最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!?〜

恋音

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冒険者編

第12話 俺様系モチベーションの問題

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「ほんとに探しに行ってくれるんですか?」

 獣人のウルさんが私の腕を掴んでキラキラと目を輝かせる。
 えぇ、助けてあげます。

「情報ぞいただけます?」

 私は笑顔で促した。

「えっと、お父さんはファルシュとグリーンをしょっちゃう行き来するんです」
「ふむふむ」
「ファルシュ領は防具が結構売れますからね」

 それは知らなかった
 1番戦争に敏感だからなのだろうか。

「ファルシュ首都メーディオとここダクアからは往復で4日。荷物の積み下ろしや積み入れもかかる日数は精々1日です」

 私は顎に手を当てた。

 ……つまり私はレイラ姉様の手によって丸1日以上気絶してたってわけか。
 荷物のない早馬の方が速度は上だけど2倍以上差がかかるということもあるまい。

「たった2日とは言え、お父さんがここまで遅くなることは今まで無かったんです」

 しゅんと耳がヘタる。
 ふむ、と考えるためのため息声が漏れる。

「遠きですね。誰かを探す進行中の速度はあまりにも遅き」

 それまでに衰弱する可能性もある。それに、グリーン領とファルシュ領の間。行方不明者が商人ということもあり、最悪を考えると通商破壊が起きてしまうと考えていい。我が領は孤立……。

 通商破壊とは言葉そのまま。

 輸入と輸出が出来なくなれば地産地消出来ない領が壊滅的。ちなみにファルシュ領は武力に力を入れる為、農耕メインのグリーン領とは切られると大打撃だ。


 ん? 行方不明の店主の心配?
 そんなことより私の生活圏の住みやすさが重要である。

 自分本位な理由も、他人を思う理由も、理由は理由。くだらねぇ動機もご立派な動機もやってしまえば皆同じである。

「えーっと、普段の父の通商ルートはそんな感じです」
「なるほど。護衛は?」
「いつも通り冒険者ギルドで依頼を。誰かは、ちょっと分かんないですけど」

 なら冒険者ギルドで1回聞いた方がいいかな。
 もし護衛した冒険者のランクが高ければ私の危険が高まるわけだし。その場合選択肢を変えよう。

 一生懸命探しても見つからなかったことにする。

「分かるますた。冒険者ギルドに1度寄るです」
「ホントですか、ありがとうございます」
「──では報酬の交渉ぞ」
「えっ」
「えっ」

 ごく当たり前のことを言ったと思ったんだけど、何故か獣耳っ娘は驚く反応を見せた。

「……貴女の反応、めちゃくちゃ善意の無償みたいな顔してませんでした?」
「労働に対価は必要ですよね?」
「いや、別に報酬はいいんですけどね。とてもいいんです。私も店番とかしますから分かりますよ、無報酬ほど不安なことはないですし。いやでもなんか私から言うのと相手から言われるのとではすごくなんか……」

 ブツブツと文句を連ねている。
 若干違うけどアンダーマイニング効果みたいなものかな。無報酬のボランティアに報酬を付けられるともうやりたくなくなっちゃう、そんな感じ。

「まず基礎報酬」
「まず?」
「そして成功報酬です」
「無知ですいません、依頼したことがないもので、私基礎報酬という言葉を知らないんですけど」

 私はその言葉を聞いて口に手を当てる。
 そして手のひらの中で思わず笑みが溢れた。

「基礎報酬は所謂前金です。緊急性の高き依頼はもちろん、冒険者の時間を消耗するです。予定する依頼を全て破棄すて活動する故に」

 私は指をピンと1つ立てる。

「それに辛き事を言うですけど、行方不明者の探索は成功の可能性が無限にあるですし、失敗の確率もあるです。それは冒険者の手腕ではなく」
「……と、言うと?」

「行方不明者の死亡」

 獣耳っ娘がヒュッと息を詰まらせる。
 思考が上手く働かないのだろう。私は畳み掛けるように言葉を続ける。

「既に手遅れである場合、冒険者はやる事皆無です。死体の発見ぞするなればまだいいですけど、丸ごと魔物に食べるされた場合……」

 少女の顔色が真っ青に染まる。

「行方不明者の死亡という証拠も残らぬわけです。ありもしない生存の可能性を抱くすたまま、居もせぬ行方不明者ぞ探す。その時間は、果てしなく無意味です」
「わ、わか、わかりました。あの、早く父を、お父さん……」

 震える声で私にしがみつく少女。
 目線自体はそこまで差がないのに恐怖で縮こまった獣耳っ娘は随分小さく見える。

 お願いします、と小さく呟いたその声に私は顔を背ける。


 いよっし! ビクトリー!
 これで無報酬活動は避けられた!

 どっちに転ぼうが私に報酬が降り注ぐ!

 基礎報酬? そんな言葉はありません。依頼したことないって聞いたからでっち上げた。実際行方不明者の報酬形態がどんな感じになっているのか分からないけど。

 最低? ははは、心を粉砕してゴールのない労働を頑張ろうという少女の心の内なんて誰も分からないよ。

 多分私の顔面の横とかに『コイツが鬼畜と言います』みたいな看板立てられても可笑しくない。


 屁理屈のこね方、もう少し勉強した方がいいかな。

「じゃあ細かき話は後々で。私は冒険者ギルドにぞ行くするです」



 獣耳っ娘はゴクリと唾を飲んだあと頷いた。



 ==========



「──1週間前? そんな依頼受注されてないですよ?」
「えっ」
「えっ」

 ギルドに行って早速エルフのお姉さん、リリーフィアさんに依頼の話を聞くも、そんな言葉が返ってきた。

「護衛依頼、ギルド通過不可ぞ可能なのですか?」
「聞きたいことは不可能なのか可能なのか、一体どっちですか?」

 質問に質問で返さないで。
 護衛依頼はギルドを通さなくてもできるのかって聞いただけじゃん。

「常設依頼以外はブッキングを防ぐために職員に渡しますよね。こちらでも誰が依頼を受けたかはメモします。なので受注中の依頼はギルドの中にあるので、無いとなると……」

 リリーフィアさんは険しい顔で2秒ほどフリーズした後、頬に人差し指を当てて首を傾げた。

「ギルド仲介料をめんどくさがって直接護衛を依頼したとかですかね?」

 えへっとした表情で笑顔を見せるエルフ。

 胡散臭い。その笑顔、とても胡散臭い。
 じっと見つめる。

「……はぁ」

 リリーフィアさんは観念したように両手を上げた。

「付与防具屋のリーベさんは毎回きちんとギルドを通します。えぇ、彼……あの人の事は流石に忘れません。」
「つまり?」
「つまり、依頼が無いとなると……。言い難いですけど……」

 私はニッコリ笑顔を浮かべた。
 ほほう。ほほーーう。

「ギルドのお・しょ・く?」

 はぁと。
 そんな気持ちを込めてとっても可愛く言い放ちました。もちろん、周りに配慮して小声だけどね。
 こんっっな素晴らしい脅しになるネタを誰彼構わず言いふらすわけが無い。交渉カードそのもの!

 うんうん、握られるの嫌だよね。
 私、言いふらさないけど触れないことはしないから。


 にしてもホントに胃痛案件になりそうな予感がする。ここで逃げると、後々レイラ姉様に知られた場合。
 絶対、交渉カードに使われる。だって私の姉だもの。私の性根に似てるに決まってる。

 でも、この件に関わるのも嫌な予感がする。14年の経験から来る勘。


──ギギィ……



「リリーフィアさん、悪いけどうちのくそバカリック見てないか?」
「あれ、グレンさん依頼中なんじゃ」
「とっくに終わってリック達に依頼報告行かせたんだけど……──あいつ絶対道草してるな」

 入ってきたグレンさんと目が合った。

「リィン?」
「グレンさん、リィンさんと知り合いですか?」

 リリーフィアさんの声に私は苦手なグレンさんが現れてしまったことに嫌な顔をする。
 善人相手ってやりにくくて仕方がない。

「あの、グレンさんリィンさん。両者共に魔法職で相性悪いのはわかってますけど、流石に猶予がありません。リーベさん捜索を今から取り掛かって貰ってもいいですか?」

 どういうことだ、と言いたげな視線がグレンさんから私やリリーフィアさんへと向けられる。

「日が暮れるまででいいんです。証拠が消えてしまう前に、少しでも手掛かりが欲しいです。グレンさんの冷静な観察眼が必要となるかも」
「事情は」
「リィンさんがご存知です。すいませんが、これはギルドからの強制依頼ということにさせていただきます」
「わかった。受けること自体には問題ない。ザ・ムーンの誰かに依頼の言伝を頼む。俺は先行する」

 グレンさんは荷物の整理をし直して私に向いた。

「──リィン、すまないが事情説明も兼ねて一緒に着いてきてくれるか?」

 その目は真剣そのものだった。

 グレンさんは正義感の塊かな?
 治安維持組織の兵士になれるよきっと。


「もちろんですぞ!」

 私はいい子のフリして承る。

 いやまぁ行くけどね! 行くけど! 説明するけど、それとこれとは話が違うって言うか。誰かに指示されるとなんかやる気が削がれてしまうというか。

 あ、なるほど。
 これがアンダーマイニング効果かぁ。実感した。
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