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戦争編〜第三章〜
第164話 性別の概念は紙製
しおりを挟むトリアングロ王国の砦。
国境基地よりやや後方に存在する石造りの建造物。
戦争は慌ただしく場面を変える。トリアングロ連合軍は前衛部隊が撤退し、防衛に切り替えた。
国の要でもある防衛ラインを守備する担当者は陸軍幹部、牛の名を持つ男、カマー・ヴァッカである。
彼(女)の担当した砦は過去、あのローク・ファルシュを持ってしても破られなかった。
魔法の使えない国、トリアングロではクアドラードの者達は弱体化するも同然。魔法の使えないローク・ファルシュは彼(仮)の砦は破れない。
だと言うのに。
「はぁぁん!? ぬぁぁあんですってぇ!?」
男(推定)は声を荒らげた。
そう、この砦の将である。
「──あの隕石、ローク・ファルシュがやったっていうのぉん!?」
驚きは、報告と共に。
クアドラードに潜伏中のアーベント・グーフォが秘密裏に寄越した暗号。そこに書かれていたのは簡潔で分かりやすく最悪な内容だった。
『ローク何故か隕石魔法使った』
原因も分からない、理由も分からない、使えないはずなのに使えた、ロークが目覚めた、魔法の脅威はある、落ち着いて情報を出す余裕もない、魔法は隕石の魔法である。後ついでにめちゃくちゃ焦っている。
そんな内容が詰め込まれていそうな暗号。
彼らの驚きもそのはず。
「今すぐク……鯉ちゃんに連絡しなさい!」
ローク・ファルシュは魔封じの弾丸によって魔法を封じられている、はずだ。
魔封じは強力で、通常の弾丸の中に魔封じの術式を刻んだ魔石を込めている。打ち込まれた張本人は当然ながら、周囲1mの魔法ですら封じ込められるのだ。
……だと言うのに、何故。
魔封じ。それはトリアングロ王国を包み込む心臓、魔法妨害魔導具……──魔石抑圧魔導具と同じ効果である。
いくら小さくともそんな魔封じの圧力に耐えれる魔法職はいない。どうにかしようとしたって、その前提を覆すからだ。
「……いったい、どういうことなの……?」
打たれた部分を切り落とした? いや、それならグーフォが即座に見破るだろう。
理由が分からないということは、クアドラードの文化。魔法が解決策の可能性が高いという事だ。
「…………考えても、全く微塵も分かりゃしないわねん」
ヴァッカはとりあえず思考放棄することに決めた。頭を使うのは陸軍の役目だけど、自分はそっち方面で考えるタイプじゃないのだ。
「さぁ、行くわよん。アタシのカワイイ精鋭達!」
「「「「「「はい!」」」」」」
同じ人類とは思えない存在だからロークが破れなかった説は……とりあえずそこら辺の井戸端に置いておこう。
==========
「……ぇ」
夜が明ける寸前、水色の髪をハーフツインで結んだ人がキョトンとした顔で焚き火を覗いた。
おはようございます、私です。事件です。
パーティーメンバーに気配が分からないことがバレそうです。
「…………誰?」
その人は高い声で首を傾げながら私とカナエを見下ろしている。
誰、って言いたいのはこちらのセリフだけど、さぁ。
突然の訪問者。
改めて姿を観察しよう。その人はブーツを履き、ヒラヒラとしたスカートも履いている。真っ赤な目。濃い赤がキョロキョロと私を観察する。外ハネの鮮やかな水色の髪は、被っている帽子の邪魔にならない程度の高さでハーフツインに結ばれており、髪の長さは腰辺りまで。
可愛いタイプの人だ、と第一印象では抱く。
でも、だ。
その人物が着ていた上の服は黒かった。そう、にっくき幹部共と同じ軍服を着ていたのである。
「…………かっ」
カナエさんがその姿を見て、悲鳴に近い声を上げた。
「可愛い~~~~~~~っ!?? えっ、やばば、可愛い、お顔ちっちゃい、すごい、可愛い、まつ毛長っ、造形が神がかってる、あわぁ、可愛い、アイドルみたい」
そう、オタク的な悲鳴を。
ガックリ肩を落とした。
「えっ、えへへ、そう?」
「可愛い……え、握手してもらってもいい?」
「うん、もちろんだよっ。アナタ、とっても面白い人だね!」
わざわざご丁寧にウインクをしながらファンサをするアイドル。
いや~、うそくっせぇ~! カナエさんはキャーキャー騒いでるし。
「それで、こんなヘンピなトコロに、どうして小綺麗な格好した人がいるの? あ、ワタシはミア。見て分かるけど、軍人だよ!」
……シンミアですよね、これ。間違い無く。事前の特徴とも一致するし、偽名が偽名だし。というか名前の一部を切り取って騙るだなんて芸が無いな。ウンウン。
「エット……」
カナエさんは助けを求める様に私に視線を向けた。
「私はリー! ミアさん、よろしくです!」
「うん、リーちゃんね、よろしく! 女の子っぽい名前ね!」
「女の子ですぅ!」
「あはは、分かってるって」
握手を求めると快くそれに応じてくれた。
……がしりと握りしめる手。リックさん達と比べて柔らかで小さな手だけど、その骨格には私の疑惑を確信に近付けた。
こいつ、男だ……っ!
なんだろうな、人の顔を見分けるのは苦手だけど性別だけは百発百中っていうか……。おかしいな、認識バグ。異世界転生させた堕天使もびっくりだよ。
「ミアさん、お話、する、です?」
カタコトというほどでは無いけど、疑問に思われない程度に呼び寄せる。
するとシンミア(九割確信)は人に好かれそうな愛想が良くて愛嬌を振りまくる。その調子のまま私の向かい側に座った。
「えっと、リーちゃんどうするの?」
不思議そうな顔をしてカナエさんが私を見た。
「ミアさん」
私は黒髪のカツラを取り外して、金髪を惜しむことなく見せた。
「金髪……」
「交渉ぞ、しましょう。幹部、シンミア」
私の言葉にシンミアはスっと目を細めた。しかし1秒も満たない間に、表情を戻した。
「……聞いてるよ、金髪の女の子がワタシ達の国にやってきたって。とっても、大変だったでしょう。ガサツでそぼーなワタシ達の国っ!」
恐らく、テントの中では他の4人が待機していることだろう。交代の時間はとっくに過ぎた。日が登っている。
それでも出てこないのはきっとエリアさんの指示だ。手の内を、特に情報が伝わってないエリアさんのことを漏らす必要は無いから。
「はいっ、大変ですた。もう、とっても疲れるです!」
「でしょでしょ~? ふふふ、アタシ達、気が合うのね!」
「偶然、私もそう思うすてた、ですっ!」
キャッキャウフフと互いに笑い合う。
視界の端でカナエさんがお布施をしようとしているのは気のせいだろう。
朗らかとも言える幹部との空気だ。
……だが、限界を迎えたのは私ではなくあちらの方が早かったみたい。
「──あっ、無理。限界」
まるでバイ菌を触りました、と言いたげに。シンミアは手を服で拭った。
「あ~ぁ、ばっちぃ。薄汚くって、下品で醜い魔法の気配がする」
先程の様子とは一転させ、こちらを睨みつける様な視線。可愛さとは縁遠い表情だ。
「……で? 俺、そんな暇じゃないし、お前らみたいな魔法使う存在と少しでも一緒の場所に居たくないんだけどぉ?」
足を組み、不機嫌そうに問いかけている。
「はっ、やはり演技ぞしてますたか。演技、丸分かりです。荒ぞ目立つすてます。へったくそ」
私はそれに対抗するように腕を組んだ。鼻で笑って、同じ土俵に下る。
「性別どころか滲み出る性格すら隠せぬズブの素人に理性的な会話ぞ可能かと思えぬですけどねぇ……」
「は? 自分の言語見直してから物言えよ」
「所でシンミア、聞きたいことぞあるですが」
「誰がお前なんかに名前で呼ぶことを許した? 様を付けろよ魔法愚族」
イラッと腹の中に何かが溜まって行く。
人を小馬鹿にする笑顔って性格の悪さの塊だと思うんだよね。
もうね、初めて見た瞬間から性格悪そうって思ったしニセモノ臭い笑顔だなとも思った。性悪ってこいつのためにある言葉だと思う。
心の中のイマジナリーツッコミポジションがなんかツッコミ入れようとウゴウゴ言ってる気がするけど気のせいだろう。
「はぁ、様ぞ付けるは貴様の方でしょう?」
私が首を傾げながら。
するとしばらく固まっていたカナエさんがようやく復活したのか口を開いた。
「──2人共詐欺師してそう」
「「コイツはね! ……真似するな(ぞ)!」」
女装趣味なのかオカマなのかゲイなのかなんかこう、リーベさんみたいな性別の圧をかけるキャラはもうお腹いっぱいなんだよ!(本音)
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