殿下、これって契約違反では?

みこと。

文字の大きさ
7 / 8
番外編「声なし聖女は、自由を望む。」

1.隣国の聖女

しおりを挟む


「善なる神よ、お答えください。ここにいるオリヴィアは、聖女で間違いないでしょうか?」


 否。


 神託のペンジュラム 振り子 が、否定を示したから。

 私は"偽聖女"として、キルティスの国から追い出されることになった──。



 ◇



 誰を恨めばよいのかわからない。

 私は幼い頃、地方の神殿に買われた。

 神殿が権威を持つには、聖女を抱えることが必須。

 私の神聖力に気づいた奴隷商が、近隣の神官長に売りつけたことから、私の"聖女"としての人生が始まった。

 なぜ奴隷商の元にいたかって?
 戦争孤児として彷徨っていた時、ならず者たちに捕まって、酒代として売り飛ばされたからだ。

 たとえ殴られて痛くとも、神聖力で治すのではなかった。

 当時小さな子どもだった私は、自分の力を特別と思わず、隠す気もなく行使してしまった。
 それが間違いだったと気づいた時には、もう"聖女"にされていた。



「ふむ。お前の名は、今日からオリヴィアだ」

 神官長の言葉に、私は親から貰った名前すら失う。

 神殿で始まった日々は、希望や安息とは縁遠いものだった。

 掃除、洗濯をはじめとした下働きはもちろん、聖務では、列なす信者の傷や病を癒す。
 厨房を手伝うのに、私の食事は粗末を極め、パンの一切れさえ渋られた。

「お前が育ちすぎたら困るからな」

 神官長はいつもそう言った。

 年齢トシに反して低い背に、貧相な体つき。
 それらを長いローブで隠し、顔と髪だけは整えるよう、指示された。

 "聖女"として人前に出るために、それなりの見た目は必要だったから。

 これが、他の女性の嫉妬を買った。

 私の顔は上等の部類だったから、それで男の気を引く"遊び"だという噂を立てられた。
 男どもはそんな話を真に受け、私に秋波を送っては、茂みに連れ込もうとする。


 ほとほと嫌気がさしていたが、王侯貴族と会う場でも、訴えることは出来なかった。

 私の声は、首につけられたチョーカーで封じられていたから。


 酷使され、搾取される扱いは、大神殿からの推薦で王都に移っても、変わらなかった。
 神官長が栄転して、王都の神殿に付いてきたからだ。

 "希代の聖女を見出した"という功績を、評されて。


 王都に結界を張り、傷病者を癒す。


 毎日、毎日、毎日!
 祭壇の前に跪き、声が出ぬのに祈りを捧げる。


 神はどうしてこんな力を私に与えたのか。

 こんな……、他人だけが奇跡の恩恵に預かり、私は寝る間すら与えられない環境で。
 世にあるという"幸せ"とは伝説で、作り話の存在だと。

 俯きながら、私は耐える。
 食いしばった歯で血を流しても、神が私を助け出すことはなかった。


 ある日、満面の笑みを浮かべた神官長の言葉に、私は耳を疑うことになる。

「喜べ、オリヴィアよ! お前が王太子殿下の婚約相手として選ばれたぞ!」

 彼は一体、何を言っているのか。
 無謀にもほどがある!


 私は全身で反対を訴えたが、いつも通り無視され、厳しい折檻のもと、狭い納屋に閉じ込められた。

 言葉をつむげぬ我が身を、何度も何度も悔しく思った。

 一切の書物を遠ざけ、私を文盲に育てたのは神官長だ。
 伝える手段を持たない私は、何度も逃げようとして、そのたびに連れ戻された。


 そしてさらに、事態は悪いほうへ進み出す。

 
 王太子の婚約者。
 その座を狙っている貴族は数多あまたいて、私を敵視する目は一層増えた。

 神官長は、彼と近づきたい相手からの贈り物に腹を揺らしてご満悦だったようだけど、私に対する周囲からの嫌がらせは苛烈を極め。
 その様子を、神官長は面白がった。

 私は彼の娯楽のひとつで、稼ぐための金の卵で、支払い不要の労働力だった。


 そして、とうとう。
 王太子に恋慕する貴族のご令嬢に、私は目障りだと神殿から引っ張り出され、王宮広間に立たされた。

 
 "聖女"が王太子妃としてふさわしいかどうか。

 おおやけの場で神に問う儀式が設けられ、神託は私を"聖女"と認めなかった。

 
「"聖女"を騙る偽物だ!」


 人々は一斉に牙をき、婚約話は破棄されて、私は追われて国を出た。
 これまで私の神聖力を目の当たりにした人たちは、一体何をどう見ていたのか。


 そこに疑問すら抱かない、そんな国は私からも願い下げだ。


 神官長も私を手放した。
 さすがの彼も、私が真に王太子に嫁げないことは、わかっていたのだろう。


 私は隣国レトニアへと、やって来た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

ある愚かな婚約破棄の結末

オレンジ方解石
恋愛
 セドリック王子から婚約破棄を宣言されたアデライド。  王子の愚かさに頭を抱えるが、周囲は一斉に「アデライドが悪い」と王子の味方をして…………。 ※一応ジャンルを『恋愛』に設定してありますが、甘さ控えめです。

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

もう、あなたには何も感じません

たくわん
恋愛
没落貴族令嬢クラリッサは、幼馴染の侯爵子息ロベルトから婚約破棄を告げられた。理由は「家が落ちぶれた」から。社交界で嘲笑され、屈辱に打ちひしがれる彼女だったが――。

婚約破棄を申し込むも、殿下の説得がガチすぎて詰む?

ちゅんりー
恋愛
公爵令嬢リペは、厳しい王妃教育と窮屈な未来から逃れるため、ある画期的な計画を思いつく。それは、世にも恐ろしい「悪役令嬢」になりきって、完璧な第一王子カイルに婚約破棄を叩きつけること! さっそくリペは、高笑いと共に「不敬な態度」「無駄遣い」「嫌がらせ」といった悪行の数々を繰り出すが……。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

これって私の断罪じゃなくて公開プロポーズですか!?

桃瀬ももな
恋愛
「カタリーナ・フォン・シュバルツ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」 卒業パーティーの最中、第一王子アルフォンスから非情な宣告を突きつけられた公爵令嬢カタリーナ。 生まれつきの鋭い目つきと、緊張すると顔が強張る不器用さゆえに「悪役令嬢」として孤立していた彼女は、ついに訪れた「お決まりの断罪劇」に絶望……するかと思いきや。 (……あれ? 殿下、いま小さく「よっしゃあ!」ってガッツポーズしませんでした!?)

処理中です...