【第二章完結!】妹?義妹ですらありませんけど?~王子様とは婚約破棄して世界中の美味しいものが食べたいですわ~

井上 佳

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第二章 外国漫遊記

第五十話 看守シャルル・シュヴェーヌマン

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俺はフィレンセとイーパの国境を守る警備のひとり、フィレンセ人のシャルル・シュヴェーヌマンだ。毎日毎日、不法入国者に目を光らせている。
警備という仕事柄、鍛錬は欠かさないし定期的に危機管理講座もきちんと受講している。だから体力はあるし精神的にも安定しているはずなんだが、どうにも胃腸が弱いのが弱点だ。


ある日、凡人じゃないオーラを持った男が、馬車の御者台に座っているのを見つけたんだ。どうみても、馬車の中に乗るほうだろあんた、ってやつだ。
よく見ると、敵国の公爵だってのに絵姿売り上げナンバー5入り常連の、ルシエンテス公爵だった、間違いない。災いの種を見つけてしまった、胃が痛い。

妻はイケメンが好きで、いろいろな絵姿を集めている。大っぴらには売られていないが、ジャービーの王様とか王太子とか、戦争やってる国の人間の絵姿もこっそり売っているところがある。ルシエンテス公爵の絵姿も、そこで買ってきたんだ。妻に頼まれてな。

だから、間違うはずがない。

しかしよく見ても、絵にそっくりだ。こんなイケメンほんとうにいるわけないだろうと呆れていたものだが、ほんとうにいるんだな。

と、感心している場合じゃない。仕事をしなければ。


「グイスト・ルシエンテス公爵だな。敵国の王弟だ、拘束させていただく」


が痛いのを我慢して、を決して声をかけた。相手は敵国の王弟公爵、しかもA級冒険者ライセンスを持っている実力者だ。警戒心最大で、何かあっても太刀打ちできるほどの実力はないが、何があってもすぐ動けるようにしていた。だが公爵一行は、拍子抜けするほどあっさりと白旗を上げた。

といっても、おとなしくする条件で、縄もつけさせないし荷物も取り上げないことを約束させられた。胃の痛みを感じて腹を押さえていたら、今度は腸にも異変をきたした。トイレにはまだ行けない。
さすがにあの気迫に対抗できる力量の持ち主は、こんな国境警備隊の中にはいなかったから、荷物をあらためることはできなかった。

公爵の連れの、やたらと顔がいい冒険者の男と、目が覚めるような美人。どちらの絵姿も妻が喜びそうだから、絵師をこっそり呼んで、描いてほしいと思うくらいの心の余裕はあった。連行し、敵国の公爵をどうしたものかと首都に判断を仰ぐ封書を送ったあとは、すぐにトイレに駆け込んだけどな。



もうひとり、もうひとりいた気がするんだけどなぁ。

記録では四人となっている。自分が書いたものだし間違いないだろう。

しかし実際、朝食を届けに行ったら牢には三人しかいなかった。

脱獄するったって、きっとあの人たちは牢くらい簡単にやぶれるんだろうけど、どこも壊れていないしひとりだけ逃げたってのもおかしい。みんなで逃げればいいだろう? よくわからない状況だったが、確かに四人目のことはほぼ記憶にないし、勘違いと言われたらそうかもって思ってしまうくらいだ。

だから、きっと三人だったんだろう。

そう思い、記録を三人に書き直していたところで、牢の方々から暇なのでトランプがないか聞かれた。夜勤警備が暇なときによくみんなでやるので、トランプは机にしまってある。それを持って行ったところ、大富豪をやりたいけど三人ではつまらないから混ざるように言われた。

上はほかの連中に任せて、鉄格子越しにその輪に加わっていたのだが、なぜだろう、鉄格子の中のほうが優雅だし居心地がよさそうだった。

しばらく大富豪を続けていたが、なんでかこの美人しか勝たん。まるでイカサマをしているのかってくらい、美人しか大富豪にならん。
まあ俺もそこまで強いわけじゃないから俺はいいんだが、すごい強そうなのに毎回負けるこの公爵が怪しい、なんて思っていたら、上からどたどた降りてくる足音が聞こえた。


「大変だ…第二王子殿下がいらして、おふたりの釈放をお命じになられている」

「おふたり? 今度はふたりか??」

「ああ、王子殿下と王女殿下の恩人だそうだ」

「それならエリシャと私だ」

「え、ちょ、俺は?」


まさか恩人を投獄していただなんて、俺の胃は…いや胃どころか首は大丈夫か?




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