堅物上司の不埒な激愛

結城由真《ガジュマル》

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「あの……課長っ」

 辿り着いたのは高層ビルのダイニングバー。
  課長がよく接待で訪れる穴場のお店らしい。
 一面の窓にはまだ日没前の薄いオレンジ色の空が広がって、夜景とはまた違った優しい美しさだった。
 だけど正直言って景色を楽しむ余裕なんて皆無だ。
 向かい席の課長は無言で、一生懸命私の左手薬指にリングを通してくれている。

「あのっ」

「……今だけは何も言わずにつけてください。ほんの数分だけでもかまいません」

 あまりにも必死な姿に胸を締めつけられて、課長が愛しくてたまらない。
 ピンクゴールドのリングに眩いダイヤモンドが添えられていて、彼の本気がじわりと伝わってくるような気がした。
 グラスに注がれるシャンパン。彩り豊かな前菜、柔らかい夕日。
 全てに胸がいっぱいになり、嗚咽で喉が鳴る。

「ありがとうございます……こんなに素敵な時間とお心遣いを……」

「……どうしても今日伝えたかったので」

 だからこんなに暑い日にも、カッチリしたスーツを着て、私のことを待ってくれていたの。
 指輪を購入して、お店を予約して。
 何もかもが課長の誠意の塊のような気がして、頬に流れる涙を止められない。

「泣かないでください。気持ちに応えられないとしても、僕は大丈夫です」

 そう言いながらも、私の手を握って離さない課長が愛らしくて、泣きながらクスッと笑った。

「嬉し泣きです。最大級の」

「それは……」

 顔を赤らめる課長に、今度こそ私も真剣に伝える覚悟を決める。

「私も、課長……鎌田さんが好きです。こちらこそ交際をお願いします」

 心を込めて頭を下げると、私の手を握る力が僅かに強まった。
 再び顔を上げた瞬間、彼の表情を見てドキッと胸が高鳴る。

 顔を真っ赤にして、目に涙をためて微笑む彼はあまりにも綺麗で、見惚れてしまい動けない。
 握り合う手で想いを伝え合うように、私達はしばらく黙って微笑み合う。
 少し照れたように笑う顔が可愛くて、今すぐ抱き締めたい衝動に駆られた。

「乾杯しましょうか」

「はい!」

「健全に交際を申し込めたので、安心してお酒が飲めます」

 ホッとしたようにグラスを持つ鎌田さんのブレない誠実さに、また涙が出そうになるのを我慢した。



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