【第二章完結!】妹?義妹ですらありませんけど?~王子様とは婚約破棄して世界中の美味しいものが食べたいですわ~

井上 佳

文字の大きさ
79 / 101
第二章 外国漫遊記

第四十一話 ザル島③ 衝撃の事実

しおりを挟む
すごい話を聞いてしまいました。

これがほんとうだとしたら、国が、王家が、揺らぎます。


鉄仮面さんのお話では、自分はフィレンセの現王、つまりアントワネット様たちのお父様の、父親違いの兄だというのです。





◇◇◇◇◇

フィレンセの前王ブノアは、子ができにくいと診断されていた。そこでブノアは、信頼できる相手、エタン・カヴォア卿を代理父として選び、王妃アリアンに子を産ませた。

それが、フィレンセの現王プロスペール(60歳)。

ガヴォア卿は伯爵家当主だが、彼の祖母が王家に連なるものだったので、血筋的には薄くても王たる資格はあった。たとえば継承権順位でいうならば、だいぶ下のほうにはなるが。そのためもあってか、この件は隠匿されてきた。


鉄仮面改めヴァランタン・ガヴォアは、エタン・ガヴォア卿の実の息子、ガヴォア伯爵家の次男だった。

ヴァランタンは、母違いとはいえ現王とそっくりに育っていた。

そのせいで、30年ほど前、即位を前にしてことが公になるのを恐れたプロスペールは、ヴァランタンに鉄仮面をかぶせてザル島に幽閉してしまった。

当時、この島に冒険者がくることはまだ珍しかったが、ヴァランタンはやってくる冒険者との接近を禁じられた。

魔物がうようよいるザル島で、この建物だけは安全だと言われた。
そもそも普通に生活していた伯爵家の令息が、実戦で得物もなく戦えるわけなかったので、ヴァランタンは自ら監獄を出ることはしなかった。

囚われている人物が誰か知らされないままに、囚人の世話をする人間は遣わされていた。
ヴァランタンは、このことについて洩らしたらすぐに処刑すると言われていたから余計なことを話さなかったし、世話人も事情を聴くような真似をしたら縛り首だと言われていたので余計なことは聞かなかった。

そうしてしばらくヴァランタンは、囚われたままだが食事や入用の物を運んでもらってわりと快適に過ごしていた。


しかしある日、世話人が来なくなった。

三週間に一度は顔を出していたのだが、数か月経っても、誰も来なかった。
備蓄していた食料やワインで食いつないでいたが、さすがに限界がやってきた。

この建物からの出入りは自由だった。

魔物と戦えるような武器はなく、外に出ればすぐに死ぬと思われていたことから鍵もかかっていない。
しかし、出ざるを得ない状況になり、ヴァランタンは恐る恐る地上への階段を上り外へ出た。
ここには、見つからないよう認識阻害の魔道具が置かれていると世話人から聞いていたので、扉のすぐ脇にある魔道具の起動を止めてから、ヴァランタンは辺りを見回した。魔物はいなかった。

すぐにどうこうなるわけではないと悟ったヴァランタンは、迷わないようにしるしをつけながら一方向に向かって歩いた。そして運よく川を見つけ、水問題は解決した。食糧問題は、実はガヴォア家にいたとき趣味でキノコ栽培をしていた過去があったので、食用キノコの見分けがつき、こちらもなんとか解決した。それらは、今では建物内のひと部屋で栽培している。

◇◇◇◇◇





「まあ、キノコを?」

「ああ。好きだったんだ」

「すてきなご趣味ですわ」


お茶をいただきながら、ヴァランタンさんのお話を聞いていました。
キノコ栽培が趣味だなんて、気が合いそうですわ。先ほど鍵がかかっていた部屋がそうなのかしら。建物の入り口には認識阻害の魔道具があるとはいえ鍵をしていないのに、よほど大切なのでしょうね。


「てか全部話してくれんだ」

「衝撃の事実が出てきたものだな」

「グイストさん真顔だけどねー」

「あまり顔には出ないほうなんだ」

「そうなんだー」


そう、この話が明るみに出たら、大変なことになります。

フィレンセの現王は王家の血が薄いということ。

フィレンセの現王は保身のために、伯爵家の人間を死んでもおかしくないような魔物だらけの島に監禁したこと。


王位はく奪になるような衝撃の事実です。

しかしそうなると、大切なお友達にも関係してきますから、私としては聞かなかったことにしたい気持ちでいっぱいです。
アントワネット様とベジックさん。現王の子とは仲良くなったので、おふたりの血筋まで関係してくるようなお話は、お口チャックで聞かザルです。


「ヴァランタンさんは、恨んでいらっしゃるの?」

「王を? 国を、か?」

「ええ」

「いや……あの人はあの人で、守りたいものがあったのだろう。ここで30年暮らして、もうそんな気持ちは消えたよ。家にいても次男だし、キノコの研究でもしてたかな。ここでも同じだ。外に出てからは、キノコの研究をずっとしていたんだ」

「とても興味深いのでそのあたりのことも伺いたいのですが、いったん、泣く泣くおいておきます」

「ああそうか、そうだな、最初のころは恨みもあったが、世話人のトゥーサンがいい人だったんだ。核心に迫るような話はしたら死ぬことになっちゃうからしなかったが、たくさんくだらない話をしたよ。トゥーサン、名前からして面白いだろう? 父さんって呼んでたな。最初はそんな年じゃないって怒られたけど」

「トゥーサン、さん」

「そうそう、トゥーサンさんって言ったら、俺の頭は太陽のようにサンサンとしてるか?っていってさ、さんはいらねぇーって。でもトゥーって言ったらすかさずツッコまれたな」

「今は?」

「……死んでたよ。10年くらい前に、初めてこの建物から出たあと、何回か物資調達で探索しているときに、見つけたんだ。魔物にやられたみたいでな」

「そう、だったんですね」

「恨み言はそれくらいだ。彼はイーパ人で、通ってきてくれていた20年の間に、結婚して子供も生まれてた。ほんとうの父さんになれたのに…」


お話を聞いて、ほんとうにフィレンセに対しては何も思っていないようなので、私は現王プロスペールの子たちの話を切り出しました。


「ああ、それはかわいそうだ。俺は、トゥーサンの家族に彼の死を伝えたい。これが叶うならあとはそちらで好きにしてくれて構わない」

「私たちとともに、ここを出ますか?」

「そうだな。彼の家族に会いに行こうと思う。この島からの脱出に付き合ってくれるか? 30年いるが、魔物とはまったく戦えないんだ」

「任せてください。護衛任務、お受けします」


そうして、ヴァランタンさんを連れて、ザル島を出ることにしました。冒険者ランク上げは、またの機会に。

北の船着き場までの道、出てくる魔物をあまりにも簡単そうに私たちが倒すものだから、俺もできるかもと言い出して魔物に突っ込んでいったヴァランタンさんでしたが、当然できるはずもなく一撃で吹っ飛んだので、着地地点に合わせてビトさんが絶対防御結界を張り、私は水の矢10連を魔物に放ちました。


「いや、すまない。できそうな気がして」

「なんで30年もここから出なかったのか考えてくださいよー」

「あら、それはキノコ研究が捗っていたからでは?」

「それはここ10年でしょ、エリシャさん」

「それは確かに。最初の20年はどう暇つぶししていらしたの?」

「トゥーサンが持ってきてくれたトランプをずっとやっていた」

「トランプを?」

「ああ。ひとりでもできる遊び方があってな、知っているか?」


Scoundrel悪党というひとり遊びのトランプゲームを教えていただきました。




しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【完結】すり替えられた公爵令嬢

鈴蘭
恋愛
帝国から嫁いで来た正妻キャサリンと離縁したあと、キャサリンとの間に出来た娘を捨てて、元婚約者アマンダとの間に出来た娘を嫡子として第一王子の婚約者に差し出したオルターナ公爵。 しかし王家は帝国との繋がりを求め、キャサリンの血を引く娘を欲していた。 妹が入れ替わった事に気付いた兄のルーカスは、事実を親友でもある第一王子のアルフレッドに告げるが、幼い二人にはどうする事も出来ず時間だけが流れて行く。 本来なら庶子として育つ筈だったマルゲリーターは公爵と後妻に溺愛されており、自身の中に高貴な血が流れていると信じて疑いもしていない、我儘で自分勝手な公女として育っていた。 完璧だと思われていた娘の入れ替えは、捨てた娘が学園に入学して来た事で、綻びを見せて行く。 視点がコロコロかわるので、ナレーション形式にしてみました。 お話が長いので、主要な登場人物を紹介します。 ロイズ王国 エレイン・フルール男爵令嬢 15歳 ルーカス・オルターナ公爵令息 17歳 アルフレッド・ロイズ第一王子 17歳 マルゲリーター・オルターナ公爵令嬢 15歳 マルゲリーターの母 アマンダ・オルターナ エレインたちの父親 シルベス・オルターナ  パトリシア・アンバタサー エレインのクラスメイト アルフレッドの側近 カシュー・イーシヤ 18歳 ダニエル・ウイロー 16歳 マシュー・イーシヤ 15歳 帝国 エレインとルーカスの母 キャサリン帝国の侯爵令嬢(前皇帝の姪) キャサリンの再婚相手 アンドレイ(キャサリンの従兄妹) 隣国ルタオー王国 バーバラ王女

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...