15 / 34
15.「見た目しかよくないんです。」
しおりを挟む重苦しい空気が漂うバーデン邸では、未だ仲良し家族ごっこが行われていた。
アイブリンガー邸に押し入り王都警備隊に突き出されたフーゴは、親であるバーデン侯爵がすぐに保釈金を払い家に連れ戻した。
そこで説教なりなんなりをすればまだ救いようはあったのだが、彼らは息子可愛さに、罪をすべてシュテファニに擦り付けて考えていた。
「あの女、いったいどういうつもりなんだ。」
「そうよ。婚約者であるフーゴをこんな目にあわせるなんて!」
「怖かったよ……!」
「しかも婚約が破棄され慰謝料だなどと!」
親子はシュテファニに対して怒りを募らせていた。
こんな事件があったのだから婚約破棄は当然だと思うが、バーデン侯爵家の人たちはなかなかにくせ者のようだった。
しかし、そんな中でもまともに育った人間もいる。それが次期侯爵の長男、ヴィム・バーデンである。
「父上、いい加減にしてください。婚約破棄も慰謝料も当たり前です。フーゴは、自分がどれだけの事をしたのか理解していないのか?」
「兄上、俺はただ求められるがままにシュテファニと関係を持とうとしただけです!」
「馬鹿な……。求められていないからこうなったんだろう!」
「ヴィム、そんなわけないのよ。フーゴが女性に拒絶されるはず、ないでしょう?」
「現実を見てください母上。見た目はいいが、見た目しかよくないんです。一年暮らしてみてアイブリンガー侯爵もそれに気づいているばずです。」
「まあ! あなた弟が可愛くないの?!」
「ヨルダンは可愛いです。出来た弟です。しかしフーゴは! ただの寄生虫ですよ! そもそもきちんと教育できていないんだから家から出すべきではなかった!」
「言い過ぎだぞヴィム!」
「父上も現実を見てください! 今回のことで、我がバーデン家の威信は地に落ちた! ここから、盛り返さないといけないんです。その為にはフーゴにはきちんと償わせるべきだ!」
「つ、償うって……大袈裟ですよ兄上。」
「大袈裟ではない。お前がいる限り我が家は再興できない。」
「そ、そんなことないだろう。」
「そんなことあるんですよ父上。相手はアイブリンガー侯爵です。侯爵が主だって行っている鉄道事業は国を上げての大事業です。そこでの評判もいいですし、領地に関しては非の打ち所もないと言われるくらいいい領主だ。
今後、このままだと、アイブリンガー侯爵と付き合いのある者たちは我が家とは手を切ってくるでしょう。向こうの領民にも知れているだろうから、あの辺りをバーデン家が運営する商会が通ることは難しくなります。どうするんです? それだけでも大損害ですよ!!」
必死に訴えかけるヴィムの言葉に、やっと事の重大さに気づいたバーデン侯爵は青ざめた。夫人はまだわかっていないのか、フーゴを責めるヴィムを叱咤していたが、フラフラと椅子まで歩き、魂が抜けたように座る夫を見て、言葉を失った。
「あ、あなた……、そんな……、フーゴは! わっ、我が家は大丈夫なんですわよね?!」
「ああ……。もう、そうなったら、おしまいだな……。私が、間違って、いたのか? 」
「そ、そんなっ……!」
この日、バーデン侯爵家を、絶望が襲った。
20
あなたにおすすめの小説
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる