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第五話 リノ・カートナーとは 弐
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「あなたがいい」
「え、俺?」
「そう」
「あー、はい。じゃあお願いします」
初対面で、お嬢さまは俺を気に入ってくれたらしく、めでたく給料三倍の護衛騎士に任命された。
それからというもの、メルセデュース夫人が亡くなるまでは平和だった。お嬢さまと庭で蝶々を追っかけたり、池に落ちそうになったお嬢さまを助けるため一歩踏み入れたら池じゃなくて底なし沼であやうく顔まで沈みきるろころをエーレンデュース様(次男)が呼んできた執事ヴァルデマールさんに助けられたり、旅行についていったら使用人のお土産が半端なくて馬車に乗れず走って帰らされたりしたけど、平和だった。
夫人が亡くなり、邸の太陽が影ってからしばらくしたとき、やたら化粧の濃いパニラって女とその娘のピオミルを連れてご主人様が帰ってきた。もう後妻?とお嬢さまも含め邸の皆で首を傾げたが、そういうことでもないらしく、結局こいつらなんなんだ?と聞きたくても絶えず戦場へ飛びこんでいくご主人様に聞くことはできず……。謎の二人は、今に至るまでずっと客扱いだ。
しかし、いつからだったか、ピオミルがお嬢さまのことを「お姉様」と呼び出した。
その時も、侯爵家の内政を行っている家令のリグリードさんに聞いたが、パニラとピオミルが侯爵家に籍を入れたという事実はなかったので、皆で首を傾げた。お嬢さまは「お姉様と呼ぶのはやめなさい」と何度も注意していた。
そうしてしばらく経ったある日、ピオミルがいきなりお嬢さまに向かって火を飛ばしてきた。元々剣の腕を買われて護衛についたのだが、いや顔だったか? そういやお嬢さまに採用の理由を聞いたことがないな。まあいい、それは置いておいて、ここにきてから皆が面白がっていろいろと仕込んでくれた甲斐あって、元々使えた生活魔法はパワーアップし、隠密や暗殺術なんてのも身に着けた。ここの使用人は曲者揃いだ。なので、自分より魔力の弱い者の魔法を無効化するくらいわけなかった。飛んできた火はパチンと指を鳴らして消してやった。
俺は、護衛対象が傷つけられるのを防ぐためにいる護衛騎士だ。当然、このことは問題になると思いきや、お嬢さまがそのままでいいと言うのでそれに従った。
その後も、切り裂かれたドレスは回復魔法で直し「布にも効くのね」と感心され、階段の上から落ちそうなお嬢さまに時空魔法を飛ばし落ちる前の状態に戻したり、お花摘みからなかなか戻らないお嬢さまをサーチして燃える小屋にいることに気づいて瞬間移動し連れ戻った。いくらなんでも堪忍袋の緒が切れね?と思ったが、お嬢さまはこのままでいいと言うので従った。
あいつ、ピオミルは、俺のブラックリストの最上段に名前を載せている。
それなのに、お嬢さまに手を出しておきながら、私の護衛にしてあげる!だとか言われたことがあったな。いったい何を考えているのか、さっぱりわからない。騎士団の給料三倍で雇われている俺に払える金があるわけないし、まったく魅力もなにもあったもんじゃない子供の色仕掛けが効くわけないだろう。
後ろ盾も何もないただの居候なんていつだって簡単に●れるんだが、被害に遭っている当の本人が放っておいているので、俺もとにかく平静を装っている。
学園卒業に向けてまたなんか企んでいるようだが、今度は一体何してくれんだ?
お嬢さまを傷つけるやつは俺が許さない。
あいつもそうだ。
お嬢さまが13歳のときに婚約したこの国の第二王子。
そのときは、初対面だってのに二人きりになった途端体に触れようとしていた。王子だろう? どんな教育を受けてんだ? 貧乏男爵家の俺だって、ご令嬢への対応はもっとちゃんとしている。
ナイフを投げたのは、暗器使いの執事ヴァルデマールさんだったか。いやいや執事が客を攻撃しちゃまずいでしょ、と思って俺も慌てて懐に仕込んでいた暗器を投げて軌道をそらした。ちょっと掠っていたが、それもいい思い出だ。
10年過ごすうちに、単なる護衛騎士だったのに、俺は私的な感情でお嬢さまに接するようになっていた。彼女と過ごす時間は楽しい。
お嬢さまには幸せでいてほしい。
悲しまないで。笑っていてほしい。
そのために必要なことがあれば、なんでもしてやる。
俺が幸せにする?
それはない。
俺が自分の手で幸せにするのは、恋人であるアーシャだけだ。
お嬢さまはそう、妹? みたいなもんだ。
いや、本物の兄が二人もいるし…………なんだ、アレだ、近所の幼馴染みたいな? いや、年も10離れているけどな。
気の置けない友達、ってことにしよう。
……雇い主だけどな。
「え、俺?」
「そう」
「あー、はい。じゃあお願いします」
初対面で、お嬢さまは俺を気に入ってくれたらしく、めでたく給料三倍の護衛騎士に任命された。
それからというもの、メルセデュース夫人が亡くなるまでは平和だった。お嬢さまと庭で蝶々を追っかけたり、池に落ちそうになったお嬢さまを助けるため一歩踏み入れたら池じゃなくて底なし沼であやうく顔まで沈みきるろころをエーレンデュース様(次男)が呼んできた執事ヴァルデマールさんに助けられたり、旅行についていったら使用人のお土産が半端なくて馬車に乗れず走って帰らされたりしたけど、平和だった。
夫人が亡くなり、邸の太陽が影ってからしばらくしたとき、やたら化粧の濃いパニラって女とその娘のピオミルを連れてご主人様が帰ってきた。もう後妻?とお嬢さまも含め邸の皆で首を傾げたが、そういうことでもないらしく、結局こいつらなんなんだ?と聞きたくても絶えず戦場へ飛びこんでいくご主人様に聞くことはできず……。謎の二人は、今に至るまでずっと客扱いだ。
しかし、いつからだったか、ピオミルがお嬢さまのことを「お姉様」と呼び出した。
その時も、侯爵家の内政を行っている家令のリグリードさんに聞いたが、パニラとピオミルが侯爵家に籍を入れたという事実はなかったので、皆で首を傾げた。お嬢さまは「お姉様と呼ぶのはやめなさい」と何度も注意していた。
そうしてしばらく経ったある日、ピオミルがいきなりお嬢さまに向かって火を飛ばしてきた。元々剣の腕を買われて護衛についたのだが、いや顔だったか? そういやお嬢さまに採用の理由を聞いたことがないな。まあいい、それは置いておいて、ここにきてから皆が面白がっていろいろと仕込んでくれた甲斐あって、元々使えた生活魔法はパワーアップし、隠密や暗殺術なんてのも身に着けた。ここの使用人は曲者揃いだ。なので、自分より魔力の弱い者の魔法を無効化するくらいわけなかった。飛んできた火はパチンと指を鳴らして消してやった。
俺は、護衛対象が傷つけられるのを防ぐためにいる護衛騎士だ。当然、このことは問題になると思いきや、お嬢さまがそのままでいいと言うのでそれに従った。
その後も、切り裂かれたドレスは回復魔法で直し「布にも効くのね」と感心され、階段の上から落ちそうなお嬢さまに時空魔法を飛ばし落ちる前の状態に戻したり、お花摘みからなかなか戻らないお嬢さまをサーチして燃える小屋にいることに気づいて瞬間移動し連れ戻った。いくらなんでも堪忍袋の緒が切れね?と思ったが、お嬢さまはこのままでいいと言うので従った。
あいつ、ピオミルは、俺のブラックリストの最上段に名前を載せている。
それなのに、お嬢さまに手を出しておきながら、私の護衛にしてあげる!だとか言われたことがあったな。いったい何を考えているのか、さっぱりわからない。騎士団の給料三倍で雇われている俺に払える金があるわけないし、まったく魅力もなにもあったもんじゃない子供の色仕掛けが効くわけないだろう。
後ろ盾も何もないただの居候なんていつだって簡単に●れるんだが、被害に遭っている当の本人が放っておいているので、俺もとにかく平静を装っている。
学園卒業に向けてまたなんか企んでいるようだが、今度は一体何してくれんだ?
お嬢さまを傷つけるやつは俺が許さない。
あいつもそうだ。
お嬢さまが13歳のときに婚約したこの国の第二王子。
そのときは、初対面だってのに二人きりになった途端体に触れようとしていた。王子だろう? どんな教育を受けてんだ? 貧乏男爵家の俺だって、ご令嬢への対応はもっとちゃんとしている。
ナイフを投げたのは、暗器使いの執事ヴァルデマールさんだったか。いやいや執事が客を攻撃しちゃまずいでしょ、と思って俺も慌てて懐に仕込んでいた暗器を投げて軌道をそらした。ちょっと掠っていたが、それもいい思い出だ。
10年過ごすうちに、単なる護衛騎士だったのに、俺は私的な感情でお嬢さまに接するようになっていた。彼女と過ごす時間は楽しい。
お嬢さまには幸せでいてほしい。
悲しまないで。笑っていてほしい。
そのために必要なことがあれば、なんでもしてやる。
俺が幸せにする?
それはない。
俺が自分の手で幸せにするのは、恋人であるアーシャだけだ。
お嬢さまはそう、妹? みたいなもんだ。
いや、本物の兄が二人もいるし…………なんだ、アレだ、近所の幼馴染みたいな? いや、年も10離れているけどな。
気の置けない友達、ってことにしよう。
……雇い主だけどな。
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