【完結】妃が毒を盛っている。

井上 佳

文字の大きさ
24 / 50

第二十四話 もうひと仕事

しおりを挟む


アーヘン村の、至るところから元気な声がする。

何日か滞在し、村人たちの手助けをしていたエルメンヒルデたち。
ヘルシン症にかかっていた軽症の村人たちも全員完治したことが確認できた。

今回のことは大変な痛手だったが、皆が前を向いているということを確認することができたので、そろそろ村を出発しようとしているところだ。


「ほんとうに、病の恐怖から救ってくださりありがとうございました。」

「すべては妖精王様のおかげですわ。」

「いや? エルメンヒルデ。君がいなければ私は力を貸していなかったよ。人間たちの間で起こることは、本来人間が解決するべきだからね。」


そう、今回の病を浄化するなどという行為は、まさに神の御業に等しい行為だ。人間が出来ることではない。
本来なら手を貸すべきではなかったのかもしれないが、それでも、妖精王はエルメンヒルデのためになるならと力を使ってくれたのだ。


「私も人間界に与える影響がどれだけ大きいか、わかってはいるのだけどね。」

「それでも手を貸してくださったユストゥス様には、大変な感謝ですわ。ありがとうございました。」

「……その笑顔、これ以上ないご褒美だね。」


人外の力は、使い方を間違えれば身を滅ぼすものだ。

今回のことだって、公になればエルメンヒルデの元に力を貸してほしいという依頼が殺到するだろう。

ハイディルベルクの王が病から復帰したことも、妖精王の力だったことは一部の人間を置いて伏せられている。

ここ、アーヘンでの出来事も、皆には箝口令が敷かれた。しかし村人全員がほんとうに口外しないとは言い切れないだろう。

妖精王がエルメンヒルデに力を貸せば貸しただけ、エルメンヒルデは危機に陥るのかもしれない。


「でも、まだひと仕事残っておりますわ。」

「そうだったね。いいよ、行こう。」


もうひとつの仕事とは、そもそもの依頼であったヘルシン症が発症した地に生えるヘルシン症用の薬草採取だ。
緑の妖精王であるユストゥスは草花の成長を促す力を備えている。第五の騎士たちがあらかじめ見つけておいた薬草群生地を回り、薬草の芽を成長させていく。


「素晴らしいお力ですわ。」

「そう?」

「ええ……きらきらしていて、とてもきれいです。」

「ふふっ。私には、そう言って笑顔になるエルメンヒルデがとても美しいもののように見えるよ。」

「まあ。」


実際、妖精王は存在するだけで絵になっているが、その力を使うときは立ち姿にきらきらエフェクトが加わり、さらにいい感じの風がそよぐ。美麗スチルでしかない。
その妖精王に向けて微笑むエルメンヒルデも、まるで絵画か彫刻のようだった。


「なるべく見られないように、村長に頼んでこの時間の村人の外出を禁止してもらっています。」

「ええ、ありがとう。」


小隊長が気を回してくれたおかげで、スムーズにことは進んだ。これ以上実際に力を使うところを見られないに越したことはない。
妖精王が薬草を成長させて回り、それを第五の面々が採取していく。
すべてを回って宿に戻ると、残っていたものたちが荷物を馬車に積み込み出発の準備を終えていた。


「エルメンヒルデ様。もう発つ準備はできています。」

「ありがとうグレータ。間もなく騎士の皆さんも戻るわ。」

「いやー、なかなかいい村でしたね。」

「硫黄石、全部無料でくれたよ。」

「ハイノ、お金は使いなさい。」

「ご飯すごい美味しかった!」

「ここの温泉施設はいいな! トレーニングしながら入れる!」

「いやあれトレーニング用じゃなかったよ絶対。」

「そうか?」


なんだかんだ満喫していた護衛たちだった。


その後、薬草を採取していた第五の騎士が戻り、村の入り口で合流した。

村長を始めとして村人たちが集まり、皆が感謝の言葉を述べた。

エルメンヒルデたちは盛大に見送られ、まずはデューレン辺境伯邸まで向かうのだった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

今度は悪意から逃げますね!

れもんぴーる
ファンタジー
国中に発生する大災害。魔法師アリスは、魔術師イリークとともに救助、復興の為に飛び回る。 隣国の教会使節団の協力もあり、徐々に災害は落ち着いていったが・・・ しかしその災害は人的に引き起こされたものだと分かり、イリークやアリス達が捕らえられ、無罪を訴えても家族までもが信じてくれず、断罪されてしまう。 長期にわたり牢につながれ、命を奪われたアリス・・・気が付くと5歳に戻っていた。 今度は陥れられないように力をつけなくちゃ!そして自分を嵌めた人間たちや家族から逃げ、イリークを助けなければ! 冤罪をかけられないよう立ち回り、災害から国民を守るために奮闘するアリスのお話。え?頑張りすぎてチートな力が? *ご都合的なところもありますが、楽しんでいただけると嬉しいです。 *話の流れで少しですが残酷なシーンがあります。詳しい描写は控えておりますが、苦手な方は数段飛ばし読みしてください。お願いします。

お言葉ですが今さらです

MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。 次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。 しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。 アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。 失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。 そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。 お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。 内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。 他社サイト様投稿済み。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...