【完結】召喚されて聖力がないと追い出された私のスキルは家具職人でした。

井上 佳

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3.スキルを初めて使いました。

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朝起きて、見知らぬ天井に驚いた。けど、ああそうだった、召喚されたんだと思い出す。


「んんー……っ! ふう。お風呂、いただこう。」


おかみさんに挨拶して、お風呂を使わせてもらう。タイル張りの部屋にバスタブが置かれている西洋風のお風呂だ。水とお湯のコックを開けて、ちょうどいい温度を探る。

体を洗って汚れを落としたら、バスタブにお湯をためてつかる。


「ふう。」


気持ちいい。ゆったりとした気分で、これまでのことを思い返してみることにした、


私は日本で、グラフィックデザイナーとして勤める予定だった。大学を卒業して、入社後一週間は、挨拶まわりをしたり社内で使うソフトの研修受けたり、いろいろと慣れるのに大変であっという間に過ぎていった。それで金曜日の夜に、新入社員の歓迎会があって大盛り上がり。ほろ酔いで帰宅してそのままベッドに転がって……。

あ、思い出した。ゲーム内に出てくる家具でこんなの作れたら素敵だなって思ったのがあったから、リアル家具のデザイン本を開いたんだ。

それで家具職人?

で、たぶん寝ているうちに召喚されて、石の上に描かれた召喚の魔法陣の上で目覚めた。硬くて寝心地が悪かったから。

石の上に転がしとくなんて、随分な扱いじゃない? 聖女でしょ? 違ったみたいだけど。


まあ、なんでもいい。とりあえずもう一度ステータスを開いてスキルを確かめてみよう。


「ステータスウインドウ。」


-ヴォン



――スキルの使い方――


新しく作る時は『クラフト』と言う。

修理する時は『リメイク』と言う。

塗装するには『カラー』と言う。


それぞれ思い描いた物が出来上がる。


※クラフトには多めの素材が必要。

※リメイクは元々の家具に追加素材が必要な場合もある。

※カラーで使う素材はすべて花で、その花の色で家具を染め上げることができる。薄づき、ベタ塗りなどもイメージしたように仕上がる。

――――――――――――


つまり……頭の中できちんと作りたい物を組み立てないといけないのね。トントンカンカンしなくても作れるのは便利だけど、しっかりイメージ固めてから使わないと変な物ができちゃいそう。気をつけよう。


なんの役に立つのかわからないけど、ひと通り復習したので、お風呂を上がって朝食をいただき店に立つ。初仕事だ。


「よしっと。それじゃあ、よろしくお願いします!」

「ははっ! 元気でいいね、頼んだよ!」

「おはよう。もう開いてるかい。」

「「いらっしゃいませ!」」


朝8時のオープンとともに、お客さんはやってきた。
お店には、10種類のパンが並べられている。テーブルのような、木のパンを置く棚が2つと、軽く食べていけるイートインスペースのテーブルセットが3つ。パンを買うレジカウンターで飲み物が注文できる。スープも2種類ある。

朝イチは買って帰る人ばかりで、人の波が途切れるとおかみさんは追加でパンを焼きにいった。
お昼の少し前にまたお客さんがきて、「ランチに。」って言って買っていった。イートインの人もいた。
スープは豆とベーコンのトマトスープと、じゃがいもと白身魚のクリームスープ。どちらも味見させてもらったけどとっても美味しくて、パンによく合うのでランチタイムで完売した。

午後にまたお店がすくと、おかみさんはおやつ用のパンを作り、棚にはお茶請けになりそうな甘いパンが並ぶ。それを目当てに買いに来て休憩する人たちで、店内はまた賑わった。


「周りにはお店が並んでて、ちょっと行けば冒険者ギルドもあるからね。贔屓にしてもらっているよ。」

「へー、働く皆さんの強い味方ってわけですね。美味しいパンは元気の源です!」

「あら、嬉しいこと言ってくれるね。」


お昼にいただいた惣菜パンも、ポテトとベーコンが入っていてチーズたっぷりのっていて、黒胡椒がピリッと効いてとっても美味しかったし、店内が空いたから休憩っておやつパンまで出してくれて、これがまたサクサクデニッシュで美味しい。


「ごちそうさまでした。」

「はいよ、おそまつさま。」


おやつ休憩を終えたら、夕方のラッシュだ。仕事を終えて帰る人がお店に寄ってくれるらしく、見る見る間にパン棚がからになった。


「わあ、売り切れ!」

「ああ。あとは片付けて夕飯にしようか。」

「はいっ!」


なんとも充実した一日だった。
お客さんもいい人ばかりで、接客は慣れていたから、商品を袋詰めしたりお金のやり取り、ドリンク出したり店内清掃もスムーズにいったと思う。自分的には大満足。


「棚拭きますね。」

「お願いね。……あっ、そこは!」

「えっ?」


-ガターン!


「わっ……!」

「ヨリコ!」


-ドーン…


やってしまった。最後の最後に。パン棚を拭こうと布巾を棚に乗せて力を込めたら棚が倒れて壊れてしまった。
せっかく何事もなく初日を終えようとしていたのに、まさか棚を壊してしまうなんて大失敗だ。


「大丈夫かい?!」

「お、おかみさぁん! ごめんなさい……。」

「ああ、いいんだよ。もともとガタがきてたんだこの棚は。悪かったね、言い忘れていたよ。怪我はない?」

「怪我は、ないです。」

「気にしないどくれ、ね?」

「うう、おかみさん……」

「ヨリコはよくやってくれたよ。今日はほんとに助かった。明日からも頼むよ!」

「ううっ、はい……。」


優しい人。パンを置く棚は2つで、ひとつ減ったら半分のパンが置けなくなる。なかったら困るのに、笑顔で許してくれた。この世界で捨てられた私を助けてくれたおかみさんの役に立ちたいのに、逆に迷惑をかけてしまった。

悩むことは無い。

スキルを、使おう。


「おかみさん。」

「うん? なんだい。」

「私、スキルが使えるみたいなの。それで、このパン棚が直せるはず。やってみても、いいですか?」


おかみさんは驚いていた。

確かにこの世界には、魔法が使える人がいたり、スキル持ちの人がいたりするが、平民にはらしい。この辺りだと、冒険者ギルドに所属する高ランクの人たちくらいしかスキル持ちはいないって教えてくれた。


「あまり人に話さないほうがいいだろうね。あんたが危ない目に合う。」

「そう、なんですね。ありがとうございます。気をつけます。」


そういって、ここだけの話にしてもらった。

私は壊れてしまったパン棚の前に立ち、木片に手をかざす。今日一日だけど、店内にずっといたんだ。元の棚の形を思い出して、頭の中で木を組み立てる。


「リメイク!」


-ブブブブブォン


見る見る間に木片が組み上がっていき、棚の形に戻った。


「あっ……! で、できた。」

「すごいねこりゃ!」


初めてだったからちゃんとできるか不安だったけど、木片は、きちんと元の形に戻った。


「あれ? ここ……?」

「ん? ああ、ガタガタしていたところに新品の木がはまってしっかり、うん、揺れなくなってるね。」

「新品の、木……?」

「ありがとうヨリコ。かえって助かったよ。ははっ!」


しっかり直せたのはよかったけど、新たな疑問。



木、どこからきた?






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