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第十四話 マゴールパティシエのスイーツ
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「マゴールパティシエ!」
「ええ、マゴールよ。ごきげんようご令嬢」
「あっ、あのっ、わたくし、エリシャ・エストルムと申します者でありますでして、あのっ、マゴールパティシエの、だ、だだだいファンでっ!」
「あ、あら、ありがとう。エリシャさん? あー……前にお手紙くれた方かしら」
「そっそそそそそうです! 五年くらい前に、王族の婚約者になったのは不本意だったのですが、そのお陰で出席できた王宮の晩餐会でマゴールパティシエがおつくりになられたレーヌ・ドゥ・サヴァというあのチョコレートケーキを食べて感動いたしました! もともとアーモンドが好きなのもあるのですが、あのチョコレートの中にアーモンドやナッツがふんだんに使われていて、バターのコクが……チョコが、しっとり濃厚で、とにかく――」
「おおお落ち着いてちょうだい! ええ、ええ、ありがとう、伝わっているから。いつもケーキの感想、ちゃんと読ませていただいてるわ」
「まあまあまあ! なんてことでしょう!」
「エリシャ、落ち着け」
「ああ殿下、聞いてくださいマゴールパティシエが」
「聞いていた、大丈夫だ。落ち着け」
「ああ、ああわたくしの思いが……」
「ほら、ひと口食べて」
「マッ、マカロンッ、むぐ……」
殿下、それは淑女にしていいことではありません。お菓子を口につっこむだなんて……まあ今のわたくしは淑女らしからぬ行動をとってしまいましたから仕方ありませんけれど……美味しいですわ。
「連れが失礼した」
「いいええ。あら、王弟殿下のお連れなのね。エリシャさんにはいつもごひいきにしていただいていますのよ」
「ああ。今回もあなたのケーキが食べられるからと参加しているのだ」
「嬉しいわ。パティシエ冥利に尽きるわね」
「ちょ、っと!!」
「ん? 何かしら、この……あら、すごいドレスね、誰の趣味?」
わたくしはマカロンを咀嚼するのに忙しいので口を挟みませんが、おそらく無視されていると思ったピオミルさんが、マゴールパティシエとグイスト殿下の間に割って入ります。マゴールパティシエは、ピオミルさんが着ているどピンクでフリルとレースがふんだんにあしらわれたドレスをまじまじと見て言いました。
「あ、あら? わかる? これ、素敵でしょ? ギース様が贈ってくれたのっ」
「ええ、そう……王子殿下がねぇ。いいご趣味だわ」
「そうよねそうよね! ……っていうか、あなた女? ……お、おとこ??」
『いいご趣味』をそのまま受け取ったピオミルさんは、頬を赤らめて喜んでいます。
しかし、マゴールパティシエに向かって性別を問うだなんて、呆れてしまいますわ。マゴールパティシエはマゴールパティシエであって、男だろうが女だろうがマゴールパティシエなのに。まあわたくしもたまに「?」と思うことはありますが、口には出しません。
「まあぁ! 私が男に見えるっていうの? この礼儀のなっていない小娘は」
「えっ、ど、どうかしら」
「小娘? 今ピオミルに向かって小娘と言ったか? 私の愛する人に向かって! 不敬だぞ!」
「……落ち着けギース」
「叔父上! こんな男女――」
「このような席で騒ぎ立てるな。見苦しいぞ」
「っ!」
グイスト殿下の一喝で、お花畑王子は黙りました。ちなみにわたくしの口には2つ目のマカロンが詰め込まれています。あっ、どうせならそのプティフールの……。
「この場にそぐわない振る舞いをするようなら、退場してもらおう」
「退場って……、王弟殿下! 私ですよ、ピオミル・エストルムですっ」
「「「(ざわざわ……)」」」
何度言っても聞かないピオミルさんは、わたくしをお姉様と呼び、自分でエストルム姓を名乗る。この場に居らっしゃる噂好きの方々のいいネタですわ。はっきり自分の耳で聞いたご婦人たちは、「ついにポジウム侯が後妻を娶った」と方々で話題にすることでしょう。困りましたわ。
「君はエストルム家のただの居候だろう。エストルム姓を勝手に名乗るな。平民が貴族を名乗ったとあっては身分詐称で投獄されるぞ」
「え?」
「皆もいいな。今聞いたことは虚言である。口外しないように。もし噂でも立とうものなら、出所を徹底的に洗い、お喋り雀は二度と飛べなくなるだろう」
まあ怖い。
しかしグイスト殿下がきっぱり否定してくださったので、刑罰を恐れ、皆さん口を噤むことでしょう。
わたくしの口には3つ目のマカロンが入れられようとしていますが、指でマンゴーとパッションフルーツのクロカンを差すと殿下はそれを取ってわたくしの口に……やっぱり詰められますのね。
「ん? 美味いか?」
「(むぐむぐ……)」
「ええ、マゴールよ。ごきげんようご令嬢」
「あっ、あのっ、わたくし、エリシャ・エストルムと申します者でありますでして、あのっ、マゴールパティシエの、だ、だだだいファンでっ!」
「あ、あら、ありがとう。エリシャさん? あー……前にお手紙くれた方かしら」
「そっそそそそそうです! 五年くらい前に、王族の婚約者になったのは不本意だったのですが、そのお陰で出席できた王宮の晩餐会でマゴールパティシエがおつくりになられたレーヌ・ドゥ・サヴァというあのチョコレートケーキを食べて感動いたしました! もともとアーモンドが好きなのもあるのですが、あのチョコレートの中にアーモンドやナッツがふんだんに使われていて、バターのコクが……チョコが、しっとり濃厚で、とにかく――」
「おおお落ち着いてちょうだい! ええ、ええ、ありがとう、伝わっているから。いつもケーキの感想、ちゃんと読ませていただいてるわ」
「まあまあまあ! なんてことでしょう!」
「エリシャ、落ち着け」
「ああ殿下、聞いてくださいマゴールパティシエが」
「聞いていた、大丈夫だ。落ち着け」
「ああ、ああわたくしの思いが……」
「ほら、ひと口食べて」
「マッ、マカロンッ、むぐ……」
殿下、それは淑女にしていいことではありません。お菓子を口につっこむだなんて……まあ今のわたくしは淑女らしからぬ行動をとってしまいましたから仕方ありませんけれど……美味しいですわ。
「連れが失礼した」
「いいええ。あら、王弟殿下のお連れなのね。エリシャさんにはいつもごひいきにしていただいていますのよ」
「ああ。今回もあなたのケーキが食べられるからと参加しているのだ」
「嬉しいわ。パティシエ冥利に尽きるわね」
「ちょ、っと!!」
「ん? 何かしら、この……あら、すごいドレスね、誰の趣味?」
わたくしはマカロンを咀嚼するのに忙しいので口を挟みませんが、おそらく無視されていると思ったピオミルさんが、マゴールパティシエとグイスト殿下の間に割って入ります。マゴールパティシエは、ピオミルさんが着ているどピンクでフリルとレースがふんだんにあしらわれたドレスをまじまじと見て言いました。
「あ、あら? わかる? これ、素敵でしょ? ギース様が贈ってくれたのっ」
「ええ、そう……王子殿下がねぇ。いいご趣味だわ」
「そうよねそうよね! ……っていうか、あなた女? ……お、おとこ??」
『いいご趣味』をそのまま受け取ったピオミルさんは、頬を赤らめて喜んでいます。
しかし、マゴールパティシエに向かって性別を問うだなんて、呆れてしまいますわ。マゴールパティシエはマゴールパティシエであって、男だろうが女だろうがマゴールパティシエなのに。まあわたくしもたまに「?」と思うことはありますが、口には出しません。
「まあぁ! 私が男に見えるっていうの? この礼儀のなっていない小娘は」
「えっ、ど、どうかしら」
「小娘? 今ピオミルに向かって小娘と言ったか? 私の愛する人に向かって! 不敬だぞ!」
「……落ち着けギース」
「叔父上! こんな男女――」
「このような席で騒ぎ立てるな。見苦しいぞ」
「っ!」
グイスト殿下の一喝で、お花畑王子は黙りました。ちなみにわたくしの口には2つ目のマカロンが詰め込まれています。あっ、どうせならそのプティフールの……。
「この場にそぐわない振る舞いをするようなら、退場してもらおう」
「退場って……、王弟殿下! 私ですよ、ピオミル・エストルムですっ」
「「「(ざわざわ……)」」」
何度言っても聞かないピオミルさんは、わたくしをお姉様と呼び、自分でエストルム姓を名乗る。この場に居らっしゃる噂好きの方々のいいネタですわ。はっきり自分の耳で聞いたご婦人たちは、「ついにポジウム侯が後妻を娶った」と方々で話題にすることでしょう。困りましたわ。
「君はエストルム家のただの居候だろう。エストルム姓を勝手に名乗るな。平民が貴族を名乗ったとあっては身分詐称で投獄されるぞ」
「え?」
「皆もいいな。今聞いたことは虚言である。口外しないように。もし噂でも立とうものなら、出所を徹底的に洗い、お喋り雀は二度と飛べなくなるだろう」
まあ怖い。
しかしグイスト殿下がきっぱり否定してくださったので、刑罰を恐れ、皆さん口を噤むことでしょう。
わたくしの口には3つ目のマカロンが入れられようとしていますが、指でマンゴーとパッションフルーツのクロカンを差すと殿下はそれを取ってわたくしの口に……やっぱり詰められますのね。
「ん? 美味いか?」
「(むぐむぐ……)」
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