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「新汰、落ち着きなさい」
父親に静かに嗜められ、新汰は拳を握りしめるとしぶしぶ席に戻った。
わかっている。
この話題の中で新汰は完全に部外者だ。
反対する権利も意見する権利もない。
だがどうしても納得することができない。
奏汰がもし見合い相手の女性と結婚することになったら、ますます手の届かないところに行ってしまう。
兄への気持ちを日々募らせている新汰にとって、それを黙って見過ごすわけにはいかないのだ。
「どう?奏汰、考えてくれないかしら」
新汰に対する態度から一変して母親は猫なで声で奏汰に訊ねる。
だめだよ兄さん。
嫌だと言って…頼むから。
新汰は心の中で懇願した。
だが、その祈りも虚しいものに終わった。
「わかったよ」
奏汰は両親の願いを聞き入れてしまったのだ。
「…なんでっ」
顔を綻ばせて喜ぶ両親の隣で新汰は唇を噛み締めた。
行き場のない憤りが血管を通ってぐるぐると駆け巡っていく。
普通の兄弟なら、新汰がいい弟のままでいられていたら両親とともに喜べていたのかもしれない。
兄には幸せになってほしいと願っていたし、今でももちろん思っている。
だが、兄を幸せにできる相手は他人ではなく自分でありたい。
ほかの誰でもなく、新汰が兄を幸せにしたいと思っているのだ。
「それじゃあ先方様にはすぐに連絡しとくわね。あ~何着ていこうかしら」
新汰の気持ちなどお構いなしに母親は着ていく服の事をあれこれ呟きだす。
「まだ日にちも決まってないのに気がはやいんじゃないのか」
父親はそう言いながらもやはり嬉しそうだ。
取り引き先の娘と息子の縁談が決まれば、父親の会社での株もあがる。
百パーセントそれだけが目的とは思わないが、そういう策略もないとは言い切れないはずだ。
奏汰もそれには気づいているはず。
なのになぜ…
俯いていた新汰はそっと兄の表情を盗み見た。
と、奏汰と視線が絡む。
奏汰も新汰の方を見ていたのだ。
しかし、その目は新汰を気遣うような優しい眼差しでも宥めるような眼差しでもなかった。
最初はキッチンで、次に洗面台の鏡越しに見たあのものを鑑定するときの射抜くような鋭い眼差しだ。
キーン…と耳鳴りがして、両親の会話が遠くなる。
新汰はまるで椅子に縛りつけられたかのように動けなくなった。
肌を通り越して肉や内臓、骨まで見透かしているような感覚に陥る。
すごい力だ。
視線だけで人を動けなくするのだから。
だが、どうしてもわからない。
なぜそんな目で見るの?
俺の何を見ているの?
新汰は動かせない唇の代わりに心の中で必死に訊ねた。
父親に静かに嗜められ、新汰は拳を握りしめるとしぶしぶ席に戻った。
わかっている。
この話題の中で新汰は完全に部外者だ。
反対する権利も意見する権利もない。
だがどうしても納得することができない。
奏汰がもし見合い相手の女性と結婚することになったら、ますます手の届かないところに行ってしまう。
兄への気持ちを日々募らせている新汰にとって、それを黙って見過ごすわけにはいかないのだ。
「どう?奏汰、考えてくれないかしら」
新汰に対する態度から一変して母親は猫なで声で奏汰に訊ねる。
だめだよ兄さん。
嫌だと言って…頼むから。
新汰は心の中で懇願した。
だが、その祈りも虚しいものに終わった。
「わかったよ」
奏汰は両親の願いを聞き入れてしまったのだ。
「…なんでっ」
顔を綻ばせて喜ぶ両親の隣で新汰は唇を噛み締めた。
行き場のない憤りが血管を通ってぐるぐると駆け巡っていく。
普通の兄弟なら、新汰がいい弟のままでいられていたら両親とともに喜べていたのかもしれない。
兄には幸せになってほしいと願っていたし、今でももちろん思っている。
だが、兄を幸せにできる相手は他人ではなく自分でありたい。
ほかの誰でもなく、新汰が兄を幸せにしたいと思っているのだ。
「それじゃあ先方様にはすぐに連絡しとくわね。あ~何着ていこうかしら」
新汰の気持ちなどお構いなしに母親は着ていく服の事をあれこれ呟きだす。
「まだ日にちも決まってないのに気がはやいんじゃないのか」
父親はそう言いながらもやはり嬉しそうだ。
取り引き先の娘と息子の縁談が決まれば、父親の会社での株もあがる。
百パーセントそれだけが目的とは思わないが、そういう策略もないとは言い切れないはずだ。
奏汰もそれには気づいているはず。
なのになぜ…
俯いていた新汰はそっと兄の表情を盗み見た。
と、奏汰と視線が絡む。
奏汰も新汰の方を見ていたのだ。
しかし、その目は新汰を気遣うような優しい眼差しでも宥めるような眼差しでもなかった。
最初はキッチンで、次に洗面台の鏡越しに見たあのものを鑑定するときの射抜くような鋭い眼差しだ。
キーン…と耳鳴りがして、両親の会話が遠くなる。
新汰はまるで椅子に縛りつけられたかのように動けなくなった。
肌を通り越して肉や内臓、骨まで見透かしているような感覚に陥る。
すごい力だ。
視線だけで人を動けなくするのだから。
だが、どうしてもわからない。
なぜそんな目で見るの?
俺の何を見ているの?
新汰は動かせない唇の代わりに心の中で必死に訊ねた。
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新汰つらいよね~浮かれてただけにね
奏汰、家にどういうつもりで連れていくんだろう
すごく続きが気になります
楽しみです
ありがとうございます!ちょうど今、これちゃんとお話になってるんだろうか…と悩んでたところだったので感想めちゃくちゃ嬉しいです😭救済された気持ち!!
続きも楽しんでもらえるよう頑張ります!!