45 / 58
45
しおりを挟む「課長ー! お疲れさまでーす!」
「山ちゃんっ」
慌てて引き止めるも時既に遅しで、突然の山ちゃんの乱入にポカンと目を見開いているハジメさん。
ハナさんは肝が据わっているのか、特に動じることもなくグラスに口をつけ始めている。
彼女の奥にいる大嗣さんは、山ちゃんの後から恐る恐る近づいた私と視線が合うなり立ち上がった。
「かなめさん!?」
大嗣さんはかなり動揺しているようで、勢い余って自身の手前にあった赤ワインのグラスを倒してしまう。
少量だけど赤ワインはテーブルにこぼれて、隣のハナさんは声を上げて立ち上がりテーブルから離れた。
「すみません……」
焦って倒れたグラスを戻す様子は、いつものクールな姿とは真逆で新鮮だけど、少し心配になってくる。
こういう時こそオカンの出番だ。
もしもの時の為に多めのティッシュやゴミ袋を常備してある。
「大丈夫ですか」
直ぐさま大嗣さんの隣に駆け寄りテーブルを拭いていると、大嗣さんは頬を赤らめて「すみません」と謝る。
「服は汚れてないですか? あ、」
大嗣さんのスーツに目がいった拍子にティッシュを床に落としてしまい、私と大嗣さんは咄嗟にしゃがんだ。
そして同時に頭をテーブルにぶつけ、「イテッ」と呟きがハモる。
顔を上げて目を合わせた瞬間、なんだか可笑しくなってどちらからともなく笑った。
「ふふ」
「ふふ」
彼の安堵した笑顔を見たらさっきまでの嫉妬心はどこかへ消え失せて、いつもの和やかな温かさが胸に広がっていく。
「あの……」
笑い合っていた様子を三人が傍観していることに気づき、慌てて立ち上がり頭を下げた。
「すみません、偶然見かけたもので……」
チッと小さく舌打ちするハジメさん。
ハナさんはキョトンとして、「たいちゃんの職場の方ですか?」と聞いた。
そこですかさず山ちゃんが口を開く。
「はい! 私は鎌田課長の部下です! こっちの望月さんは、課長の……」
そこで突然、山ちゃんの通勤バッグからスマホの音が鳴る。
瞬時に目の色が変わり、スマホを取り出した山ちゃんは目を潤ませて私を見た。
……嫌な予感がする。
「せんぱーい! 拓真から謝罪来ました! インスタやめたって! 私一筋だってぇー」
「よ、よかったね!」
冷や汗をかきながら苦笑する私に、山ちゃんは更に驚くべきことを口にした。
「それで……仲直りデートに誘われて……ごめんなさい、私……」
「だ、大丈夫! 楽しんできて!」
心の中では『山ちゃーん! 今帰らないで!』と叫びながらも、喜びの絶頂にいる山ちゃんを止めることなんてできない。
「先輩神ぃー! ありがとうございます! じゃあ、皆さん! ごゆっくり!」
そう言ってそそくさと去っていく山ちゃんを、ハジメさんとハナさんはハテナマークを浮かべながら見送った。
「………………」
取り残された私はどうしたら……。
「かなめさん、こっちどうぞ」
何故か嬉々として頬をピンクに染めた大嗣さんが、置いてあった鞄を端に移動させてから私を手招きする。
「い、いえ。私は……」
「いいじゃないですか。一緒に飲みましょ」
ハナさんは天真爛漫に微笑んでハジメさんの隣に座り、私にも座るように促す。
ぎこちない空気の中、大嗣さんに腕を引かれるまま腰を下ろすしかなかった。
32
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。
その肩書きに恐れをなして逃げた朝。
もう関わらない。そう決めたのに。
それから一ヶ月後。
「鮎原さん、ですよね?」
「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」
「僕と、結婚してくれませんか」
あの一夜から、溺愛が始まりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる