堅物上司の不埒な激愛

結城由真《ガジュマル》

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 課長は私の肩を担いで、自宅の505号室まで送り届けてくれた。

「……鍵、出せますか?」

「はい……」

 震えた手で玄関の鍵を開ける。
 どうしよう。緊張と高揚に身体中が熱を帯びて止まらない。
 山ちゃんが教えてくれたように、上手に誘える?
 今までオカン気質で恋愛経験なんてなかった私が。

「ありがとうございました……あの、お茶でも」

「いえ大丈夫ですではまた」

 超絶早口で誘いを断り今にも逃走する寸前の課長。
 こんなことも想定済みで、逃げられないようにガシッと腕を掴み玄関の中へ引き入れた。

「ちょっ……望月さん!」

 見るからに戸惑っている課長。
 多少強引でもやむを得ない。課長には申し訳ないけど、ここまできたら最後までぶつからなきゃ。

「お願いします……まだ帰らないで」

 さすがに恥ずかしくて目が見られない。
 これで私の気持ち、伝わったと思う。誘っていることだって。

「ひゃっ」

 まだ靴を脱ぐ前の玄関で、突然引き寄せられて彼の腕に包まれた。
 落ち着いたフレグランスが微かに香って、脳を痺れさせる。
 課長の胸元に顔を埋め、自分と同じくらい彼の鼓動も速いことがわかった。

「……自分が何を言ってるかわかってますか?」

「あっ……」

 ゆっくりと腰回りを撫でられ、全身に鳥肌が立つほどの快感に震える。
 焦らすように思わせぶりな手つきはいやらしく、いつもの健全な課長じゃないみたい。
 ……キスしたい。
 たまらずに見上げると、課長は貫くような熱っぽい眼差しで私を見つめる。

 そっと顔を近づけて、あと少しで唇が重なる直前。

「……やっぱり帰ります」

 課長の動きはピタリと止まり、私からそっと離れた。

「課長……」

 直前でのお預けは拷問に近い。
 彼が欲しくて欲しくてたまらないのに、与えられない焦燥感と切なさに身体が悲鳴を上げていた。

「課長、私は」

 言わないと。好きですって。
 付き合ってくださいって、きちんと伝えてから……。

「……こういうの、望月さんらしくないですよ」

 しかし突き放すような課長の一言に、一気に酔いからさめたように身体が冷えていった。

 課長も酔いがさめたんだ。
 オカンの私とじゃやっぱりそんな気分にはなれないのだと悟って、胸が張り裂けそうに痛む。

「また連絡します」

 社交辞令のようにそう言って背を向け、すぐに出て行ってしまう課長。

「待っ……」

 私の声は虚しくドアが閉まる音にかき消される。
 放心状態でその場にへたり込み、ドアを見つめたままじわりと溢れた涙を拭うしかなかった。
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