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王都編下
第86話 厄介×厄介=
しおりを挟む「貴方とは、仲良く出来そうですの」
「俺もそう思っていたところだ」
エリィとクロロスがタッグを組んでしまった。私とライアーは同時にため息を吐き出した。
「ここは、託児所か?」
ライアー幼稚園、爆誕。
==========
獣だけでもお金にはなるので冒険者ギルドで換金して来た私とライアー。準優勝者の恩恵で解体費かからないの忘れていたけど、それ以上に厄介事しかなくて大会に出るんじゃ無かったと心から思いました。
まぁなんやかんやでギルドに戻ったらワクワクした顔で待ち構えているエリィ。
そして何が琴線に触れたのか意気投合したクロロス。
ちなみに2人は呼び捨てでいいよ、と言われたので敬称は無しで呼ぶことにした。ライアーに『俺は最初から敬称なかったんだが?』と言われたので笑顔を浮かべておいた。敬う必要、ある?
まぁ、なんやかんやで即席幼稚園の遠足パーティーが発足されたわけだ。すごい純粋に嫌だ。
なんだろう、この灰汁を煮詰めてみました! みたいな感じのパーティー。言語不自由美少女に加え、かたや冴えないおっさん。かたや限界エルフ。そして疑惑が確信に近い監視役(仮)。
ペイン達パーティーとどっこいどっこいじゃん。
「なんでガキばっか」
ライアーがぼやくも、2人は私の両手をがっしり掴んで腕を組んで逃がさない様にしている。逃げられない。私の目はとても死んだ。ライアー、諦めてくれ。
そしてクロロスは恐らく事情を知っているだろうからかくかくしかじかで説明を誤魔化し、この4人でとりあえず庶民街の精霊不可侵領域を巡ることにしたのだった。
──完。
「おいリィン、現実逃避すんなよ」
庶民街の探索。
眼前で手を振るライアーの仕草でハッと覚醒する。
「いくら現実逃避しても現実は変わらねぇからな」
そうして目の前の巨大な建物を。
もとい、奴隷商を見た。
ダクアの奴隷商はもうちょっと慎ましい感じだった。目立たないようにひっそりと建っていて、シュランゲに教えて貰わなければ気付かなかった。まぁ教えて貰っても『あっここなんだ』って反応しちゃったけど。田舎だし景観を損ねない為だからなのかな、って。そういう文化が奴隷商の系列にあるのかなって。
ところがどっこいよっこいしょ。
あまりにも力を入れすぎて屁が出そうなほど違うじゃないか。
王都の奴隷商。刑務所です。
もう見るからに『危険物、入ってまっせ!』『ここに寄るならそれ相応の覚悟を』『自己責任だよ』みたいな感じの。なんだろな、このメルヘンでポカポカした日常に突然現れた殺しの気配、みたいな。幼児用絵本が一気にサスペンス。それくらい周辺から浮いてるし。お前が犯人。
「……いやだなぁ」
「いっそ一緒に逃げるか」
「南に?」
「南に」
というか渋々ながらもライアーが付き合っている事に違和感を抱く。これ、ダクアなら絶対『後はよろしく』って言いながら宿に戻ってたわ。
「早く行きましょう。やはりここ精霊が入れないようね」
「ま、冷静に考えりゃ奴隷にエルフが居てもどうにかなるように対策を取ってるんだろうな」
人間、魔法使えたら基本的に食いっぱぐれ無いしね。
冒険者とかのリスクが高い仕事についてない限り。
「奴隷くださーい」
クロロスが先陣切って入っていった。
引きづられながら嫌そうな顔をし、エリィの引く手に続く。
冒険もほどほどにしていて欲しい。
というかだけど、エリィは間違い無くお嬢様だし、クロロスも貴族だよね。
もう仕草で分かる。一回一回の所作が綺麗だしペインを見ろペインを。見るからに下町で育ちましたみたいな仕草じゃん。
「は、おいおい坊ちゃん達。ここはお前らみたいなキラキラした奴が来ていい所じゃねぇが」
長い廊下を抜けた先には清潔感のあるホールだった。貴族の使っている様な高いソファと机がいくつか感覚を開けて置いてあり、真ん中には受付。
パイプで煙をふかしていた男が愉快な幼稚園のお散歩を見てギョッとしていた。
「御機嫌よう。私たち人を探しているのよ。この国の第──」
スパンッ。
3人がそれぞれエリィを黙らせる為に動かした動作の音。
「おいこらエルフ」
「エリィ黙るすて」
「ちょっと黙ってような」
世間知らずもここまで来ると国宝級だよね。30年何を学んで生きてきたの? この奴隷庶民が敵ならどうすんの?
「──あらオーナー。その子たち、私の知り合いなの」
ワタワタと身内という名の伏兵に焦っていると、思わずハッとするような綺麗な音がその場に響いた。
「レイラ様」
奴隷商のオーナーが名を呼ぶ。
私は全身から水でも浴びたんかってくらい汗だくになった。
胃がキリキリ痛む。あいたたたたた。
「わぉ……ファルシュ令嬢」
黒い艶やかな髪と、黒い瞳。
貴族のドレスを身にまとって、世話係のメイドであるユニアを従えて綺麗な姿勢で私たちを見た。
レイラ・ファルシュ。
私の、双子の姉の方だ。双子の兄の方は部屋に篭っているのかもしれない。
「えっ、知り合い、なのですか?」
「えぇ。こんにちは、リィンのお友達かしら。あぁそれとライアー、リィンのコンビを組んでる方ね」
貴族らしいカーテシーをしたレイラ姉様がライアーを見つめる。
「私はレイラ・ファルシュ。そう強ばらないで、貴族と言ってもそんなに偉いってわけじゃないの」
ふわりと猫かぶって笑う姉様。
「……どの口が言うんだよ金の癖して」
貴族だろうという予想を立てているクロロスがボソッと小さく呟いたのをたまたま拾えた。
言葉に反して表情は嬉しそうだ。崇拝に近い色が見て取れる。
金、ってどういう意味だろう。
親が金髪だから? それとも一部の貴族のことを金と呼ぶの?
残念ながら庶民の私には分からない。聞けない。
「お、おいおいおいおいリィン。おい、おい!」
ガシッと必死の形相でライアーに肩を掴まれた。
「──貴族が知り合いとか聞いてないんだが!?」
……言ってないからね。
ライアー、貴方がギリギリと力込めながら掴んでる相手。貴族だよ。
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