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第八章 婚活と就活
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「俺、またこんなに借金しちゃって返せるかな」
店を出ると、キキがボソッと言った。
もちろんみさをはキキに払わせる気など毛頭なかった。高級取りではないが、これといった趣味もなく仕事ばかりしているので自然とお金は貯まる。これくらいはどうってことない。
「心配しないで。これは私からのプレゼントだから」
「みさをさん……」
キキは笑っているような困っているような複雑な顔をしている。
この反応は……失敗したかな? 別に見返りが欲しいわけではなく、ただ純粋に保護者代わりとして何かしてあげたかったのだが、キキにとってはありがた迷惑だったかもしれない。やっぱり慣れないことはするもんじゃないな。
みさをが反省モードに入っていると、「あー、なんか腹減っちゃったなー。せっかく銀座に来たんだから、何か美味しい物食べていこうよ」とキキがおどけた声を出して、よどんだ空気を吹き飛ばしてくれた。
銀座には星の数ほどレストランがある。それなのに、こじんまりとしたビストロや老舗の洋食屋など、雰囲気の良い店をいくつかあたったが、どこも今日は予約でいっぱいだと断られてしまった。
仕方なく広い立ち呑みフロアのあるスポーツバーに入り、フライドチキンやポテトフライなどで空腹を満たした。キキは喜んでいたが、これじゃいつもと変わらない。こんなことなら、弓削に食事するところも聞いておけばよかった。
外に出ると騒々しかった店の中とは一転、街灯がともり出した夕暮れの街は幻想的で美しく、まるでテーマパークのようだった。行き交うカップルも家族連れもみんな幸せそうに見える。
そうした雰囲気に触発されたのだろうか。
「ね、手繋いでいい?」
キキは急にそんなことを言い出し、みさをの返事を待たずに手を握った。
重なった掌からキキの熱が伝わってくる。驚いてキキの顔を見ると、心をとろかすような微笑みを返してきた。
動揺したみさをは、歩道の敷石の隙間に踵をひっかけ転びそうになった。
「大丈夫?」
キキがさっと腕を回し体を支えてくれる。
「うん。ありがとう」
みさをが体勢を立て直すと、キキはさっきよりもしっかりと手を握り、駅へ向かって歩き出した。
なんなんだ? これじゃまるでデートじゃないか。
キキの行動をおかしいと思わないわけではなかった。しかし、この時はみさをもロマンティックなムードに酔っていたのだろう。たまにはこんなご褒美みたいな日があってもいいか、と考えるのを止めてしまった。
後から思えば、ボタンの掛け違いはここから始まったのだが、みさをは自分の重大なミスに気づくことは出来なかった。
店を出ると、キキがボソッと言った。
もちろんみさをはキキに払わせる気など毛頭なかった。高級取りではないが、これといった趣味もなく仕事ばかりしているので自然とお金は貯まる。これくらいはどうってことない。
「心配しないで。これは私からのプレゼントだから」
「みさをさん……」
キキは笑っているような困っているような複雑な顔をしている。
この反応は……失敗したかな? 別に見返りが欲しいわけではなく、ただ純粋に保護者代わりとして何かしてあげたかったのだが、キキにとってはありがた迷惑だったかもしれない。やっぱり慣れないことはするもんじゃないな。
みさをが反省モードに入っていると、「あー、なんか腹減っちゃったなー。せっかく銀座に来たんだから、何か美味しい物食べていこうよ」とキキがおどけた声を出して、よどんだ空気を吹き飛ばしてくれた。
銀座には星の数ほどレストランがある。それなのに、こじんまりとしたビストロや老舗の洋食屋など、雰囲気の良い店をいくつかあたったが、どこも今日は予約でいっぱいだと断られてしまった。
仕方なく広い立ち呑みフロアのあるスポーツバーに入り、フライドチキンやポテトフライなどで空腹を満たした。キキは喜んでいたが、これじゃいつもと変わらない。こんなことなら、弓削に食事するところも聞いておけばよかった。
外に出ると騒々しかった店の中とは一転、街灯がともり出した夕暮れの街は幻想的で美しく、まるでテーマパークのようだった。行き交うカップルも家族連れもみんな幸せそうに見える。
そうした雰囲気に触発されたのだろうか。
「ね、手繋いでいい?」
キキは急にそんなことを言い出し、みさをの返事を待たずに手を握った。
重なった掌からキキの熱が伝わってくる。驚いてキキの顔を見ると、心をとろかすような微笑みを返してきた。
動揺したみさをは、歩道の敷石の隙間に踵をひっかけ転びそうになった。
「大丈夫?」
キキがさっと腕を回し体を支えてくれる。
「うん。ありがとう」
みさをが体勢を立て直すと、キキはさっきよりもしっかりと手を握り、駅へ向かって歩き出した。
なんなんだ? これじゃまるでデートじゃないか。
キキの行動をおかしいと思わないわけではなかった。しかし、この時はみさをもロマンティックなムードに酔っていたのだろう。たまにはこんなご褒美みたいな日があってもいいか、と考えるのを止めてしまった。
後から思えば、ボタンの掛け違いはここから始まったのだが、みさをは自分の重大なミスに気づくことは出来なかった。
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