【完結】婚約破棄される前に察して距離を置いていたら、幼なじみの第三王子が本気になっていました〜義妹と元婚約者? もう過去の人です〜

井上 佳

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番外編 過去への想い(エレノア)

夜。
自室で、私は一人、窓の外を見つめていた。
月明かりが、王宮の庭園を照らしている。
静かな夜だ。

「……ディートリヒ」

ふと、彼の名前を呟く。
元婚約者。私を裏切った男。

今頃、どうしているのだろう。

父からの報告によれば、ディートリヒは廃嫡され、町の小さな家で暮らしているという。リリアナと共に。彼は毎日、商店で働いているそうだ。

「……自業自得ね」

私は、小さく笑う。

彼は、愛のために婚約を破棄した。リリアナを選んだ。でも――得たものは、何もなかった。侯爵家の地位も、贅沢な暮らしも、すべて失った。

正直に言えば――ざまあみろ、と思っている。私を裏切った報いだ、と。
でも――。

「……まあ、真面目に働いているなら、いいけれど」

私は、窓の外を見つめる。
ディートリヒは、愚かだった。長子継承制も理解せず、私と結婚すれば侯爵家を継げると勘違いしていた。リリアナも、同じだ。私の立場を奪えると思っていたらしい。

二人とも――本当に、バカだった。

でも――だからといって、不幸になってほしいわけではない。もう、私の人生には関係ない。彼らが、どう生きようと――私には、関係ない。

ただ――見えないところで、ちゃんとした生活ができているといいな、とは思う。軽い気持ちで。

「……リリアナ」

義妹。いや――もう、義妹ですらない。そもそも義妹ですらなかった。

リリアナは――侯爵夫人になりたかったらしい。贅沢な暮らしを夢見ていた。でも、現実は厳しい。ディートリヒは、ただの平民。彼女が求めていた贅沢など、もう手に入ることはないだろう。

「……哀れね」

私は、小さくため息をつく。

リリアナは――自分の立場を理解していなかった。貴族社会の厳しさも、礼儀も、何も知らなかった。ただ――見た目の可愛さだけで、すべてが手に入ると思っていた。

でも――そんなに、甘くない。

正直に言えば――これもまた、ざまあみろ、と思っている。私を見下していた報いだ、と。
でも――。

「……まあ、ディートリヒが真面目に働いているなら、彼女も何とかなるでしょう」

私は、窓の外を見つめる。

リリアナが、どうなろうと――私には、関係ない。もう、彼女は私の人生にいない。

ただ――見えないところで、少しはマシな生活ができているといいな、とは思う。高望みせず、身の丈に合った……なんて無理だから、こんなことになったのだろうけど。

「……私にはもう、関係ない」

私は、小さく笑う。
二人とも――もう、過去だ。私の人生には、もういない。


「お嬢様」

ドアがノックされる。

「どうぞ」

マルティナが、入ってくる。

「お茶をお持ちしました」
「ありがとう」

マルティナは、テーブルにお茶を置く。

「……お嬢様、何を考えておられましたか」
「ん?」
「少し、寂しそうなお顔でしたので」

マルティナが、心配そうに聞く。

「……ああ」

私は、微笑む。

「ディートリヒとリリアナのこと、少し考えていたの」
「……そうですか」

マルティナは、少し驚いた顔をする。

「でも――もう、過去のことよ」

私は、お茶を一口飲む。

「二人とも、もう私の人生にはいない」
「……はい」
「正直、ざまあみろ、とは思っているわ」

私は、正直に言う。

「でも――見えないところで、ちゃんとした生活ができているといいな、とも思う」
「……お嬢様は、優しいですね」
「昔馴染みだし、ね」

マルティナが、微笑む。

「あれだけ裏切られたのに――それでも、相手の幸せを願えるなんて」
「……別に、幸せを願っているわけじゃないわよ」

私は、少し照れくさそうに言う。

「ただ――そんなにすごい不幸になってほしいわけでもない、というだけ」
「それが、優しさです」

マルティナは、微笑む。
私は――少し、頬が熱くなる。

「……まあ、いいわ」

私は、窓の外を見つめる。
月が、美しく輝いている。

「私には――これから、幸せな未来があるから」
「はい」

マルティナも、微笑む。

「レオニスと、共にね」
「……ええ」

私は、心から微笑む。
ディートリヒとリリアナ――二人は、もう過去だ。私は――これから、レオニスと共に歩む。それが、私の未来だ。

「……さて」

私は、お茶を飲み干す。

「もう、寝ましょう」
「はい」

マルティナは、部屋を出ていく。
私は、ベッドに横たわる。

明日も――きっと、良い日になる。

レオニスと、共に歩む日々が――続いていく。

私は――幸せだった。
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