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第一章
第十八話 リンドベルドの町
しおりを挟む「この国がこんな有り様なのは、あのバカ王子のせいだ」
「今日はずいぶん酔っ払っているねぇ」
「聖女を……いったい何だと思っているんだ……」
シェーレの王都から南に下ったところにあるリンドベルドという町の酒場でくだを巻いているのは、町のさらに南側の瘴気から湧く魔物の討伐を請け負っている第15兵団の副団長ズェラシエ・ポムクルだ。第15兵団は、通常は聖女の護衛を担当していて、共に各地を周る腕利きの兵団だ。団長は辺境伯レッツランドで、副団長のポムクルは代々有能な騎士を排出する男爵家の出である。
セツコが追放されてから間もなく2年になる。その間、各兵団は魔物が王都に寄らないよう力を振るっている。
「瘴気から湧き出る魔物を倒したってきりがないだろう? 聖女の浄化あってこそだ」
「そうだねぇ。セツコは元気にしているかねぇ」
「まあ、あいつはどこでもやっていけそうだけどな……だからって、魔の森に置き去りって……」
「あの子の神聖力は並じゃなかったからね。もしかしたら森で見つけた魔物を従えていたりして」
「ははっ、そりゃいい」
そんな話が、酒場で夕食を取っていたジスの耳に入った。すると、ジョッキを掴み口にした食べ物を酒で一気に流し込み、ドンと勢いよくテーブルを鳴らしイスを蹴散らしながら、ジスはズェラシエの元へ駆け寄る。
「今、セツコ、と言ったか?」
「あ? なんだテメェ」
「お客さん、困るよ」
突然の乱入にジスを睨みつけるズェラシエと、イスやテーブルをめちゃくちゃにされ怒る女将。ジスは振り返りハッとして、倒れたイスとテーブルを元に戻してから再び二人の前に立つ。
「失礼した。俺は、セツコという女性を捜しているんだ」
「へぇ?」
「何か知っていたら、教えてくれないか」
「セツコねぇ」
ズェラシエは、いやズェラシエでなくても、召喚され追放された聖女といういわくつきの女を捜しているという人間をいきなり信じることはできないだろう。いったいお前はどこの誰で、何でその女を捜しているのか、話はそれを聞いてからだ、とジスに向かってズェラシエは言った。
「ああ、ああそうだな。すまない。俺はゾゼ国のものだ。騎士、だったのだが、任務で重傷を負い動けなかったところ、セツコに治してもらったんだ。黒髪で黒目の……それで、しばらく一緒に住んでいて……」
「なん、だと?」
「へえ、一緒にねぇ」
ズェラシエは、まさか……とジスを鋭い目で見る。女将はどこか楽しそうだ。
「セツコと、住んでいたのか?」
「そうだ。だが……忽然と、姿を消した」
「ふぅん?」
ジスの話を聞いて、正直面白くなかったズェラシエ。セツコがシェーレにいたのはたった一年のことだったが、その間行動を共にしていた第15兵団の面々は皆、セツコのことを気に入っていた。気に入る、の程度は人それぞれだが、ズェラシエはなんでもひとりでこなそうとするセツコに、頼られる存在になりたい、と彼女を妹のように思っていた。
魔の森の向こうはゾゼだし、容姿も治癒ができるのもセツコくらいにしかない特徴だったため、ズェラシエはジスの話が嘘ではないと思い、懐かしい姿を思い出しながら口を開いた。
「ゾゼか……無事に森を抜けたんだな」
「あなたのいうセツコと、同じ人だろうか」
「……まあ、黒髪黒目でセツコなんて、ほかにいねぇだろうからな」
「そうか!」
捜していた恋人の情報は、なんだってほしい。もちろん行方がわかるのが一番だが、過去を知ることができるのも、ジスは嬉しかった。その勢いに圧され、酒に酔っていたこともあり、ズェラシエはセツコとの思い出を語り始めた。
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