23 / 58
23 課長視点
しおりを挟む一睡もできないまま夜が明け、ベランダに響く鳥の囀りを放心状態で聞き流す。
「ああ……」
望月さん、望月さん、望月さん。
夕べの彼女の艶めかしい姿や仕草、言動の全てを一つ一つ蘇らせながら、熱を孕んだ身体を持て余す。
一夜明けても尚、昂ぶりはおさまらない。
あのぽってりとしたみずみずしい唇に触れることができたら。
豊満な胸や美しくカーブを描いたくびれ、細い首筋に。
欲望のまま抱き潰してしまいたいという加虐的な衝動にゾッとして、ため息をつき頭を抱えた。
『まだ帰らないで』
望月さん、どういうつもりであんなこと。
俺を見上げる瞳は支配欲を煽るような可憐さで潤み、腕を掴む仕草もキスを待つような唇も、誘っているようにしか思えない。
あと一歩で流れに身を任せ彼女を襲ってしまいそうだったが、なけなしの理性をかき集めてどうにか抑えた。
奇跡的に彼女が酔った勢いで俺に気を許してくれたのだとしても、そんなふうになし崩し的に一線を越えたくない。
どんなに誠実に思いを伝えても、どうしたって行為が目的のように映ってしまう気がした。
……第一、ゴムだって用意してなかったし。
理性を貫き欲望に打ち勝った自分を褒めてやりたい。
さて、これからが本番だ。
ごくりと固唾を飲んでスマホを取り出し、登録したばかりのメッセージアプリを開く。
清らかな海の写真をクリックし、彼女のプロフィールを眺める。
kanameというユーザーネームに胸が高鳴った。
望月かなめさん。俺の人生の要すぎるだろ。
『おはようございます。昨日はありがとうございました。一度ゆっくりお話したいのですが、今日は予定ありますでしょうか。昼食もしくはお茶などご一緒できたら幸いです』
少々堅苦しい文面になってしまったが、初めてのやりとりはこのくらいの温度感で問題ないだろう。
意を決して送信し、祈るように目を瞑った。
できることなら、今日交際を申し込みたい。
アルコールの力を借りず健全に、誠意を込めて気持ちを伝える。
深い仲になるのはそれからだ。
軽快な受信音が鳴り肩が弾む。
恐る恐る覗いたトーク画面には。
『こちらこそ昨日はありがとうございました。お誘い大変嬉しいのですが、今日は水野さんと前々からセミナーに参加する約束をしておりまして。またの機会に是非宜しくお願いいたします。』
「あああ……」
なんて堅い返事なんだ。
脈なしであることが露骨に表れている。
それに、よりによって水野と。
望月さんがスリムになった途端にいやらしい目で鼻の下を伸ばした奴の顔を思い出し、虫唾が走った。
……セミナーなんて口実で、二人で会う為では?
無防備な望月さんが、水野に迫られたら。
腹の底から沸々とどす黒い感情が込み上げて、気づいたらノートPCを開きセミナーの資料ファイルを探している自分がいた。
50
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。
その肩書きに恐れをなして逃げた朝。
もう関わらない。そう決めたのに。
それから一ヶ月後。
「鮎原さん、ですよね?」
「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」
「僕と、結婚してくれませんか」
あの一夜から、溺愛が始まりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる