わるいむし

おととななな

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 「はい、どうぞ」
 カウンター席に座った新汰の前にあたたかいおしぼりとお冷が置かれた。
 「新汰くん、一番最初に飲んだお酒って何か覚えてる?」
 升谷の質問に、新汰はぼんやりと記憶を辿った。
 あれは確かサークルの新人歓迎会に呼ばれた時。
 居酒屋で、とりあえず乾杯用にと全員にビールが渡ったのだ。
 先輩や同級生たちは美味そうに喉をならして流し込んでいたが、その時はじめてビールを口にした新汰にはただただ苦い炭酸という感想しかなかった。
 それを話すと、升谷はすぐに冷蔵庫から缶を取り出しそれを冷えたグラスに注いだ。
 「これ、飲んでみて」
 目の前に出されたグラスには、新汰がトラウマとしてるビールと全く同じようなものがなみなみと注がれている。
 「ビール苦手って聞いてました?」
 「うん。だから飲んでみて」
 全くかみ合わない会話にイラッとしながらも、新汰はグラスを持ち恐る恐る口をつけた。
 どうせ苦いに決まってる…
 まずいと文句でも言ってやろうか。
  そう思って口に含んだ液体は、新汰の予想と全く違うものだった。
 あの時感じた眉間にシワが寄るような独特のクセや苦味が全くない。
 フルーティーで柔らかな口当たりで、ビールを飲んでいるような感じがしないのだ。
 新汰は二、三度味わうと、グラスの中の液体をまじまじと見つめた。
 表面には泡があり、その下はやや黄色ががった液体。
 多少黄味が薄い気もするが、見た目は全くビールそのものだ。
 新汰の反応が面白かったのか、升谷が笑いながら説明してきた。
 「ヴァイスビアっていうんだよ。日本語で言うと白ビール。ドイツの伝統的なビールでね、バナナみたいなフルーティーな香りと、苦みをほとんど感じない柔らかな味わいが特徴なんだ」
 「へぇ…」
 「ビールも色々種類があってね、苦味やキレを楽しむものもあればこういう苦味が少なくて飲みやすいものもあるんだよ」
 新汰は少し感心した。
 自分の店を出すだけあって、酒の知識は豊富だ。
 絶対に飲めないと思っていたビールが飲めたし、むしろ美味しく感じている。
 「二杯目もいけそう?」
 「お願いします」
 いつのまにかグラスは空になっていて、すぐに升谷が二杯目を用意してくれた。
 今度はまた一杯目とは違うテイストのビールだった。
 柑橘系のような爽やかな香りが特徴的で、やや苦味はあるもののそれがスパイス的な役割りになっていて非常に飲みやすい。
 新汰は思わず喉をならして飲んでしまった。
 あのテレビのCMなんかで観るようなゴクン、ゴクンという爽快な飲み方だ。
 
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