70 / 193
王都編上
第70話 第2戦目、歯車
しおりを挟む「………」
このおっさんと、コンビであることの意味。
『クアドラードアドベンチャートーナメント2日目! 初日でグッと少なくなった冒険者達が競い合います!』
ずっと考えていた。
『2日目。要するに第2戦目! 1番最初はダークホース! 見事Dランクパーティーを撃破しちまったFランクコンビ! この快進撃でどこまで進むのか! 個人的には頑張って欲しいです俺の金貨2枚! というわけで実況は引き続き皆の俺、イージーです!』
『解説のエティフォールです。Fランクの出場はそもそも稀ですから、是非頑張って欲しいですね、僕の金貨5枚』
私が街の外に出るには大人の存在が必要だ。
だから都合が良かった。
『続きまして入場はCBランクパーティー。Cランクのガナッシュ、セーニャ、そしてリーダー! Bランクのジョー! 前回は数多の火魔法で圧倒的な技術力を見せつけてくれました』
『優勝候補のパーティーですね。Bランクが1人混ざっていますから、このパーティーの上限は3人となります』
『魔法対決になりそうでめっちゃ楽しみです! これこそクアドラードアドベンチャートーナメントの醍醐味ですね!』
ただの偶然だった。
大人で、魔法の常識に無知で、初めて会った冒険者だった。一緒に事件に巻き込まれたから、常識の無い私でも異常だと思う魔法に巻き込めた。だからコンビを組んだ。
お互いに踏み込まなくて、冒険者活動に命をかけていない。目的が、かけている熱量が、呼吸が、思考が、性根が。一緒だった。似ていた。
だからコンビを組んだ。
『それでは試合──』
それでコンビを解消しなかったのは。
『月組は善人だから』『ペイン達は後から出会った上にトリアングロの元幹部からいるから』
出会った都合のいい大人のいるチームが、都合の悪い理由があった。
見ないふりをしていた。
ねぇ私よ。
こいつと組んでも、都合の悪い理由が出てくるじゃないか。
『コンビネーションが噛み合わない』
なんでその理由に見ないふりをしている?
『──開始!』
実況の声に私とライアーの距離が離れる。お互い元はソロ冒険。私もソロ冒険者歴は浅いけど、実家での対人訓練はずっとソロだ。
私は前回と違い箒を片手に持っていた。
「シールドバッシュ!」
針の付いた殺傷力の高そうな大盾を持った前衛職が近付いたライアーに牙を向く。
残りの2人は詠唱中。
〝ウォーターボール〟!
「したが──火よ! 〝ファイアボール〟」
手始めに箒の魔石を経由して魔法を投げれば火で打ち消された。ちぃ。詠唱切り上げて初級魔法を短縮して使えるのか。
『出た! リィンの無詠唱とジョーの省略詠唱! 高度ですね!』
『しかもジョーさんの凄いところは別の魔法の詠唱で練り上げた魔力をそのまま初級魔法に応用出来るところです。同属性の魔法だったということが分かりますね』
『ひゃー! 流石Bランク! いや、Bランクが化け物なのか、それにぶつけ合わせれるFランクのリィンが化け物なのか! 魔法はあまり得意ではないので分かりません!』
『間違いなく両方とも化け物と言えましょう』
「──〝スピードアップ〟」
「っしゃぁ、来た!」
前衛職の反応速度も走る速度も速くなった。
Cランクの人は補助魔法の使い手のようだ。さらに詠唱が続く。
つまらない。
……あぁ、気付いた。
気付いた。
私は棒立ちのままBランクの魔法職の前にいる。
距離は離れているけれど。
「ッ」
ライアーが防ぐだけではなく攻撃の割合を増やし始めた前衛職に吹き飛ばされた。ごろっと私とBランクの中間に転がってくる。
怪我をしている訳ではなく、左手の篭手で防御しながら後ろに飛び威力を殺した様だ。
もし。
もしも。
ずっと独りで戦ってきた私が、ライアーが。
信じることが出来たなら。
「ライアーーーーーーーー!!!!」
Bランクの詠唱が終わる。
ライアーがギョッと私を見た。
「──信じるして」
前を、指さした。
「……は、」
多分完全に素の表情だった。
ライアーは目を見開いて酸素を求めた後、背中を向けて走り出した。
「──狂え灼熱の焔! 〝インフェルノ〟!」
「〝ファイアボール〟!」
火魔法の中で難しいと言われるインフェルノ。
厳密に区切りはないが、初級中級上級に魔法を分けるなら間違いなく上級。
私はそれに対抗するように『火魔法』を放った。
火を消すなら水だ。
けど私は火を選んだ。
ライアーは私のファイアボールとインフェルノの中心にいるため、あっという間に火に飲み込まれる。
集中……集中……!
『は、え、はあああ!? 味方ごと巻き込んだ火魔法! いや待てインフェルノ!? あーえー、Bランクジョーの放ったインフェルノに対抗したのはFランクのリィンのファイアボール! え、なんで初級魔法で、いやそれより! 2人の魔法職の炎に飲み込まれたのはライアー!』
『……解説のエティフォールです。インフェルノはもちろんですが、ファイアボールも量がえぐい。とにかく大きくして、範囲系のインフェルノに対抗しているようです。恐らく彼女の持っている箒のが火属性の魔石で──まて』
炎が不自然に、揺れた。
ずっと考えていた。
私とライアーが、コンビである事の意味。
コンビネーションが合わないのに、合わないって最初から分かっていたのに。最初の1ヶ月という試用期間でコンビを組むと決定し続けてきた意味。
私は『コンビネーションが合わない』ということに、見ないふりをしていたわけじゃない。
Bランクのジョーが放ち続ける火魔法の違和感を最初に感じ取ったのは前衛職のガナッシュだった。
一秒。もしくはそれにも満たない僅かな時間。判断をしたのは経験だった。つまりは、勘。
体を動かしジョーの前に立ち塞がる。ここで多分一秒。オレンジの中から銀が輝いた。
──ガンッ!
ぶつかる盾への衝撃に体をねじ込んだだけの防御はあっけなく崩される。
「炎の中から奇襲かよ……!」
でも、不意打ちは防げた。リーダーのジョーさえ守れたら。
「ほんとに?」
「へ……」
前衛の後ろから、少女の声。
──ガインッ!
致命傷を知らせる光の盾。
私へ意識を移してしまった前衛職は、殺気溢れるライアーのお得意刺突によって戦闘不能の状態に陥る。
呆然としたBランクだったけど、流石は高ランク。Fランクの私たちが一気にパーティーの中までやってきたと理解して、詠唱した。
「火よ! 〝ファイ」
「遅せぇッ!」
ライアーの振り切った篭手が思いっきりBランクの顎にぶつかる。致命傷の盾は出なかったけど、脳震盪を起こしたBランクはクラりと足元に崩れた。
「ひぃ……! こ、降参です……ッ!」
ライアーがそのままの動きでさらに後方にいた残りの魔法職を殺しに掛かろうとすれば、Cランク魔法職は両手を上げてギブアップをした。
『な、なんとなんとーーーーーーー!? まさか本当にやるとは思わなかった! 何が起こったのか分からないが分かることはただ一つ──Fランクコンビの勝利ぃいいいい! え、俺本当にわかんないんだけどこれどうなったんですか!?』
『解説のエティフォールです。まず、インフェルノとファイアボールという同属性でリィンさんは目くらましをしたんだと思います』
『目くらまし、ですか』

困惑交じりの歓声の中、エティフォールさんがカラクリを解説し始める。
『そして彼女は防御魔法をライアーさんに掛けた』
『え!? ファイアボール使いながらですか!?』
『しかも恐ろしいことに、広範囲魔法で威力は他の上級魔法より下がるとは言えど、難易度の高いインフェルノでさえ破れないマジックシールドを張ったんです』
炎も消えた闘技場で対戦相手が退場していく中、緊張を吐き出すように深く息を吐くライアーに近付く。
『そしてライアーさんはソレが破れないことを信じて炎の中を走った。そして攻撃。だが流石の盾役ガナッシュがギリギリ防ぎました。しかしその瞬間に、もう既にリィンさんが彼の後ろにいた。補助魔法か風魔法か、はたまた別か。流石に判断出来ませんが』
覚えてて良かった瞬間移動魔法。
おかげで不意をつけた。
「──よぉ小娘。機嫌はどうだ?」
見ないふりをしていた。
スタンピードの時も、シュランゲと戦った時も。そして今。
私は、私はとても。
「……北側にあるチョコレートケーキ屋さんぞ行くすれば機嫌ぞ治る」
「現金だなお前」
──とても、楽しかった!
幼馴染に言われて気付いた。
そう、普段は噛み合わないのに、このおっさんと一緒に戦った時がすごくワクワクしたし楽しかった。
戦いなんて嫌で、出来れば家でゴロゴロ過ごしていたいのに。
今まで感じたことないくらい。魔法を知って、初めて使った時以上に!
自分がライアーとどこまで行けるのか、どこまで噛み合うのか、ワクワクした。
らしくないような向上心が心に芽生えた。
『彼女は三つ、同時に魔法を使ってみせた。人の身でありながら』
だから私は、コンビを組み続けるんだ。
この嘘吐き野郎と一緒にいるのが楽しくて。
「あとお風呂ぞ入るすたい」
「庶民になんつー贅沢を」
カチリ。
歯車が噛み合う。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~
チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!?
魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで!
心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく--
美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる