堅物上司の不埒な激愛

結城由真《ガジュマル》

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23 課長視点

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 一睡もできないまま夜が明け、ベランダに響く鳥の囀りを放心状態で聞き流す。

「ああ……」

 望月さん、望月さん、望月さん。
 夕べの彼女の艶めかしい姿や仕草、言動の全てを一つ一つ蘇らせながら、熱を孕んだ身体を持て余す。
 一夜明けても尚、昂ぶりはおさまらない。

 あのぽってりとしたみずみずしい唇に触れることができたら。
 豊満な胸や美しくカーブを描いたくびれ、細い首筋に。
 
 欲望のまま抱き潰してしまいたいという加虐的な衝動にゾッとして、ため息をつき頭を抱えた。

『まだ帰らないで』

 望月さん、どういうつもりであんなこと。
 俺を見上げる瞳は支配欲を煽るような可憐さで潤み、腕を掴む仕草もキスを待つような唇も、誘っているようにしか思えない。
 あと一歩で流れに身を任せ彼女を襲ってしまいそうだったが、なけなしの理性をかき集めてどうにか抑えた。
 奇跡的に彼女が酔った勢いで俺に気を許してくれたのだとしても、そんなふうになし崩し的に一線を越えたくない。
 どんなに誠実に思いを伝えても、どうしたって行為が目的のように映ってしまう気がした。
 ……第一、ゴムだって用意してなかったし。
 理性を貫き欲望に打ち勝った自分を褒めてやりたい。

 さて、これからが本番だ。
 ごくりと固唾を飲んでスマホを取り出し、登録したばかりのメッセージアプリを開く。
 清らかな海の写真をクリックし、彼女のプロフィールを眺める。
 kanameというユーザーネームに胸が高鳴った。
 望月かなめさん。俺の人生のかなめすぎるだろ。

『おはようございます。昨日はありがとうございました。一度ゆっくりお話したいのですが、今日は予定ありますでしょうか。昼食もしくはお茶などご一緒できたら幸いです』

 少々堅苦しい文面になってしまったが、初めてのやりとりはこのくらいの温度感で問題ないだろう。
 意を決して送信し、祈るように目を瞑った。

 できることなら、今日交際を申し込みたい。
 アルコールの力を借りず健全に、誠意を込めて気持ちを伝える。
 深い仲になるのはそれからだ。

 軽快な受信音が鳴り肩が弾む。
 恐る恐る覗いたトーク画面には。

『こちらこそ昨日はありがとうございました。お誘い大変嬉しいのですが、今日は水野さんと前々からセミナーに参加する約束をしておりまして。またの機会に是非宜しくお願いいたします。』

「あああ……」

 なんて堅い返事なんだ。
 脈なしであることが露骨に表れている。
 それに、よりによって水野と。
 望月さんがスリムになった途端にいやらしい目で鼻の下を伸ばした奴の顔を思い出し、虫唾が走った。
 ……セミナーなんて口実で、二人で会う為では?
 無防備な望月さんが、水野に迫られたら。

 腹の底から沸々とどす黒い感情が込み上げて、気づいたらノートPCを開きセミナーの資料ファイルを探している自分がいた。
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