お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。

文字の大きさ
2 / 7

2.突然の婚約破棄

 お兄様が休暇で引きこもって数週間。
 以前より招待されていた宴席に、私は今日、出なくてはならない。
 仕度を終えると、見送りのお兄様が心配されていた。

「本当に、付き添わなくて大丈夫か? バシュレー伯爵子息……フェルディナン殿はまだ迎えに来ていないようだが」

「平気です、お兄様。会場で待ち合わせをしていたのを、うっかり忘れていました。あちらで合流いたしますから、ご心配なさらないで」

 嘘。そんな約束はしていない。
 フェルディナン様が下位貴族の娘である私を、尊重してくれたことはない。

 ただ、私をめとるとアルエン公爵家と親しくなれる。その利だけで婚約を結んだのだと、直接言われたことがある。

 わざわざ告げるのは、私を見下している証拠。
 現にフェルディナン様は婚約期間にも関わらず、遊び相手をとっかえひっかえ、おそらく今日は、最近夢中な子爵令嬢と会場入りされることだろう。
 待つだけ無駄だ。

 そんな相手と添い遂げて、幸せになれるとは思わない。

 けれど公爵家に長く残って、これ以上お兄様に迷惑をかけるわけにもいかないし、前公爵様がまとめてくれた縁談に、異を唱えるのは贅沢だろう。

(オーギュストお兄様に婚約者がいないのは、いずれ女王陛下と結ばれて王配になられるからだとしても。だからといって、私がいつまでも居座るわけにはいかないわ)


 だからフェルディナン様にどんな扱いを受けようと、私が耐えれば──。




「ラヴィニア・セリエール。今夜限りで、オレはお前との婚約を破棄する」

「……え?」

 王宮の夜会にひとりで出席した私は、よりにもよって庭で子爵令嬢とむつみあっている婚約者を目撃し。
 目があった彼から、いきなり爆弾発言を投げつけられた。

 フェルディナン様は、冷めた眼差しで私を見る。

「まったく。なんと鬱陶うっとうしい女だ。こんな場所でまで、オレたちに付き纏うなど。その調子でコリンナ嬢のことも追い詰めたのか」
「何を……おっしゃられているのか、私にはさっぱりわかりません……」

 付き纏った? そんな過去は一度だってない。

 今も偶然見つけてしまって、"不快な逢引きを見てしまった"と引いたところなのに。
 彼の頭の中は、一体どうなっているのだろう。

 戸惑う私を無視し、フェルディナン様が決めてかかった。

「お前が常々、このコリンナ嬢に嫌がらせをしていたのを、知らないとでも思っていたのか?」

 彼の腕の中に顔を伏せ、コリンナ様が私に向けてニヤリと笑う。

(嫌がらせ? 何のこと?)

 コリンナ様がフェルディナン様に寄りかかってる姿は何度か見かけたが、彼女と言葉を交わしたことはない。
 ましてや何かを仕掛けたことなんて皆無。実は名前も今聞いたと、思ってしまったくらいだ。

(子爵家の方ということぐらいしか、知らないわ)

 でももし平気でウソを捏造されるなら……、そういう性格の方なのだろう。
(嫌がらせって、どんな設定を吹き込まれたのかしら)

 疑問だらけの私に対し、フェルディナン様が続けざまに非難する。

「男の火遊びを許容できないお前は、貴族の妻として相応しくない。しかもいかに公爵家に養われていようとも、お前自身は男爵家の身。目上である子爵令嬢をやっかむなど、増長もはなはだしい!!」

「……嫌がらせなどしていません。第一なぜ、私がコリンナ様をやっかむ必要があるのでしょう」

「はぁ? 自分の気持ちさえ把握出来てないマヌケなのか? それはお前が、オレの愛を得られずにひがんでいるからだ」

 フェルディナン様が言いきった。

(えぇぇ……。ひがんだ、かしら?)
 別にフェルディナン様の愛は求めてない。

 そんなところがいけなかったのかもしれないけれど、互いに契約ビジネスだと割り切ってたはず。
 でなければ、婚約者としての逢瀬も贈り物もエスコートさえもガン無視な理由が成り立たない。私が送った手紙すら一度も返事がないのは、ビジネスとしても失格だと思う。
 けど。

「あの、フェルディナン様? 私との婚約は、公爵家との繋がりのため、とおっしゃっておられませんでしたか?」

(バシュレー伯爵家との縁談がなくなると、お兄様にご負担をかけてしまう)

 その一心だけで尋ねた言葉は、軽く一蹴された。

「構わないさ。アルエン公爵家はともかく、お前やオーギュスト殿の未来は明るくないだろう」

(え? 私はともかく、なぜお兄様の未来が明るくないの?) 

 目を丸くした私に、フェルディナン様が得意そうに言う。

「状況が変わったことを、オレに隠しても無駄だぞ。王宮の確かな筋からの話だが……、オーギュスト殿は先の事故で大怪我をして、引退されるそうだな」
感想 2

あなたにおすすめの小説

毒味役の私がうっかり皇帝陛下の『呪い』を解いてしまった結果、異常な執着(物理)で迫られています

白桃
恋愛
「触れるな」――それが冷酷と噂される皇帝レオルの絶対の掟。 呪いにより誰にも触れられない孤独な彼に仕える毒味役のアリアは、ある日うっかりその呪いを解いてしまう。 初めて人の温もりを知った皇帝は、アリアに異常な執着を見せ始める。 「私のそばから離れるな」――物理的な距離感ゼロの溺愛(?)に戸惑うアリア。しかし、孤独な皇帝の心に触れるうち、二人の関係は思わぬ方向へ…? 呪いが繋いだ、凸凹主従(?)ラブファンタジー!

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

幼馴染の執着愛がこんなに重いなんて聞いてない

エヌ
恋愛
私は、幼馴染のキリアンに恋をしている。 でも聞いてしまった。 どうやら彼は、聖女様といい感じらしい。 私は身を引こうと思う。

くれくれ幼馴染に苦手な婚約者を宛がったら人生終わった

毒島醜女
恋愛
人のものを奪うのが大好きな幼馴染と同じクラスになったセーラ。 そんな幼馴染が自分の婚約者であるジェレミーに目をつけたのは、不幸中の幸いであった。 苦手な婚約者であるジェレミーと彼女をくっ付けてやろうと、セーラは計画する…

姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します

しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。 失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。 そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……! 悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。