12 / 193
冒険者編
第12話 俺様系モチベーションの問題
しおりを挟む「ほんとに探しに行ってくれるんですか?」
獣人のウルさんが私の腕を掴んでキラキラと目を輝かせる。
えぇ、助けてあげます。
「情報ぞいただけます?」
私は笑顔で促した。
「えっと、お父さんはファルシュとグリーンをしょっちゃう行き来するんです」
「ふむふむ」
「ファルシュ領は防具が結構売れますからね」
それは知らなかった
1番戦争に敏感だからなのだろうか。
「ファルシュ首都メーディオとここダクアからは往復で4日。荷物の積み下ろしや積み入れもかかる日数は精々1日です」
私は顎に手を当てた。
……つまり私はレイラ姉様の手によって丸1日以上気絶してたってわけか。
荷物のない早馬の方が速度は上だけど2倍以上差がかかるということもあるまい。
「たった2日とは言え、お父さんがここまで遅くなることは今まで無かったんです」
しゅんと耳がヘタる。
ふむ、と考えるためのため息声が漏れる。
「遠きですね。誰かを探す進行中の速度はあまりにも遅き」
それまでに衰弱する可能性もある。それに、グリーン領とファルシュ領の間。行方不明者が商人ということもあり、最悪を考えると通商破壊が起きてしまうと考えていい。我が領は孤立……。
通商破壊とは言葉そのまま。
輸入と輸出が出来なくなれば地産地消出来ない領が壊滅的。ちなみにファルシュ領は武力に力を入れる為、農耕メインのグリーン領とは切られると大打撃だ。
ん? 行方不明の店主の心配?
そんなことより私の生活圏の住みやすさが重要である。
自分本位な理由も、他人を思う理由も、理由は理由。くだらねぇ動機もご立派な動機もやってしまえば皆同じである。
「えーっと、普段の父の通商ルートはそんな感じです」
「なるほど。護衛は?」
「いつも通り冒険者ギルドで依頼を。誰かは、ちょっと分かんないですけど」
なら冒険者ギルドで1回聞いた方がいいかな。
もし護衛した冒険者のランクが高ければ私の危険が高まるわけだし。その場合選択肢を変えよう。
一生懸命探しても見つからなかったことにする。
「分かるますた。冒険者ギルドに1度寄るです」
「ホントですか、ありがとうございます」
「──では報酬の交渉ぞ」
「えっ」
「えっ」
ごく当たり前のことを言ったと思ったんだけど、何故か獣耳っ娘は驚く反応を見せた。
「……貴女の反応、めちゃくちゃ善意の無償みたいな顔してませんでした?」
「労働に対価は必要ですよね?」
「いや、別に報酬はいいんですけどね。とてもいいんです。私も店番とかしますから分かりますよ、無報酬ほど不安なことはないですし。いやでもなんか私から言うのと相手から言われるのとではすごくなんか……」
ブツブツと文句を連ねている。
若干違うけどアンダーマイニング効果みたいなものかな。無報酬のボランティアに報酬を付けられるともうやりたくなくなっちゃう、そんな感じ。
「まず基礎報酬」
「まず?」
「そして成功報酬です」
「無知ですいません、依頼したことがないもので、私基礎報酬という言葉を知らないんですけど」
私はその言葉を聞いて口に手を当てる。
そして手のひらの中で思わず笑みが溢れた。
「基礎報酬は所謂前金です。緊急性の高き依頼はもちろん、冒険者の時間を消耗するです。予定する依頼を全て破棄すて活動する故に」
私は指をピンと1つ立てる。
「それに辛き事を言うですけど、行方不明者の探索は成功の可能性が無限にあるですし、失敗の確率もあるです。それは冒険者の手腕ではなく」
「……と、言うと?」
「行方不明者の死亡」
獣耳っ娘がヒュッと息を詰まらせる。
思考が上手く働かないのだろう。私は畳み掛けるように言葉を続ける。
「既に手遅れである場合、冒険者はやる事皆無です。死体の発見ぞするなればまだいいですけど、丸ごと魔物に食べるされた場合……」
少女の顔色が真っ青に染まる。
「行方不明者の死亡という証拠も残らぬわけです。ありもしない生存の可能性を抱くすたまま、居もせぬ行方不明者ぞ探す。その時間は、果てしなく無意味です」
「わ、わか、わかりました。あの、早く父を、お父さん……」
震える声で私にしがみつく少女。
目線自体はそこまで差がないのに恐怖で縮こまった獣耳っ娘は随分小さく見える。
お願いします、と小さく呟いたその声に私は顔を背ける。
いよっし! ビクトリー!
これで無報酬活動は避けられた!
どっちに転ぼうが私に報酬が降り注ぐ!
基礎報酬? そんな言葉はありません。依頼したことないって聞いたからでっち上げた。実際行方不明者の報酬形態がどんな感じになっているのか分からないけど。
最低? ははは、心を粉砕してゴールのない労働を頑張ろうという少女の心の内なんて誰も分からないよ。
多分私の顔面の横とかに『コイツが鬼畜と言います』みたいな看板立てられても可笑しくない。
屁理屈のこね方、もう少し勉強した方がいいかな。
「じゃあ細かき話は後々で。私は冒険者ギルドにぞ行くするです」
獣耳っ娘はゴクリと唾を飲んだあと頷いた。
==========
「──1週間前? そんな依頼受注されてないですよ?」
「えっ」
「えっ」
ギルドに行って早速エルフのお姉さん、リリーフィアさんに依頼の話を聞くも、そんな言葉が返ってきた。
「護衛依頼、ギルド通過不可ぞ可能なのですか?」
「聞きたいことは不可能なのか可能なのか、一体どっちですか?」
質問に質問で返さないで。
護衛依頼はギルドを通さなくてもできるのかって聞いただけじゃん。
「常設依頼以外はブッキングを防ぐために職員に渡しますよね。こちらでも誰が依頼を受けたかはメモします。なので受注中の依頼はギルドの中にあるので、無いとなると……」
リリーフィアさんは険しい顔で2秒ほどフリーズした後、頬に人差し指を当てて首を傾げた。
「ギルド仲介料をめんどくさがって直接護衛を依頼したとかですかね?」
えへっとした表情で笑顔を見せるエルフ。
胡散臭い。その笑顔、とても胡散臭い。
じっと見つめる。
「……はぁ」
リリーフィアさんは観念したように両手を上げた。
「付与防具屋のリーベさんは毎回きちんとギルドを通します。えぇ、彼……あの人の事は流石に忘れません。」
「つまり?」
「つまり、依頼が無いとなると……。言い難いですけど……」
私はニッコリ笑顔を浮かべた。
ほほう。ほほーーう。
「ギルドのお・しょ・く?」
はぁと。
そんな気持ちを込めてとっても可愛く言い放ちました。もちろん、周りに配慮して小声だけどね。
こんっっな素晴らしい脅しになるネタを誰彼構わず言いふらすわけが無い。交渉カードそのもの!
うんうん、握られるの嫌だよね。
私、言いふらさないけど触れないことはしないから。
にしてもホントに胃痛案件になりそうな予感がする。ここで逃げると、後々レイラ姉様に知られた場合。
絶対、交渉カードに使われる。だって私の姉だもの。私の性根に似てるに決まってる。
でも、この件に関わるのも嫌な予感がする。14年の経験から来る勘。
──ギギィ……
「リリーフィアさん、悪いけどうちのくそバカリック見てないか?」
「あれ、グレンさん依頼中なんじゃ」
「とっくに終わってリック達に依頼報告行かせたんだけど……──あいつ絶対道草してるな」
入ってきたグレンさんと目が合った。
「リィン?」
「グレンさん、リィンさんと知り合いですか?」
リリーフィアさんの声に私は苦手なグレンさんが現れてしまったことに嫌な顔をする。
善人相手ってやりにくくて仕方がない。
「あの、グレンさんリィンさん。両者共に魔法職で相性悪いのはわかってますけど、流石に猶予がありません。リーベさん捜索を今から取り掛かって貰ってもいいですか?」
どういうことだ、と言いたげな視線がグレンさんから私やリリーフィアさんへと向けられる。
「日が暮れるまででいいんです。証拠が消えてしまう前に、少しでも手掛かりが欲しいです。グレンさんの冷静な観察眼が必要となるかも」
「事情は」
「リィンさんがご存知です。すいませんが、これはギルドからの強制依頼ということにさせていただきます」
「わかった。受けること自体には問題ない。ザ・ムーンの誰かに依頼の言伝を頼む。俺は先行する」
グレンさんは荷物の整理をし直して私に向いた。
「──リィン、すまないが事情説明も兼ねて一緒に着いてきてくれるか?」
その目は真剣そのものだった。
グレンさんは正義感の塊かな?
治安維持組織の兵士になれるよきっと。
「もちろんですぞ!」
私はいい子のフリして承る。
いやまぁ行くけどね! 行くけど! 説明するけど、それとこれとは話が違うって言うか。誰かに指示されるとなんかやる気が削がれてしまうというか。
あ、なるほど。
これがアンダーマイニング効果かぁ。実感した。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~
チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!?
魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで!
心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく--
美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!
DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート
みーくん
ファンタジー
気づいたら異世界に飛ばされていた、おっさん大工。
唯一の武器は、腰につけた工具袋——
…って、これ中身無限!?釘も木材もコンクリも出てくるんだけど!?
戸惑いながらも、拾った(?)ギャル魔法少女や謎の娘たちと家づくりを始めたおっさん。
土木工事からリゾート開発、果てはダンジョン探索まで!?
「異世界に家がないなら、建てればいいじゃない」
今日もおっさんはハンマー片手に、愛とユーモアと魔法で暮らしをDIY!
建築×育児×チート×ギャル
“腰袋チート”で異世界を住みよく変える、大人の冒険がここに始まる!
腰活(こしかつっ!)よろしくお願いします
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆1/19〜1/27まで、予約投稿を1話ずつ行います。
農家の四男に転生したルイ。
そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。
農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。
十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。
家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。
ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる!
見切り発車。不定期更新。
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる