最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!?〜

恋音

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戦争編〜第一章〜

第117話 被った猫はこう使う

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「あれ、見ない子だな。新しく来た子か?」

 トリアングロ王国の国境にある軍事基地──国境駐屯地。
 兵士達が戦支度を整え、始まった戦いの疲れを癒し、怪我を治し、そしてまた戦に出る為の施設。


 そこに天使と称されるウルトラスーパー美少女がいた。

「はい! 私、リィンって言うですっ! 言語苦手ですけど、許すして?」


 そう! 私だ!



 ==========


「──トリアングロに乗り込むったってどうするんだ?」
「それなのですよ」

 隣を歩くリックさんの言葉に魔法を維持しながら頷く。

「私たち全員トリアングロに詳しく無きです。だからといってトリアングロ出身勢を連れるリスクも取れぬですし」

 痛い思いしたからね。

「だからある程度情報と立ち位置ぞ作るしましょう。戦争開始直後が1番トリアングロに潜るが容易きぞ」
「えーっと、つまりどういうこと?」
「……今からトリアングロに乗り込み、トリアングロ王国の一般常識ぞ身に付けるです」
「おー! なるほど!」

 クアドラード王国で情報を集めてからでも良かったのだけど、夜が明けて戦争が本格的に開幕になると国家間の移動は完全に途絶えるだろうし、スパイ(別にスパイではないが)は警戒されやすい。

 今、油断している一瞬。
 トリアングロに潜り込んで情報を集めなければ。

 土地勘もない事だし、ライアーがどこにいるかも分からない。

「まず、私の言語は修正不可。よって、山奥育ちの世間知らずということにぞします」
「リィンの言葉って癖になるよな」
「私が世間知らずとして質問を重ねるして情報を集める故に、それを共有すて常識ぞ身に付けるしましょう」

 必殺、こんな奴がスパイとかあるわけが無い作戦。

 こちらの面子は『言語不自由の達人 リィン』に『能天気名前覚えない馬鹿 リック』に『ナチュラルバブエルフ エリィ』に『死霊使い グレン』だぞ。
 グレンさんはともかく、他の3人がまさかスパイ活動してるとは思わないじゃん。……泣いてない。

 クアドラード王国に潜入していた幹部を避ければいいだけだし、初見でバレることは無いだろう。

「あのさ、ところでなんだが」

 グレンさんがドン引きの表情で手を上げた。

「──今の状況、何」

 周りを見渡せば一面の水。上も右も左も水。
 具体的に言えば……海水。

 ウォーターボールをアレンジした魔法で海底を歩いています。
 具体的に言うとアレンジ水魔法〝バブル・ウォーターボール〟。多分そういう魔法はあるんだろうけど、水魔法はウォーターボールしか習ってないからアレンジしました。

 泡、と名のつくとおり。ウォーターボールの中に空気の空洞を作っている。

「だって、飛ぶしようと思うしたら魔法消えるしたです!」
「だからって海底を魔法でゴリ押しで進むやつがあるか!」
「こちらに! いるです!」

 初めは、箒で飛んでトリアングロ王国に突入しようと思ったんだけど、国境超えるくらいでブツっと断線するように魔法が途切れまして。
 その感覚には覚えがあった。
 クアドラード王国の王宮で、王都のカジノで。私の魔法を邪魔した魔導具と似ていた。

 まあ、それよりももっと力強くて苦しいくらい抑え込まれている感じだったけど。


 だから魔法が使える範囲の海で国境越えをしようってことだ。

「それにしても不思議ですのね」
「何が?」
「リィンさんのその瞳のこと。それ、見る限り魔法なのでしょう?」

 エリィが不思議そうな顔で私の顔を覗き込む。
 私の瞳は未だにペインの瞳の色のまま。

 つまりペインは私の視界を通して見ているってこと。ま、視界だけなんだけどね。

「多分ですけど、発動元が違うからでは無いでしょうか」
「発動元?」
「魔法の行使ぞ出来ぬ空間では、発動者が制限ぞ受けるのではと思うです」

 人間は体内にある魔力を使って魔法を行使する。
 魔法を維持するのにも魔力が必要だから、魔力を放出すること自体に制限が掛けられている様な形。

 この結界の外からは魔法を打ち込めるが、結界の中では魔法を使うことすら出来ない。これまでの結果から考えて大体こんな所だろう。

「ところでエリィ、ちゃんと分かるしてる? クアドラード出身って言うしちゃダメぞ?」
「もう! リィンさんまで私を赤子扱いですの!?」
「(赤子扱いされてる自覚はあったんだ……)」

 〝ナチュラルバブエルフ〟エリィの存在は普通に不安要素だなぁ。グレンさんに押し付けよう。

 海の中をてくてく歩きながら私はそんなことを考えた。


 ==========



 そんなこんなで国境の施設に潜り込むことに成功した私たち。
 と言っても、私もエリィも、月組コンビも繋がりを見せているわけじゃない。ライン切りライン切り。

「よいっしょ。みなしゃ、みなさーん! ご飯ぞ、出来ますたよぉ!」
「待ってました!」

 私は施設の雑用として派遣された女手の中に紛れ込んでいる。

「リィンちゃんって働き者よね。ちょっと世間知らずだけど」
「あははー。私、じいじと森の中で一緒に育つしたです。故に言語上手くねェです」

 雑用仲間のマリアがスープを注ぎながら言う。
 苦笑いを浮かべ、パンを兵士に渡して答えた。

「そりぇに。んッ、それに、じいじ、私の口調ぞおもしろきなのか、全然直すて、して、くれぬのですた」
「へぇ、なんとまぁ無責任な」
「本当のじいじじゃなきって言うしてましたけど。私にとってはじいじですから」

 捏造設定を周囲の兵士にも聞こえるように話す。渡す度にニコーッ! と無邪気な笑顔を浮かべれば好感度はうなぎ登りよ。

「そのじいじはどこに?」
「昔から家に帰らぬ人ですたけど、『しばらく仕事で空ける』って言うしてずッッッと帰るして無いです」

 寂しいなァ、っと小さく声を漏らせばポンポンと頭を撫でられた。

「多分じいじ、この戦争に関係するお仕事ぞしてると思うです。だから人の多いここでじいじ待ってようかなって」


 唯一の身内を健気に待つ美少女の完成である。

 ちなみにじいじの名前はウィズダム・シュランゲって言うんだよ! 長年クアドラード王国に潜伏していたシュランゲなら、世間知らずの養子をトリアングロで飼っていてもおかしくないだろう。

「リィンちゃんにそんな過去が……」
「そのじいさん、やっぱ戦争関係だろうな。要塞都市かはたまたクアドラードか」
「リィンのじいちゃんめっちゃ強かった?」
「暴漢一撃!」
「ありゃ、こいつは前線組かもな」

 ちやほやされている。宿屋で給仕していた経験がとても生かされている。
 とても、ちやほやされています!

 幼い頃にしか使えない手だけどさ。
 口調がこれだから実年齢より若く見られがちだけどさ。

 武器、使わないでなんになる。愛想良くするし愛嬌も振り撒くよ。

「リィンちゃん俺もー、パンちょーうだい!」
「おい冒険者は後だろ!」
「えー、でもリィンちゃんがいるうちにパン貰いたい」
「「「それは分かる」」」

 列に入り込んだ私服の白髪。まぁ、要するにリックさんが多分殆ど素で声をかけてきた。

「はい、冒険者さん! どーぞ!」
「ありがと! なぁ兄弟~、お前も早くパン貰えよ」
「バカ! バカリック! 本当にお前バカ! すいませんすいません。本当にすいません。手伝いの子もごめんな? こいつ、ほんとーーーーにバカで」

 リックさんを止める形でグレンさんが輪に加わる。

 リックさんとグレンさんは、普通の冒険者として潜り込んでいた。冒険者が戦争で戦うのかと言うと実はそうではなく。まぁこちらは肉体仕事の雑用って感じだ。

 同じ冒険者のメンバーとの交流もそこそこ深めていた最中だったんだろう。食堂の端の方で固まっている冒険者がアワアワと心配そうにこちらを見ている。

「なぁ兄弟、やっぱ兵士の人めっちゃ強そうだよな」
「お前もう黙ってろ……不安要素でしかない」

 天然おだて上手の発言に兵士はちょっと誇らしげにしているけど、グレンさんは今にも胃痛で死にそうだ。
 まとも枠大変だなあ。

「──だから、ルフェフィア様の場所を教えなさいと言ってるのよこのスカポンタン!」

 ツン、と丁寧さをかなぐり捨てたエルフの声が聞こえてきた。

「そうは言いますが、エルフ族の居場所は我々にもわからず」
「使えないわね!」

 私は不思議そうな顔で兵士を見た。

「あれは何です?」
「なんか、迷子のエルフらしい。ルフェフィアってエルフを探してるんだと」
「エルフ、初めて見るしますた」
「エルフ族は無下にも扱えないし……。エルフの頭文字がルだから国内にはいるんだろうけど。人嫌いのエルフの場所を人間が知ってるわけないだろ……」

 エリィはもう心配すぎて演技させなかった。ただ推しを追い求めるアグレッシブなオタクになってもらいます。
 バブでオタクでエルフ。簡単な情報なのにキャラが濃い。残念ながら素です。

「エルフ、人嫌い?」
「そーそー。エルフは人前に姿を現さないからさ」
「ほェ……兵士さん詳しきですね。凄い!」

 国が違えば認識も違うんだな。
 エルフが人嫌いとか、リリーフィアさんやエティフォールさんを見てると信じられない。

「ねぇ、兵士さん達! リーに、いっぱい教えて?」

 視界の端で頭抱えたグレンさんがいた気がするけど多分気のせいです。


 ルナールの所まで辿り着いてぶん殴れ潜入調査、開始!
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