カイイユウギ

Haganed

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予期せぬ始まり

セーフとタブーの曖昧模糊

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 康平の瞼がゆっくりと開かれると彼の視界に映ったのは見慣れない天井で、次第に独特な匂いがしている事と首を動かしたことで痛みが若干走る体が意識を明瞭にさせる。今いる場所は病院だと確信を持ったところで体を起こそうと試みる、どうやら無理をしない限りは多少マシに動けるようになっているらしくゆっくりとはいえ体を起こせたこの結果は、2度も高いところから落ちた上に痛みに堪えながら逃走していた康平からすれば上々と言えるものだろう。


「いつつ……くそっ、流石にまだ痛え。えーっと確か、落ちた場所がゴミ置き場だったか。あの声に従ったら運良くゴミ袋があったからセーフとはいえ、もうちょっと良い場所無かったんだろうか?」

(悪かったな、今の俺様ではあれが限界なんでな。)

「あぁ、そう……ん?」


 康平は違和感を覚える。独り言を言っていたはずなのに、それに対して返事が返ってきたという摩訶不思議な現象。病室内を見回しても自分以外の人間は全く見当たらず、とうとう頭のどこかが可笑しくなったのではと思った直後にまた返事が返ってきた。


(どこも損傷しておらん。あと幻聴ではない、ちゃんとお前の頭の中に向けて喋っておる。)

「マジで聞こえてた。」


 康平はあっけらかんとそうは言ったものの、内心頭の中で聞こえている知らない声に対して驚きと疑心を募らせ、そして若干恐怖した。しかし康平は自身の視界に壁を映すと鈍い動きでベッドから降りて壁に寄りかかるとそのまま勢いよく頭を────


(待て待て待ておい、オイ!)


 ぶつけようとして頭の中の声に静止するように呼びかけられた。一瞬何が何だか分からなくなり思考が停止するものの、そうした状態でありながらも頭の中の声は呼び掛けを止めることなく康平に向けて言い続ける。


(だから幻聴でもないし、お前の頭がぶっ壊れてる訳ではないと言っている! 俺様がお前に取り憑いて、お前の中に入って語りかけてるのだ! 言ってる意味分かっているのかこの阿呆!)

「…………?」

(今のでお前が理解してないってのがよぉく分かった。そも会話出来ているだろ、精神的におかしくなっとらんだろ今のお前は! というかさっさとベッドに戻れ怪我人!)


 色々と分からない事だらけではあるがそれは置いておき急かすようにベッドに戻るようにと、言われるがまま康平はゆったりとした動きでベッドに戻って腰かけると頭の中で溜め息が聞こえたあと数瞬ほどして向こうからまた話し始めた。


(はぁ……急に何をするのかと思いきやいきなりこれだ、頭イカれているのかお前?)

「いや、頭の中から声が聞こえてたら誰だってイカれたのかって思うだろ普通。というかもし仮にこっちの頭がイカれて無かったとして、そういうアンタは誰? 何者? 何の用なのさ?」

(質問には答えてやる、少し待ってろ。)


 そう言った何者かの声は一時的に聞こえなくなったが次の瞬間、自身の視界に紫混じりの黒いもやが映ったことで驚きのあまり後退りベッドに乗り上がりその場で硬直する。次第にその靄はある見慣れた人の形に近い姿へと構築されていくが、目の瞳孔らしき箇所は赤く光り額から何かが蠢いて伸びていることから人ではないと想像がつく。やがて靄がゆっくりと頭に当たる場所から消えていくと鮮明な姿を映し出した。

 胡座をかいて座っていても分かる程の、およそ人ならざる大きさの体躯に備わった剛の肉体。鋭く生えた牙と爪に赤い瞳、そしてその真上の額から生えている湾曲した角が誰もが知るであろう幻想体の存在を示唆していた。人はそれを、と呼ぶ。


「お……鬼?」

(鬼ではある。だが俺はただの鬼ではない、元は土地神として祀り上げられていたモノよ。『駈剛がごう』と古き人間は俺をそう呼んだ。)

「が、がごー?」

(最後を伸ばすな。)


 康平の目の前に姿を現した駈剛であったが若干当人のもたらす微妙な空気感に流されかけていたことを自覚したため、一度咳払いをして区切りをつけると改めて会話を試みた。


(何の用か、という質問に答えるぞ。理解しきれずとも聞いておけ。)

「はぁ」

(単刀直入に言えば“俺様の復活のために動け”、ということだ。)

「復活って……いや、姿見せてるのに何言って」

(ならば触れてみると良い、触れられるものならば。)


 訝しげに駈剛のその提案に康平はゆっくりと手を伸ばしていき、手が空を切る感覚を味わったところで違和感を覚えた。何度か触れようとしても空を切ったような感触であり、近付いて触れてみようとも同じことが繰り返されるだけであった。


「どういうこと?」

(お前が見ている俺様の姿はお前の脳──視覚野というんだったか? 直接そこに情報を送っているに過ぎない……要は虚像や幻覚の類だ。)

「……マジで言ってる?」

(マジだが。)


 簡単に説明すれば、通常人間の視覚というものは情報を網膜で受け取り視床──外側漆状体と呼ばれる場所を通って視覚野へと至りそこで初めて“目で見ている”という構図が成り立つ。だがこの鬼はそうした見るための通り道を介さず直接視覚野に情報を送り込んで康平の目に姿を見せているのだという。当然ながらこのプロセスを知っていた康平は驚いた、普通では有り得ないことをその身で二度も体験したという事実とこのような事があっていいのかといった考えによってだ。


(今は力を失ってこのようにしか出来ないが、それでもその気になればお前の思考を読むことも容易い。だが今後の関係に響く要素は出来る限り排除しておきたいからな、そうしない事に感謝しておけ。)

「嘘っ!?」

(さて、話も色々と山積みだが……他の人間が来る。俺様は姿を消しておくしそちら側に語りかけもせん、1人になった時また出るとしよう。)


 そう言って康平の目の前から駈剛の姿が霧散したところで扉をノックする音によって誰かが来たことを知る。すぐに引き戸が移動して外にいた看護師と目が合った、優しげな様子で康平の今の容態を訊ね彼も若干痛みの残る体のことを正直に明かしつつ行動に支障が無いことをみせた。とはいえ大事をとって簡単な検査を行ってから退院出来るので若干待つことになり、今日が金曜日であったことを知って小中と続いていた皆勤賞が無くなったとふと思った。

 簡単な検査が終わって少しして慌てた様子の康平の母親が現れ、急いでいたのか僅かばかりに乱れた髪のまま勢いよく抱きついたが体の痛みにより苦痛の声を上げたことで謝りながらすぐに離れた。


「気を失ったから何があったのか聞いたけど、事故に遭いかけたって。でもホントに無事でよかった~!」

「うんまぁ、取り敢えずはね。まだちょっと痛むけど。」

「とはいえ骨にヒビも入ってないし日常生活には戻れる程度だから安心するといい。ただ無理はしないように、聞いた話だと事故から逃れる為に川に落ちたそうじゃないか。」

「あはは……あ、そういえば事故した車の方は? 運転手はどうなったんです?」

「あぁ、その事なんだが……」


 その場にいた医者の男の口がどもり言いづらそうな様子を見せる、事故のことを聞いているという事は晴彦が事の顛末の一端を伝えたのだろう。それはそれとして反応から察するに運転手側に何かあったのだろうなと予想する、そしてあの事故が起きているならニュースにもなっている可能性は高い。あとは自分の方で調べるためこれ以上は良いことを伝えようとすると、すぐに医者の方から伝えられた。


「酒気帯び運転をしていたことで当たりどころが悪くて即死したと、ニュースで聞いた。君にとっては寝覚めの悪いものかもしれないが、そうなった。」

「なるほど……ありがとうございます。あとは自分で色々と調べてみます。」


 その後、今日は大事をとって学校に休みの連絡を既に彼の母がしていたため元あった本日の予定は無くなり実質何かする訳でもない暇な一日を過ごすことが決まった。母親の運転する車で移動中、携帯であの事故の一件がニュースになっていると医者も言っていたため確かめるために検索をしてその内容に驚きと戸惑いを覚えた。何せあの時出くわした車の運転手の名前が、あの異様な世界で知り合ったあと目の前で凄惨な死を遂げたはずの『坂東 茜』であったのだから。




───────────────────────



 母親は謝りながらも仕事があるため自宅に着くなりそのまま仕事場へと向かい、康平は1人になっていた。彼は帰ってきてからというもの、自室のベッドに寝そべりながら今まで起きたことを整理しつつ生まれた疑問と予想される答えに頭を悩ませていた。異形のバケモノ、異質な世界、謎の少女、かくれんぼ、坂東茜の一件と思いつく限りのことを頭に浮かべたが幾つか荒唐無稽な答えに行き着くばかりで他は全く想像もつかないため手の出しようが無い。行き詰まっている最中にまた駈剛が康平の視界に現れた。


(悩んでいるようだな小僧。)

「読んだの?」

(お前の思考を読まずとも勝手に視界を共有していたから色々と察せる。当ててやろう、今のお前は全くもって有り得ない答えに行き着いたことで自身の思考との折り合いがついていない。だろう?)

「そうだよ。……というか、何勝手にしてるのさ。」

(こうでもせんと状況把握が出来んのでな。それは兎も角、お前が思い浮かんでいる予想を1度何かに書いて纏めてみろ。菓子を食いがてら整理でもしてみるといい。)


 駈剛のやった事はともかくとして、発言の内容そのものは何処にも否定する材料は無い。したがって康平はベッドから起き上がり椅子に座ると真新しいノートを用意し、勿体なさを感じながらも今まで起きたことや予想されている事柄の整理に入った。まず思い浮かんだのは坂東茜の一件、それらに関する事実と予想を箇条書きで綴っていくと次にあの奇妙な出来事に関連した疑問や予想などを書こうとしたが自らの既知の外にあるものであったためか殆ど埋まる事はなく、ただ分かっているのはあのバケモノが“かくれんぼ”をしていた事と康平ら含めた6人がバケモノのかくれんぼに強制的に参加させられていたことだけ。  


(ま、こんなものか。必要な知識が無い割には上手く核心を突いている、普通の人間を指標にすれば上々の成果といった感じだな。だが──)

「ん?」

(お前自身がまだ信じきれていない。全く今もなお俺様とこうして会話しているというのに……お前まだ幻聴の類と思ってるのか?)

「そうだけど。」

(はぁー! 固い! 頭が固いなぁお前は! 実際に異形の存在や俺様を前にして信じきれておらんとは、脳年齢50代か?)

「そもそもこんな異常事態を現実と捉える方がどうかしてるんだけど?!」

(逆に考えろ、この異常事態現実なのだと。まったく、現実とは誰かの主観でしかないものなのに。)

「何かいいこと言ってる雰囲気だけど現状全くもって良くないんだけど。というかそっちも知ってることがあったら教えてよ、一方的に知ってる状態で高みの見物されても何も出来ないんだけど。」

(言うではないか小僧。だがそうだな、知らぬことを考えても意味は無い。お前の無知を既知に変えてやるとしよう。)

「何か言い方が腹立つ。」

(では心して聞け、そしてこれが現実であることを理解しろ。)


 そうして駈剛の口から見えなかった全てが語られる。まず始めに坂東茜の一件だが康平の予想通り、あの時康平たちと会っていた時既にあの事故で死亡していたのだ。魂だけの存在となった坂東はあの世界に入ってしまい結果あの少女に肉塊にされた、これが一連の流れである。この予想に行き着いたのはあの世界に入る際に黒板を引っ掻いたような音を聞いたかどうかだけであったが生者が入れば音がする、死者が入れば音はしない。そういった仕組みであることをまず聞かされた。

 次にあのバケモノがしていたこと。これは“かくれんぼ”で間違いない、だが何故かくれんぼをしていたのかについて聞くと駈剛はとしか返答しなかった。


「どういうこと?」

(異形、怪異や妖怪の種類などにもよるがあの異形の場合は遊びたいから遊んでいるに過ぎない。ただ欲のままにかくれんぼをしていただけだ、子どものようにな。)

「子ども……」


 駈剛の発言から抽出した子どもというキーワードと結びつくのはあの少女、もしもあの少女とバケモノが同一の存在であったとしよう。だが何故そうなったのか考えていると坂東茜のことを思い出し、ある1つの仮説に行き着いた。


「つまり……あのバケモノも元は生きてた?」

(勘が良いな。そうだ、あのバケモノも元は生者であり死して何かに囚われた挙句ああなった。その何かは分からぬが、あのかくれんぼという行為そのものは生きていた頃にやっていた事なのだろう。あの世界、あのバケモノ自身の領域の中で永劫えいごう満たされぬ欲望を満たそうとしてな。)

「永劫に……って、それだと不味いことに!」

(そうだな。放って置けば死者も増え力が増す、手の付けようが無くなるぐらいにな。そうなればお前の大事な人間も死ぬことになるぞ?)


 口角を上げ憎たらしさ全開の笑みを見せる駈剛のその様子からしてこの現状は真実であることを察したものの、数瞬ほど考えた康平は1度まぶたを閉じて再度開き駈剛の目を見て言った。


「どうすれば解決できる?」

(ほぉ? 他人に頼らんのかお前は。)

「今の自分の状態でも他人に頼って解決されるものじゃないし、こんな事を話したって誰も信じちゃくれない。それに僕に憑いたってことは、今のところそれは僕にしか出来ないことなんだろう? だったら──」

(確かにお前の言う通りだ、だが少し違うな。)


 駈剛の体が座っている康平と同じ目線の高さにまで移動すると、元土地神の鬼は人間に面と向かって言った。


(俺様たちが、やるんだ。お前1人では解決しないし俺様だけでも解決出来ない、たとえどんな事があろうと俺様とお前で解決に導く必要がある。努努ゆめゆめそれを忘れるな、小僧。)

「……分かった。」

(なら良い。早速解決策と行きたいところだが、まだ説明しておらんものもある。その紙に記しておけ、忘れんようにな。それと休みの日だが出かける準備をしておけ、外に出て初めて知る情報もある。あと──)

「あーもう分かったから1つずつやらせて!」


 何とも締まらない協力関係の始まりであったが、今ここに人と人ならざるものとの契約が結ばれた日であった。



───────────────────────



 翌日、土曜日も仕事のある母親には特別何も言わずにバスに乗ってユラユラと揺られながら目的の場所付近へと向かう康平。自転車はあの事故の際に修復不可能なまでに壊れてしまった事と徒歩での長距離移動に支障の出る現在、こうして公共交通機関を使用して赴くしか無いのであった。そうして午前9時35分頃に着いたバス停の場所で運賃を支払って降りたあと、そのままバスは次なる目的地まで走り去っていった。

 康平が赴いた先は昨日調査していて判明したとある場所、石禾いさわ町と呼ばれる地域の商店街付近であった。携帯のマップ機能を確認し事前に決めていた目的地まで徒歩で向かっていく中で駈剛が語りかけてくる。


(それにしても時代は進んだものだ。こんな板切れ1枚にあらゆる機能が収まるとは……思いもよらぬ発展と云うべきか、人類の退化の証とも云うべきか。)

「発展は分かるけど、退化ってなに?」

(これを1枚持つだけで万能の機能を使えはするのだろうが、同時にこれに囚われて万能になった気で居る人間も増えているのだろうなと。これが万能なだけで個々の人間が無能ならこんな板切れに操られている事に気付くことは無いのだろうな。)

「……意外に哲学的というか、風刺的な言い方も出来るんだ。」

(思うままに言っただけだ。とはいえ今はこれに感謝せねばな、おかげで翌日に事を進められた。)

「着いたよ。」


 そう言って辿り着いた先はある公園であった。名前を石禾第三公園というが康平はこの場所を既に知っている、ストリートビューによって1度確認したのもあって確証したものが彼の中にあった。そう、この景色はあのバケモノが居た世界で最初に見た公園の景色とほぼ同じであったのだから。

 “バケモノの世界は記憶を元に造られた異界”、それを領域と昨日駈剛はそう語っていた。種類にもよるが今回の場合は生者だった頃の思い出深い場所があのバケモノの居る領域を構築しているのだとか。つまりあの場所は彼女の見ていた世界現実を元に造られているのだ。そしてこの公園に訪れた理由の1つは──


「あったよ。」

(ふむ、ここか。)


 公園へと繋がる階段付近の歩道、そこの信号の無い横断歩道付近に立つ1本の電柱に花が添えられていた。ここがあのバケモノの元となった少女の亡くなった場所であった。

 調べていくうちに判明した事だが、当時5歳であった少女『明里あかさと 詩音しおん』はこの場所で交通事故に遭って亡くなっていることが分かった。そしてそれ以降この場所、ひいてはこの石禾町全体の事故率も上昇傾向にあることが分かった。バケモノとなった明里詩音が事故を起こしてあの世界に引き寄せているのだろうと康平はそう予想づけた。それはさておきこの場所に来て一体何をしようというのかについてだが、ここで駈剛が注意を促す。


(今から行う事はお前の脳に若干の負荷が掛かる。通常ならば1晩かけて調整するものだが、お前の場合は今やったとしても多少頭の奥が痛む程度で済む。準備はいいな?)

「やって。」

(なら少し痛むぞ。)


 その直後、康平の頭の奥から視神経、目の奥が痛み始めた。咄嗟に瞼を閉じて目を押さえているがそれで痛みがマシになる訳ではないものの、少しして駈剛から終わったとの報告を受けて痛む頭と目などを我慢して瞼を開けた。すると康平の視界には青白い状態で佇む明里詩音の姿が見えていた、しかし当の少女はこちらを認識している様子はなく呆然と立っているだけであった。と、ここで駈剛からまた説明が入る。


(それが記憶の残滓というヤツだ。あのバケモノの本体とは別に死者はこうして記憶の一部をこの世界に残す、これに干渉すれば対象が何をしていたのか。その軌跡を読み取れる上に過去の一部始終を操作して確認することも可能だ。)

「痛ってぇ……んで、これどうすれば良いの?」

(触れてみろ、それで一部始終の流れが分かる。)


 その通りに青白い明里詩音に触れると、それは動き出した。まるで当時の記憶の再現映像を見ているかの気分であったが移動していく少女を追いかけて公園へと入っていき、ちょうどいい椅子があったためそこに座って観察していった。不思議なことに今この現実にも遊んでいる子どもたちや公園に集う母親の集まりは居るものの、明里詩音の姿だけはハッキリと何かに干渉されることなく動き回る姿が見えていた。やがてその光景も終盤を迎えたようで腕を確認したあと誰かに手を振って同じ出入口から公園を出て信号の無い横断歩道に出た途端、吹き飛ばされる少女の姿を最後にその明里詩音は一時停止された映像みたく止まった。


「次はどうすれば良い?」

(記憶の跡を見つける。過去の状況に巻き戻すのは俺様がやろう、お前はそれを追っていけ。)

「分かった。」


 駈剛の言う通り、巻き戻しのように動いていく少女を康平は追いかけて行った。過去に訪れた場所や行動、誰かと手を繋いで喜びはしゃいでいる姿や迷子になって泣いている姿などが康平の視界だけに映されていく。明里詩音の母親のことはどうなっているのかは調べても分からなかったため、生死については康平自身は定かになっていない。だが最愛の娘を喪った衝撃はその後の人生に影響を及ぼしているだろうと想像は付く。もしもあの時、自分が死んでいたら残された両親はどうなっていただろうかと彼はふと思った。

 そうして記憶の明里詩音を追いかけて早数時間ほど経過し、康平は彼女の遊び場の1つであった森林公園の高台にあるベンチで一休みしていた。流石に目の疲れが激しく暫くは瞼を閉じて休めないといけない状態になったが、バケモノになった明里詩音への対策については様々な収穫があった。


「あの子、多分腕時計を着けてたんだろうね。よく腕を見て何かを確認している様子があった。そのあと家に帰る動きをしていたし……ま、その家は既に売り払われてるんだけど。」

(だが相手に敗北を認知させる方法は見つかった。その腕時計を探し、制限時間まで隠れきれれば良い事がな。)

「腕時計はどうするのさ? あの家にはもう誰も居ないし、今その母親か父親が住んでる場所は分からないのに。」

(誰もこの世界で探せとは言ってない。あの領域は明里詩音の記憶で構築されている、ならば常に身に付けていたその時計も記憶の中に刻まれているのは間違いない。)

「……成程。じゃあ腕時計があるのは多分、家?」

(可能性としては高い。身につけている場合も無い訳では無いが、そちらは低いだろう。敗北条件の1つを身に着けるような間抜け、普通はしない。一先ずやるべき事は分かったな?)

「ああ、分かった。あとは色々と用意しておきたいけど、何がいいんだろう。」


 そう言い終えた直後、康平の腹の虫が鳴った。そういえばと時間を確認すると既にお昼時を若干過ぎており、腹が空くのも当然だと思いベンチから立ち上がってあのバス停近くの商店街で何か買って食べることにしたのであった。
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