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第一章
※第十四話 暴かれた関係
しおりを挟む「ああ……エリス様……あ、ああっ」
「ふふふっ、いい子ねピノシス。ほら、いいのよ? さあ、っん……はは……ははははははっ!」
何度目かの夜、エリスはピノシスの元を訪れいつものようにことに及んでいた。
第二王子ピノシスは、すでに王妃エリスの手中にあると言っていいだろう。
平民の母から生まれた王子であるピノシスは、ここでは生き辛かった。王から生まれた子であるという以外、容姿も才能も凡人だったピノシス。目をかけられているわけでもないのに、ほかの王子と同じ教育を受けていた。そのことに重圧を感じていたし、しかし高等な教育を受けることで何かしら秀でたところが出てくればよかったのだが、結局は何をしても平均程度だった。
それでも母は、王子なのだからとピノシスに言い聞かせ、努力と向上心を望んだ。しかしピノシスは、そんな母がすでに精神を病んでいることに気づいた。ただの平民であるピノシスの母は、この魔窟で生きるのには向いていなかったのだろう。ピノシスは、母が死んでから早々に、将来は王位継承権を放棄することを決めた。
そうしてひっそりと生きてきた自分が、絶対の王である父ゼシウスの正妃を抱いているのだ。ピノシスはこのような狂った状況で正常な判断ができなくなり、母と同様に精神を病んでいった。
「ああ、私の女神……」
「ふふふ、ほんとうにかわいいわね、ピノシス……」
ピノシスは、愛おしそうに、陶酔した目をエリスに向ける。するとエリスは、何かを企むような、しかし慈愛に満ちたまるで女神のような顔を見せる。
「エリス様のお望みは、いったいなんなのでしょうか。私は……それを叶えるお手伝いができればと思っています」
「あら、嬉しいわ。……ふふっ、あなたにしかできないことがあるのよ?」
「それは――」
「そこまでだ、エリス」
「「?!」」
エリスはゼシウスの暗殺を狙っていた。
ゼシウスを亡き者にし、現時点での王位継承権第一位のピノシスを王に立て、自分が妃におさまる。そうすれば、国は自分のいいようになる、と。
今まさに、それをピノシスに持ちかけるところだった。
しかし、まるで狙ったかのようなその瞬間、ゼシウスが乗り込んできた。
「ぜ、ゼシウス様っ?!」
「父様……!」
寝台の上で抱き合う二人は驚愕した顔をゼシウスに向ける。
それはそうだろう。今まさに企みが動き出すかというところだったエリスと、父の妃とことに及んでいるピノシスだ。気まずいどころの話ではない。
「お前の企みなどで俺の地位は揺るがん」
「な、んの……ことでしょう」
「だが、おもしろくないな」
「っ!?」
「ピノシスを使うとは……ふん、実につまらん」
ゼシウスは、手に掴んでいた剣を鞘から抜いてピノシスに向けた。
「ち、父う……っ!」
そしてそれを我が子に突き刺し、そのまま払いのけ床に落とす。
エリスの顔は真っ青だ。
ゼシウスは、王宮に迎えることに反対するものたちを切り捨ててまで側妃にと召し上げた女の子どもを、自身の子をためらいなく殺したのだ。政略結婚で、しかもすでに子を亡くしているエリスは、王妃といえど簡単に――。
「ぜ……ゼシ……っ」
「運命を共にしたかったのだろう? お前も逝け」
ゼシウスは、エリスの腹を剣で突きピノシスの上に放り投げた。
「陛下……なんということを……!」
「……ジスか」
騒ぎに気づいたジスは、ピノシスの部屋の前までやってきて愕然とする。血まみれの剣を携えた国王と、血だまりの上に折り重なってこと切れている様子の王妃と、異母兄。それは異常な光景だった。
「陛下!!」
「はははははっ! ジス、子はお前だけになった。さて、どうする?」
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