最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!?〜

恋音

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ダクア編

第30話 詰めの甘さは致命的

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 3日後。

「おや、それですと、あまりに安いですぞね」

 私はソファでニコリと笑って口元に手を添えた。

「だが香辛料は元々私の商会の物です。輸送を担当していた者も行方も分からずじまい。ようやく見つけた手掛かりです。日付も経過した香辛料、輸送者の無念を晴らすためにも無駄にはできません。我々が出せる譲歩だと思いますよ」

 コーマス領の商会長と紹介された太り気味の眼鏡をかけた男が、私と同じように笑顔を浮かべて言う。

「先程も言うした通り、私には『売らぬ選択』ぞ取るが可能です」
「奇遇ですね。私にも『買わない選択』が出来ますよ」

 一呼吸開けて告げられる言葉に私はくすくすと笑った。商会長は表情を動かさなかったが、僅かに目を細める。

「無いくせによく言う」
「ほう」
「貴方の商会は大きい。この街でも情報が手に入る可能なほど」
「……。」

 私は頬に手を当てて笑う。

「輸送者に無念を晴らす、と銘打つ貴方が買い取らぬ? 何ぞ馬鹿な。貴方は買い取らねばならぬ。名誉のために」

 対抗するように商会長は肩を震わせて笑う。

「貴女達が……貴女がそれ指摘しますか。それを言うのであれば、貴女にも売らない選択肢は無い」
「へぇ」
「盗賊からの取得物。売り捌くにはどうしたって信用がいる。どうやら貴女はこの街に来てすぐのようですし、個人で使用するには量が多い」

 ニコッと首を緩く傾げながら商会長は予想しうる結果を出す。

「買い叩かれるのがオチですよ」

 ふふふ。
 あはは。

 平和な笑顔を絶やさずに、バチバチとハッタリと嘘を使いまくる。

「やだなぁ」
「……おや」
「誰が信用の無き商会にぞ、売る、と?」

 貴女に振られたら、次に売り付ける相手。売買を取り仕切る商会って誰が言った? ギルドにもありだし個人商店にもあり、そして何より、うちの実家で買い取ってもらえる。私には実家というチートがあるからね。


「………………なるほど、そちらの席の彼が交渉の席につかない理由が分かった」

 初めて表情が崩れた。
 約2時間に渡る攻防に終止符が打たれた瞬間だ。

 商会長は眼鏡を外して眉間を揉むと、深いため息を吐き出して眼鏡をかけ直した。

「いいでしょう。全て合わせて金貨10枚。──私が今回出せる金額の、全額ピッタリです」
「マジかよ……」
「よっし」

 最初から多めに提示せず、金貨10枚を貫き通した。多めに提示して値段を下げていくと、今回みたいなパターンでは手持ち金額より下げられる可能性がある。例えば金貨7枚とかね。
 『出す』か『出さないか』の二択を与えれば、そしてプライドと名前という商会の武器で逃げ道を塞いでしまえば。

「参考までに聞きたいのですが、どうして私の手持ちが金貨10枚だとお分かりに?」
「計算しますた」
「……ほう、計算を」

「貴方の商会はそりゃこの王国に幅広く手ぞ出すしている。各地の売るしている金額を限界まで集めるして、地域による差額から輸送費、人件費、利益、原価ぞ計算。ただ、原価がわからぬ故に、そこはほら」

 私はグリーン領地に足を踏み出す。

「ここが原産」

 もっと暑い地域じゃないと香辛料は育ちにくいだろうけど、商会の取り扱っている穀物の原価を調べて利益率を計算すれば。
 香辛料の原価は自ずと見えてくる。

「あぁ……なるほど……なるほどな……。名があるというのも考え物だな……。えっと、Fランクの冒険者、と聞きましたが。ホントにですか?」
「本当です」
「本当だな」

 Fランク側が声を揃えるもそれでも信じられないのかリリーフィアさんを見た。頷いてた。

「よろしければ私の商会で働きませんか」
「ほえっ!?」
「……何不思議がってんだ。お前、商会トップと殴りあったんだぜ?」

 そうだよなぁー。
 でも、私がやり合えるのって今回みたいなレアケースというか、自分が有利である場合なので。商会とか正直向かないんだよな……。一点特化というよりオールマイティだと自覚してるので。

 多分本気で下準備を終えた商会長には敵わないと思う。いや、絶対無理。今回はリィンわたしが出てきて間も無いから、情報無くて勝てたんだと思う。


 ……本音を言おう。面倒臭い。

「私、ライアーとコンビぞ組むしていたいので」

 キュッと服を掴むと、そこまで本気じゃなかったのか簡単に諦めてくれた。

 ふぃーーー。常に腹の探り合いを要求される思考渦巻く修羅に喜んで身を置きたくないってば。

「では私はこれで失礼しましょう。リリーフィアさん、よろしいですか」
「えぇ、丁度。ご協力ありがとうございます」
「ははっ、ギルドに恩を売るのも悪くないですからね」

 金額を受け取り、納品書にサインを書く。私の書いた納品書を受け取れば、商会長は頭を下げて応接室から退出する。

 多分覚えて貰えただろうから、今後商会長の伝手は利用していくこととしよう。

 ──しかし、退出したはずの扉からギルマスが入ってきた。

「バックス?」

 バックスさんが扉の前に塞ぐように・・・・・立つ。

「ッッ!」
「まさかッ!」

 私が息を飲めば連動するようにライアーも気付く。
 応接室の左奥の扉が、開いた。

 出てきたのは兵士が2人。執事が1人。
 ──そして。

「あぁ、着席したままで結構……──」

 茶髪の高貴な方が入室して、私を見て。

「──そう来たか」

 軽く目を見開きそう呟いた。

 いや、その言葉は完全に私のセリフですけど。

「ぁぁぁぁ…………」


 やられた。やられた……!
 出向かなければ大丈夫だと思い込んでいた! それにさっきまでいた商会長! 絶対時間稼ぎに使われてた!

 まさか! 貴族直々に! 動くとは思わないじゃん!

 これが代官ならまだ良かった。
 けど! この貫禄で! 貴族当主じゃないわけ! あるか!

「初めまして。……うん、初めましてだね。私はヴァルム・グリーン。要するにここの領主だ」
「……! あ、挨拶が遅れ、らる? して、申し訳ございません。リァ、Fランク冒険者のリィンです」
「…………そう来たか」

 そう来たんですよ(2回目)

「あの、先程から如何しますた?」
「……。盗賊の件を片付けてくれた冒険者が想像より幼かったコト、それと、その口調だね」

 あぁ、なるほど。そういうことか。
 言うか迷ったのだろう。数秒考えたが、グリーン子爵は困った笑顔を浮かべて答えてくれた。

「そちらは」

 ライアーに向けられた視線だった。

「同じくFランク冒険者、ライアーッス」

 ペコッと頭を下げたが、どうやら礼儀作法をあまり知らない様子。
 いや、知ってる方がおかしいのは分かってる。私もガッツリ礼儀作法使いたいし、口調もどうにか隠したかったけど……! 庶民が知ってるのはおかしいよなぁ!

 よし、ここはライアーに出てもらおう。
 私の交渉はもう無理だ。

「さて……。今回、うん、盗賊の件で起こった出来事を詳しく聞こうと思って。是非、教えて貰えないかい」

 グリーン子爵は茶髪の老人だった。と言っても50代くらいだから老人と言っても中老辺り。

 油断してたらあっという間に食い殺される、そんな年代だ。
 多分前世の記憶があったとしても敵わない様な知識と教養と経験。

 負け戦は、しない人間なので!

 ……そもそもだけど、子爵当主と辺境伯令嬢だと、私の方が地位が上とも言いづらい。
 下手に偉そうにも無礼にも出来ないし。

 う、うう。胃痛が。胃痛がぁ。
 そりゃ、子爵本人は私の身分なんて知らないだろうから庶民として接していいんだろうと思うけど、ううううう。

「ライアぁ」
「……おい、俺も礼儀とか知らねェんだが」
「でも私ぞ喋るよりはずっともっとよろしきですぅううう」

 ピッ、と気持ちだけライアーの後ろに隠れるも、グリーン子爵は私をメインで据えていた。

「そもそも、リーベの娘から依頼受けたのはお前の方だろ」
「ですけど、ギルド通すしたはグレンさんの名前です故に」
「お前視点が1番話通るだろ」
「でもぉ!」

 嫌なもんは! 嫌なんですって!

「ふはは、あぁうん。ここで話したことを忘れてくれるなら、口調も態度も別に気にする事はない。もちろんだけど、レディのことだけじゃなく私のことも含めてだが」

 グリーン子爵、実はめちゃくちゃ優しい人なのではないだろうか。
 嘘ついてる様子もないし……。

 私は腹を括って不思議語のまま、経緯と何が起こったかを話し始めた。もちろん、魔法とかは除いて。






「(辺境伯の娘がここで出てくるとは思わないだろ普通……!)」

 話を聞きながら男は形容し難い感情に内を支配されていた。

「(まさか既にやらかしてるというか、事件に関わっているとは思わないじゃないか! くっそ、あの金髪悪魔、本当に深窓の令嬢を放り投げたな……! 体のいい厄介払い……じゃなさそうだな。というか、表舞台に出ない理由がよく分かった)」

「──と、そこで子爵ぞ紋章付きの剣ぞ発見しますて」

「(なんで辺境伯で育っていてこんな口調になるんだ)」

 そこに触れてはいけない。

 そんなことを思われているとも知らないリィンはぞぞぞぞ言いながら説明を頑張る。時々、ヒヤリとした激しい感情が目の前の男から発せられるのを肌で感じつつ。
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