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番外編「声なし聖女は、自由を望む。」
1.隣国の聖女
しおりを挟む「善なる神よ、お答えください。ここにいるオリヴィアは、聖女で間違いないでしょうか?」
否。
神託のペンジュラムが、否定を示したから。
私は"偽聖女"として、キルティスの国から追い出されることになった──。
◇
誰を恨めばよいのかわからない。
私は幼い頃、地方の神殿に買われた。
神殿が権威を持つには、聖女を抱えることが必須。
私の神聖力に気づいた奴隷商が、近隣の神官長に売りつけたことから、私の"聖女"としての人生が始まった。
なぜ奴隷商の元にいたかって?
戦争孤児として彷徨っていた時、ならず者たちに捕まって、酒代として売り飛ばされたからだ。
たとえ殴られて痛くとも、神聖力で治すのではなかった。
当時小さな子どもだった私は、自分の力を特別と思わず、隠す気もなく行使してしまった。
それが間違いだったと気づいた時には、もう"聖女"にされていた。
「ふむ。お前の名は、今日からオリヴィアだ」
神官長の言葉に、私は親から貰った名前すら失う。
神殿で始まった日々は、希望や安息とは縁遠いものだった。
掃除、洗濯をはじめとした下働きはもちろん、聖務では、列なす信者の傷や病を癒す。
厨房を手伝うのに、私の食事は粗末を極め、パンの一切れさえ渋られた。
「お前が育ちすぎたら困るからな」
神官長はいつもそう言った。
年齢に反して低い背に、貧相な体つき。
それらを長いローブで隠し、顔と髪だけは整えるよう、指示された。
"聖女"として人前に出るために、それなりの見た目は必要だったから。
これが、他の女性の嫉妬を買った。
私の顔は上等の部類だったから、それで男の気を引く"遊び女"だという噂を立てられた。
男どもはそんな話を真に受け、私に秋波を送っては、茂みに連れ込もうとする。
ほとほと嫌気がさしていたが、王侯貴族と会う場でも、訴えることは出来なかった。
私の声は、首につけられたチョーカーで封じられていたから。
酷使され、搾取される扱いは、大神殿からの推薦で王都に移っても、変わらなかった。
神官長が栄転して、王都の神殿に付いてきたからだ。
"希代の聖女を見出した"という功績を、評されて。
王都に結界を張り、傷病者を癒す。
毎日、毎日、毎日!
祭壇の前に跪き、声が出ぬのに祈りを捧げる。
神はどうしてこんな力を私に与えたのか。
こんな……、他人だけが奇跡の恩恵に預かり、私は寝る間すら与えられない環境で。
世にあるという"幸せ"とは伝説で、作り話の存在だと。
俯きながら、私は耐える。
食いしばった歯で血を流しても、神が私を助け出すことはなかった。
ある日、満面の笑みを浮かべた神官長の言葉に、私は耳を疑うことになる。
「喜べ、オリヴィアよ! お前が王太子殿下の婚約相手として選ばれたぞ!」
彼は一体、何を言っているのか。
無謀にもほどがある!
私は全身で反対を訴えたが、いつも通り無視され、厳しい折檻のもと、狭い納屋に閉じ込められた。
言葉を紡げぬ我が身を、何度も何度も悔しく思った。
一切の書物を遠ざけ、私を文盲に育てたのは神官長だ。
伝える手段を持たない私は、何度も逃げようとして、そのたびに連れ戻された。
そしてさらに、事態は悪いほうへ進み出す。
王太子の婚約者。
その座を狙っている貴族は数多いて、私を敵視する目は一層増えた。
神官長は、彼と近づきたい相手からの贈り物に腹を揺らしてご満悦だったようだけど、私に対する周囲からの嫌がらせは苛烈を極め。
その様子を、神官長は面白がった。
私は彼の娯楽のひとつで、稼ぐための金の卵で、支払い不要の労働力だった。
そして、とうとう。
王太子に恋慕する貴族のご令嬢に、私は目障りだと神殿から引っ張り出され、王宮広間に立たされた。
"聖女"が王太子妃としてふさわしいかどうか。
公の場で神に問う儀式が設けられ、神託は私を"聖女"と認めなかった。
「"聖女"を騙る偽物だ!」
人々は一斉に牙を剥き、婚約話は破棄されて、私は追われて国を出た。
これまで私の神聖力を目の当たりにした人たちは、一体何をどう見ていたのか。
そこに疑問すら抱かない、そんな国は私からも願い下げだ。
神官長も私を手放した。
さすがの彼も、私が真に王太子に嫁げないことは、わかっていたのだろう。
私は隣国レトニアへと、やって来た。
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