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しおりを挟む「……課長……?」
次に気づいた時にはベッドの上だった。
私に跨がる課長は、こちらを見下ろしながらシャツを脱ぎ始める。
「ちょっ……課長!?」
露わになった引き締まった身体に釘付けになるのと同時に、この状況を理解するのに必死だった。
確か二人で飲んでいて、それで私は……
「誘ったのは君でしょう?」
いつもと雰囲気の違う強引な課長に戸惑うも、嫌な気持ちはない。
それどころか胸がこれ以上ないくらいときめいて、身体の奥が疼いた。
「これから俺と何したいの?」
余裕たっぷりで妖艶に微笑む課長は、わざと焦らすように髪だけしか撫でてくれない。
……何がしたい? って、そんなの決まってる。
経験なんてなくて不安だけど、初めての相手は本当に好きになった人がいいってずっと夢みていた。
それが今日叶うなんて。
課長に抱かれたい。
心の底から渇望して、彼の顔が近づくと同時に目を閉じた。
それでもキスは与えられず、ずっと優しく髪を撫でてくれるだけ。
お預けされているみたいで、身体はもっと彼を欲してしまう。
「焦らさないでぇ……課長……」
────「望月さん、着きましたよ」
「早くぅ……」
「望月さん」
肩を叩かれ、現実に引き戻されるように目が覚めた。
「かっ課長!? なんで!?」
なんでベッドじゃないんですか!? と聞きそうになって口をつぐむ。
タクシーの中、それも課長に膝枕されている状態だ。
「酔って眠ってしまったんです」
そんな課長の言葉に冷や汗が噴き出して、慌てて飛び起きた。
「すみません! ご迷惑おかけしてしまって……」
「いえ、大丈夫ですよ」
優しく微笑む課長に胸が締めつけられた。
いつもの課長だ。私のこと、ちっとも眼中にない課長。
「気をつけて帰ってください」
私のマンションの前でタクシーは停車する。
何事もなかったかのように別れを切り出す彼に切なくなって、どうしてもこのまま降りられなかった。
「望月さん……?」
「な……んか、まだふらふらして……」
「大丈夫ですか?」
最低なことをしてるってわかってる。
心配してくれる課長を騙すなんて。
「一人で歩けないので、部屋まで連れてってくれませんか?」
それでも、このままの関係でいたくない。
何故かじわりと涙が滲む中、情けなく課長のシャツをつまみ懇願する。
課長は困惑した様子で私を見つめ、諦めたように目を伏せた。
「……わかりました」
二人でタクシーを降りてマンションのエントランスに入る。
深夜の静かなエレベーターの中は、私の心臓の音だけ響いている気がした。
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