最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!?〜

恋音

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王都編上

第70話 第2戦目、歯車

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「………」

 このおっさんと、コンビであることの意味。


『クアドラードアドベンチャートーナメント2日目! 初日でグッと少なくなった冒険者達が競い合います!』


 ずっと考えていた。


『2日目。要するに第2戦目! 1番最初はダークホース! 見事Dランクパーティーを撃破しちまったFランクコンビ! この快進撃でどこまで進むのか! 個人的には頑張って欲しいです俺の金貨2枚! というわけで実況は引き続き皆の俺、イージーです!』
『解説のエティフォールです。Fランクの出場はそもそも稀ですから、是非頑張って欲しいですね、僕の金貨5枚』


 私が街の外に出るには大人の存在が必要だ。
 だから都合が良かった。

『続きまして入場はCBランクパーティー。Cランクのガナッシュ、セーニャ、そしてリーダー! Bランクのジョー! 前回は数多の火魔法で圧倒的な技術力を見せつけてくれました』
『優勝候補のパーティーですね。Bランクが1人混ざっていますから、このパーティーの上限は3人となります』
『魔法対決になりそうでめっちゃ楽しみです! これこそクアドラードアドベンチャートーナメントの醍醐味ですね!』

 ただの偶然だった。
 大人で、魔法の常識に無知で、初めて会った冒険者だった。一緒に事件に巻き込まれたから、常識の無い私でも異常だと思う魔法に巻き込めた。だからコンビを組んだ。

 お互いに踏み込まなくて、冒険者活動に命をかけていない。目的が、かけている熱量が、呼吸が、思考が、性根が。一緒だった。似ていた。

 だからコンビを組んだ。

『それでは試合──』

 それでコンビを解消しなかったのは。

 『月組は善人だから』『ペイン達は後から出会った上にトリアングロの元幹部からいるから』

 出会った都合のいい大人のいるチームが、都合の悪い理由があった。

 見ないふりをしていた。
 ねぇ私よ。
 こいつと組んでも、都合の悪い理由が出てくるじゃないか。

 『コンビネーションが噛み合わない』

 なんでその理由に見ないふりをしている?

『──開始!』

 実況の声に私とライアーの距離が離れる。お互い元はソロ冒険。私もソロ冒険者歴は浅いけど、実家での対人訓練はずっとソロだ。

 私は前回と違い箒を片手に持っていた。

「シールドバッシュ!」

 針の付いた殺傷力の高そうな大盾を持った前衛職が近付いたライアーに牙を向く。
 残りの2人は詠唱中。

 〝ウォーターボール〟!

「したが──火よ! 〝ファイアボール〟」

 手始めに箒の魔石を経由して魔法を投げれば火で打ち消された。ちぃ。詠唱切り上げて初級魔法を短縮して使えるのか。

『出た! リィンの無詠唱とジョーの省略詠唱! 高度ですね!』
『しかもジョーさんの凄いところは別の魔法の詠唱で練り上げた魔力をそのまま初級魔法に応用出来るところです。同属性の魔法だったということが分かりますね』
『ひゃー! 流石Bランク! いや、Bランクが化け物なのか、それにぶつけ合わせれるFランクのリィンが化け物なのか! 魔法はあまり得意ではないので分かりません!』
『間違いなく両方とも化け物と言えましょう』

「──〝スピードアップ〟」
「っしゃぁ、来た!」

 前衛職の反応速度も走る速度も速くなった。
 Cランクの人は補助魔法の使い手のようだ。さらに詠唱が続く。


 つまらない。

 ……あぁ、気付いた。
 気付いた。


 私は棒立ちのままBランクの魔法職の前にいる。
 距離は離れているけれど。

「ッ」

 ライアーが防ぐだけではなく攻撃の割合を増やし始めた前衛職に吹き飛ばされた。ごろっと私とBランクの中間に転がってくる。
 怪我をしている訳ではなく、左手の篭手で防御しながら後ろに飛び威力を殺した様だ。


 もし。
 もしも。

 ずっと独りで戦ってきた私が、ライアーが。
 信じることが出来たなら。

「ライアーーーーーーーー!!!!」

 Bランクの詠唱が終わる。
 ライアーがギョッと私を見た。

「──信じるして」

 前を、指さした。

「……は、」

 多分完全に素の表情だった。
 ライアーは目を見開いて酸素を求めた後、背中を向けて走り出した。

「──狂え灼熱の焔! 〝インフェルノ〟!」
「〝ファイアボール〟!」

 火魔法の中で難しいと言われるインフェルノ。
 厳密に区切りはないが、初級中級上級に魔法を分けるなら間違いなく上級。

 私はそれに対抗するように『火魔法』を放った。

 火を消すなら水だ。
 けど私は火を選んだ。

 ライアーは私のファイアボールとインフェルノの中心にいるため、あっという間に火に飲み込まれる。

 集中……集中……!

『は、え、はあああ!? 味方ごと巻き込んだ火魔法! いや待てインフェルノ!? あーえー、Bランクジョーの放ったインフェルノに対抗したのはFランクのリィンのファイアボール! え、なんで初級魔法で、いやそれより! 2人の魔法職の炎に飲み込まれたのはライアー!』
『……解説のエティフォールです。インフェルノはもちろんですが、ファイアボールも量がえぐい。とにかく大きくして、範囲系のインフェルノに対抗しているようです。恐らく彼女の持っている箒のが火属性の魔石で──まて』

 炎が不自然に、揺れた。


 ずっと考えていた。
 私とライアーが、コンビである事の意味。

 コンビネーションが合わないのに、合わないって最初から分かっていたのに。最初の1ヶ月という試用期間でコンビを組むと決定し続けてきた意味。

 私は『コンビネーションが合わない』ということに、見ないふりをしていたわけじゃない。




 Bランクのジョーが放ち続ける火魔法の違和感を最初に感じ取ったのは前衛職のガナッシュだった。
 一秒。もしくはそれにも満たない僅かな時間。判断をしたのは経験だった。つまりは、勘。
 体を動かしジョーの前に立ち塞がる。ここで多分一秒。オレンジの中から銀が輝いた。

──ガンッ!

 ぶつかる盾への衝撃に体をねじ込んだだけの防御はあっけなく崩される。

「炎の中から奇襲かよ……!」

 でも、不意打ちは防げた。リーダーのジョーさえ守れたら。




「ほんとに?」
「へ……」

 前衛じぶんの後ろから、少女わたしの声。
 
──ガインッ!

 致命傷を知らせる光の盾。



 私へ意識を移してしまった前衛職は、殺気溢れるライアーのお得意刺突によって戦闘不能の状態に陥る。

 呆然としたBランクだったけど、流石は高ランク。Fランクの私たちが一気にパーティーの中までやってきたと理解して、詠唱した。

「火よ! 〝ファイ」
「遅せぇッ!」

 ライアーの振り切った篭手が思いっきりBランクの顎にぶつかる。致命傷の盾は出なかったけど、脳震盪を起こしたBランクはクラりと足元に崩れた。

「ひぃ……! こ、降参です……ッ!」

 ライアーがそのままの動きでさらに後方にいた残りの魔法職を殺しに掛かろうとすれば、Cランク魔法職は両手を上げてギブアップをした。



『な、なんとなんとーーーーーーー!? まさか本当にやるとは思わなかった! 何が起こったのか分からないが分かることはただ一つ──Fランクコンビの勝利ぃいいいい! え、俺本当にわかんないんだけどこれどうなったんですか!?』
『解説のエティフォールです。まず、インフェルノとファイアボールという同属性でリィンさんは目くらましをしたんだと思います』
『目くらまし、ですか』

 困惑交じりの歓声の中、エティフォールさんがカラクリを解説し始める。

『そして彼女は防御魔法をライアーさんに掛けた』
『え!? ファイアボール使いながらですか!?』
『しかも恐ろしいことに、広範囲魔法で威力は他の上級魔法より下がるとは言えど、難易度の高いインフェルノでさえ破れないマジックシールドを張ったんです』

 炎も消えた闘技場で対戦相手が退場していく中、緊張を吐き出すように深く息を吐くライアーに近付く。

『そしてライアーさんはソレが破れないことを信じて炎の中を走った。そして攻撃。だが流石の盾役ガナッシュがギリギリ防ぎました。しかしその瞬間に、もう既にリィンさんが彼の後ろにいた。補助魔法か風魔法か、はたまた別か。流石に判断出来ませんが』

 覚えてて良かった瞬間移動魔法。
 おかげで不意をつけた。

「──よぉ小娘。機嫌はどうだ?」

 見ないふりをしていた。

 スタンピードの時も、シュランゲと戦った時も。そして今。
 私は、私はとても。

「……北側にあるチョコレートケーキ屋さんぞ行くすれば機嫌ぞ治る」
「現金だなお前」

 ──とても、楽しかった!

 幼馴染に言われて気付いた。
 そう、普段は噛み合わないのに、このおっさんと一緒に戦った時がすごくワクワクしたし楽しかった。

 戦いなんて嫌で、出来れば家でゴロゴロ過ごしていたいのに。
 今まで感じたことないくらい。魔法を知って、初めて使った時以上に!

 自分がライアーとどこまで行けるのか、どこまで噛み合うのか、ワクワクした。
 らしくないような向上心が心に芽生えた。
 

『彼女は三つ、同時に魔法を使ってみせた。人の身でありながら』

 だから私は、コンビを組み続けるんだ。
 この嘘吐き野郎と一緒にいるのが楽しくて。

「あとお風呂ぞ入るすたい」
「庶民になんつー贅沢を」

 カチリ。
 歯車が噛み合う。
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