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幕間内政話
【鬼怒恵村】 新生鬼怒恵村での生活。義介と才蔵の場合。
しおりを挟む餓鬼の解体に喘いでいたが、才子獅子奮迅の助けがあって無事、早々に作業を終える事が出来た義介であったが。
今は抜き取った餓鬼の肝を鬼怒守邸の地下にある 冷凍倉庫に運び入れているところだ。
かつて、この地下室は退治した妖怪素材を保管するために氷室として使われていた。それを改造して冷凍倉庫にしたのだが……そう言えば均次は
『電気はその内使えなくなります』
と言っていたな、と思い出し。
「そうなったらこの冷凍倉庫も解体して氷室に戻さねばならんな──いや、この倉庫だけの話ではない…」
この村に電気に詳しい者はいない。世界がこうなっては業者にも頼めない。
それに盆地である上、頻繁に雷雲が覆うこの村は日照に恵まれない土地柄。ゆえにソーラー発電を取り入れている世帯など皆無である。つまりは、
「…深刻な電気不足がやってくる…頭の痛い事じゃ…」
しかしこんな世界になって、一番に気にすべきは水と食料だ。それについては、
「何とかなりそうじゃの…」
モンスターの死骸というものは肥料化すると作物の成長を促進するらしく、『それをこの鬼怒恵村で使えば鬼に金棒だ』と均次は言っていた。
「それを作業初日で確認出来た。村の者達にも知らしめた。…これは大きな前進じゃ」
ちなみに、日照時間が極端に少ないという条件下でこの村が豊穣の地でいられたのは、ヌエが降らせた雷だけが原因ではない。
──かつての鬼怒恵村は毒属性魔力を発する土地であった。それを代々毒巫女の適正を宿すキヌの一族が中和していた。しかしそのキヌが死に、毒を中和させる者がいなくなった。さらには無垢朗太の制御から解き放たれた無属性魔力までが暴走した──まさに村存亡の危機であった。
それを救ったのが三つの祠であった。
無属性魔力の使い手である無垢朗太と拮抗してみせた雷属性魔力使い手であるヌエと毒属性魔力の使い手であるキヌ。
この三者の霊魂を封陣でこの地に縛りつける事によって三つの魔力を衝突させ中和させる事に成功した。
その中和された魔力はこの土地に染み込んでいった。その上でヌエが魔力がこめた雷を降らせていた。だからこの鬼怒恵村は不作知らずの豊穣の地でいられたのだ。
しかし今や、それら祠の悉くが三つのダンジョンによって破壊されてしまっている。
「だがそれも──」
雷の祠をくらったダンジョンと毒の祠を食らったダンジョンは何故か、争った風もなく仲良く?ダンジョン統合体となっていて。アレについては
『あの馬鹿ップルに任せておけば良いでしょう』
と均次が言っていた。
「きゃつが言うならば…まあ…大丈夫?なのであろうな…」
問題の無属性魔力の結界もダンジョンが食らったらしいが、そのダンジョンも、
『討伐するついでに食らっといたから。今じゃ俺の一部になってるし、大丈夫』
と均次は言っていた…いやどこらへんが?
「──本っっ当によく分からんが…っ、いや流石は均次である。そういう事にしておこう…(深く考えちゃダメじゃわし。均次については特に)」
餓鬼の解体で疲れたか。割りとやけくそ気味な義介であった。
「ともかく……次にくるは電気問題よ。一応発電機なら全所帯所有しておろうが…ぬぅ、そうか…電気だけの話でもないのか…」
発電機を使うなら燃料がいる。しかしこんな世界になって燃料が簡単に手に入るとは思えない。
あのマッドな映画やホクトな漫画よろしく、燃料獲得のために血で血を洗うヒャッハーに参戦するなど論外である……いや、これらエネルギーに関する問題についても、
『それは、多分才蔵が何とかしてくれます』
……と均次は言っていたが、しかし……
あの才蔵という青年がそれほどに稀有な才能を持つと言うなら?
是非とも人財として我が村で確保しなければならない………というのに。
自分は、彼に嫌われてしまっている。
それも結構根深く。
親友を殺そうとしたのだから当然である。『あれは気の迷いだった』で許してもらえる問題でもない。正式な許しを得ていない現状、助けを求めるのはむしが良すぎた。
「いや…許しを得たとして…」
信頼を得てこの村に留まってもらうなら頼るばかりというのも考えものだ。
「そう言えば、均次のやつはこうも言っておったな…」
『才蔵の教育は義介さんに頼みますね?』
「しかしのう…」
ただでさえ嫌われてるのに。
「何をどう教育せよと…」
それについては教えてくれず、
『義介さんが出来る事を教えてやればいいです』
と言っていたが……多分あれは…
『本当に信用を得たいなら自分で考えた行動で示さなければ意味がない』
そう言いたかったのではないか。
という義介の深読みは微妙に間違っている。
均次としては、
『仲直りする切っ掛けとして才蔵とコミュニケーションとって下さい』
と言ったつもりであったし、
『何か教えて欲しい事があればなんでも聞いてね?』
というライトな感じで接して欲しかったのだが…。
「男同士。結局はぶつかってなんぼ…かの」
義介の決心は変な方向で新たにされた。
ズカズカ階段を上ってゆく。
そして早速、男衆に集合をかけた──
・
・
・
肥料にするため集めた餓鬼の死骸や肉片を所定の場所へ移し終わった男衆。
彼らが集められたのは、鬼怒守邸にある道場であった。
全部で40人弱…その内訳は魔力に覚醒した19~65歳の男衆……プラス造屋才蔵。
その全員がソワソワしていた。
道場内は全面板張り。殺風景なここにまじまじと見るほどのものはあまりない。
それでも気になる箇所が沢山あった。例えばよく磨かれているけど所々赤く染みついているあれ…何だろう。
…いや、うん、
多分血の跡なんだろうけども…それだけで説明がつかない雰囲気が、ここにはあって。
…なんというか、長年にして蓄積された殺伐の空気が空間全てにこびりついているような…。
…ああ、嫌な予感しかしない。
皆が皆、そう思ったところへ、
ガラ──戸を開く者がいた。
…義介だ。
そのまま一礼のちに入場。
流石は武人。堂に入っている。
でも閉めた戸の鍵穴に時代がかった黒鉄色の鍵を差し込んだのは何故──ガチャ。
「今からお前達を、殴る!」
言うやいなや──ジンッ!
何か音が鳴った。義介の身体が光って見えた。そう思った…瞬間!
ドン!「ぎゃぼ──!」
男衆の一人が吹き飛ばされ──ドガアッ!壁に激突。
「「「「「はあ?」」」」」
となるのも仕方ない。
才蔵の膝は既にガクブル。
そうなるのも仕方ない。
一般常識からかけはなれた特大の暴力が唐突過ぎて振るわれた。
人が直線に近い軌道を描いてぶっ飛んだ。
そんな現象など見た事なかった男衆プラス才蔵。
そんな彼らの凍りついた呆然は、可哀想にも無視されて。
ジン──ド!ドゴア!「ぎゃん!」
ジン──ド!ドガアン!「ひゃぁ、」
ジン──ガ!ドコオ!「のわあっ!」
──全くの容赦なし。唐突の犠牲者は続出した。
どこかで光ってジンッ!
音が鳴るたび光ってドン!
誰かがぶっ飛びドガァ!
「「「ぎゃぁあっ!!」」」
…哀れ壁に激突。
「「「──がふぅ…っ!」」」
ここまでが何度も繰り返される。
義介の姿たるや、まさに暴君。
…ただ、
ぶっ飛ばされた者達に大きな怪我はないようだった。
痛そうにしているが痛いだけのようだ。骨折などの故障にはいたってない。それでも彼らにとって確かな痛手だ。
ジン!ド!「ぐあ!」ドがァッ!
ジン!ゴ!「げぼ!」ドガぁッ!
ジン!ガ!「ぐは!」どガァッ!
それが何度も何度も刻まれる。なのに無事であるのは、ここにいる者がみんな魔力に覚醒しているからだ。
「ひぃぃいー!(なんだなんだこの状況うううう!?)」
…そう、才蔵以外は。
『農家』は戦闘系ジョブでないが【MPシールド】とやらがしっかり仕事をしている。だから男衆は無傷でいられる。
…、才蔵以外は。
(いや凄い痛そうなんだけど!?あれを俺が食らったら…)
義介が振るう拳骨は相手を吹き飛ばすほど重い。しかしシールドを突き破るほどの魔力は宿してない。これは魔力の出力をおさえているからで──つまりは、手加減している。絶妙に。これでも。
流石は達人である──いやそれでもだ。
暴力に対しては素人の集まりなのだ。
痛みと恐怖はしっかりと刻まれるのだ。
殴られた者もまだ殴られてない者も皆、右往左往と逃げるしか術を持たないのだ。
なのに逃げても無駄ときている。
男衆「ごぁあっ!」
才蔵「ひぃーっ!」
迅雷の速さで追い付かれる。
男衆「ぎぁあっ!」
才蔵「うひーっ!」
何度も何度も吹き飛ばされる。
男衆「もうやめ──!」
才蔵「ひぃいぃーっ!」
男衆の阿鼻叫喚を、延々と見せつけられる才蔵。はまだ、魔力に覚醒していない。義介もそれを承知している。
男衆「このやろ──!」
才蔵「あーちょ…待…っ!」
だから手を出してこない。
男衆「ははは殺せよ殺せよー。」
才蔵「地獄だ…ここは、地獄…っ」
それでもだ。怖いもんは怖い。
男衆「義介いい加減に──ぎゃお!」
才蔵「あんなオッサンまでーー!?」
だからこう思うのも仕方なかった。
(やっぱ嫌いだこのジジぃいいい!)
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