだ」
(はっ、いぃぃぃ―――――???)
「ど、どういうことですか? だって姉様は未婚で……!! 相手は誰です!!」
「ゼダン・ハーカルだ」
大臣の息子にして、近衛筆頭の名がセナの耳に伝えられるや否や。
「父上! ゼダンを殺してきて良いでしょうか!?」
「ダメだ! 孫の父親を殺すな!」
「でも姉様を手籠めにしたんでしょう??」
「手ご……。おまえはもう少し言葉を選べ。そうではなく、合意だ!!」
合意、ということは両想いということ?
「一体いつから……」
「おまえもそう思うか? 儂も驚いたから無理はない。互いに秘めた恋心だったらしいが、ミナの縁談が決まって」
「感情が溢れ出し、若いふたりが暴走しちゃったわけですね?」
「言葉を選べと言っただろう。だが、まあ、そうらしい」
姉の結婚が決まったのは3か月前。そこからのスピード妊娠。
なんという早業。
おとなしいと思っていた姉と、忠実だと思っていた近衛。ふたりを見誤っていた。
「とにかく、そういうことだ。腹に子を宿す娘を、嫁として出すわけにもいかん。我が王家は娘ばかり。跡取りとして、ゼダンなら申し分ない。ミナは国に留めおくことにした。つまり、適齢となるとおまえしかいないのだ、セラ」
「確かに……コナやリナはまだ幼いですしね……。ハルオーンの新王は18でしたか……」
年の離れた妹たちを思い、セラが呟く。
18歳相手に5歳と3歳は、ないだろう。
何より妹たちが可哀そうだ。
父の後添えである現王妃が産んだ娘たちは、まだ母親から離せる年ではない。
「おまえを大国に嫁がせることを考えると、儂も頭が痛いが……」
「どういう意味です?」
「だ、だがおまえにとっては朗報だろう。自国ではこのまま嫁の貰い手も見つからぬだろうし」
「貰ってもらう必要はありません。気に入った相手がいたら、私から押し掛けます」
「やめてやれ、それは。もっと相手を尊重しろ。そ、それにだ。ハルオーンの王宮は、後宮がある」
「!! つまり私に後宮のあまた侍る女たちのひとりになれ、と――」
「違う、待て、話しを聞け。そう、たくさんいるんだ。たくさんいるということは、おまえにはお呼びがないかもしれない」
それはそれでムカつく状況では。
「三食昼寝付きで、気楽な暮らしが出来るぞ? ほぼ自給自足の我が国とは違い、あの国は豊かだ。王女自ら海に潜り、貝や魚を捕る必要などない」
もともとスイハでもその必要はなく、そんなことをしているのは王女たちの中でもセラくらいのものだったが、王には気になる行為だったらしい。
「海は……好きだから通っているのですが……。はっ! ハルオーンの王宮は海から遠いとか、ありませんよね?」
海に行けない生活なんて、耐えられない。
「海をのぞむ立派な宮殿だと聞く。きっと気に入るだろう。とにかく国のために嫁に行ってくれ。これは王女としての務めでもある」
「ちっ」
「わざとらしく舌打ちをするな! セラ、良いか? くれぐれも向こうの宮廷では姫らしく、淑やかにな? 猫は30匹くらい被っていけ」
「そんなに被ったら、歩くことさえ出来ませんよ」
「だがせめて、5匹くらいは頼むぞ。あまりに行儀が悪いと、ニセ王女を送って来たかと、戦の口実にされてはたまらん」
「…………」
憮然としつつも黙った娘に、承服の意を見て取った王は、咳払いをして告げた。
「スイハの王として命じる。王女セラティーア。同盟国ハルオーンに嫁ぎ、つつがなく役目を果たすように」
「――ご命令、承りました」
セラの礼をもって、その場での話は終わり、こうして、スイハ国第五王女は、ハルオーン国に嫁入りすることになった。
新緑まぶしい初夏。
高い声が非難の色を含んで、屋外にまで響いた。
その怒声にはじかれたように顔をあげた使用人たちだが、声の主が王女セラだと気づくと、何事もなかったのように作業に戻る。
スイハの王宮では、はねっかえりの第五王女がにぎやかなのは、自然の一部だった。
「正気で本気だ。おまえにはハルオーン国に嫁いでもらうことになった」
「なんで? だって? ハルオーンにはミナ姉様が嫁ぐという話だったではないですか!」
今年16のセラには、4人の姉がいる。3人の姉たちはとうに縁づいており、1つ違いのミナも今回の縁談で大国ハルオーンへの輿入れが決まっていた。
同盟国、といえば聞こえが良いが、実のところ相手は盟主的存在であり、数百年前は実質、かの国の支配下にあった。
碧海六島の長たるハルオーン。
スイハは碧海六島に属し、西端に位置する。
盟主国から"同盟強化のため、姫を妃として迎えたい"という連絡が来れば、小国スイハとしては要求通りに差し出すしかなく、適齢期でもあった第4王女ミナーディアに白羽の矢が立っていたはずであるが。
「……ミナは嫁せなくなった」
「…………なぜですか?」
鋭い視線で問い返すセラに、父王が言い淀む。
だが、理由も聞かずに「はい、わかりました」というような従順な王女でないことは……父も娘も、互いが承知しきっている。しぶしぶながら、王が明かした。
「…………からだ」
「聞こえません」
「ミナが身ごもったからだ」
(はっ、いぃぃぃ―――――???)
「ど、どういうことですか? だって姉様は未婚で……!! 相手は誰です!!」
「ゼダン・ハーカルだ」
大臣の息子にして、近衛筆頭の名がセナの耳に伝えられるや否や。
「父上! ゼダンを殺してきて良いでしょうか!?」
「ダメだ! 孫の父親を殺すな!」
「でも姉様を手籠めにしたんでしょう??」
「手ご……。おまえはもう少し言葉を選べ。そうではなく、合意だ!!」
合意、ということは両想いということ?
「一体いつから……」
「おまえもそう思うか? 儂も驚いたから無理はない。互いに秘めた恋心だったらしいが、ミナの縁談が決まって」
「感情が溢れ出し、若いふたりが暴走しちゃったわけですね?」
「言葉を選べと言っただろう。だが、まあ、そうらしい」
姉の結婚が決まったのは3か月前。そこからのスピード妊娠。
なんという早業。
おとなしいと思っていた姉と、忠実だと思っていた近衛。ふたりを見誤っていた。
「とにかく、そういうことだ。腹に子を宿す娘を、嫁として出すわけにもいかん。我が王家は娘ばかり。跡取りとして、ゼダンなら申し分ない。ミナは国に留めおくことにした。つまり、適齢となるとおまえしかいないのだ、セラ」
「確かに……コナやリナはまだ幼いですしね……。ハルオーンの新王は18でしたか……」
年の離れた妹たちを思い、セラが呟く。
18歳相手に5歳と3歳は、ないだろう。
何より妹たちが可哀そうだ。
父の後添えである現王妃が産んだ娘たちは、まだ母親から離せる年ではない。
「おまえを大国に嫁がせることを考えると、儂も頭が痛いが……」
「どういう意味です?」
「だ、だがおまえにとっては朗報だろう。自国ではこのまま嫁の貰い手も見つからぬだろうし」
「貰ってもらう必要はありません。気に入った相手がいたら、私から押し掛けます」
「やめてやれ、それは。もっと相手を尊重しろ。そ、それにだ。ハルオーンの王宮は、後宮がある」
「!! つまり私に後宮のあまた侍る女たちのひとりになれ、と――」
「違う、待て、話しを聞け。そう、たくさんいるんだ。たくさんいるということは、おまえにはお呼びがないかもしれない」
それはそれでムカつく状況では。
「三食昼寝付きで、気楽な暮らしが出来るぞ? ほぼ自給自足の我が国とは違い、あの国は豊かだ。王女自ら海に潜り、貝や魚を捕る必要などない」
もともとスイハでもその必要はなく、そんなことをしているのは王女たちの中でもセラくらいのものだったが、王には気になる行為だったらしい。
「海は……好きだから通っているのですが……。はっ! ハルオーンの王宮は海から遠いとか、ありませんよね?」
海に行けない生活なんて、耐えられない。
「海をのぞむ立派な宮殿だと聞く。きっと気に入るだろう。とにかく国のために嫁に行ってくれ。これは王女としての務めでもある」
「ちっ」
「わざとらしく舌打ちをするな! セラ、良いか? くれぐれも向こうの宮廷では姫らしく、淑やかにな? 猫は30匹くらい被っていけ」
「そんなに被ったら、歩くことさえ出来ませんよ」
「だがせめて、5匹くらいは頼むぞ。あまりに行儀が悪いと、ニセ王女を送って来たかと、戦の口実にされてはたまらん」
「…………」
憮然としつつも黙った娘に、承服の意を見て取った王は、咳払いをして告げた。
「スイハの王として命じる。王女セラティーア。同盟国ハルオーンに嫁ぎ、つつがなく役目を果たすように」
「――ご命令、承りました」
セラの礼をもって、その場での話は終わり、こうして、スイハ国第五王女は、ハルオーン国に嫁入りすることになった。
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