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幕間内政話 

【鬼怒恵村】 新生鬼怒恵村での生活。才子の場合。

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 朝食の後はすぐ、昼食の下ごしらえに入り、皿洗いはその後に纏めて済ませ、洗濯担当のママさんも手伝い、それも終われば子供達の勉強やお遊戯にかまってやり、昼飯時にはまた、あのわんぱくどものおタッチに悪戦苦闘しながら、食事をさせる。

 この頃になると才子はもう、クタクタになっていた。

「主婦って、凄い…」

 彼女なりにこの村の主婦層と打ち解けようと頑張っている。というか、頑張り過ぎるのは彼女の悪い癖であった。そんな様子を見て、


「じゃあ、ゆっくりしてきてねー」
「それじゃぁ…遠慮なく。行ってきまーす♪」

 と、外に送り出してもらえたのは有難かった。まぁ男衆にお弁当を届けるという任務付きだが。

 餓鬼の脅威が去ったと言われても安心出来ない。ママさん達がそう思うのも無理はなかった。
 
 何せ相手はモンスター。誰かが無惨に殺されておかしくなかった。そんな理不尽な非日常へと突如、叩き落とされたのだから、学習しているだけ逞しいと言える。

 だから同じ女性でもレベルが高く、戦闘スキルまで取得している才子が適任とされたのだ。

 それに、これから乳児幼児が合わさった大勢をしかも同時にお昼寝させなければならない。
 すぐ寝る子もいれば中々寝ない子もいて、折角寝かしつけた子を起こす子もいる。
 
 そんな個性豊かな子供達を同時に寝かしつけるというのは、中々に神経を使うものだ。

 子育てに慣れのない才子にそこまで付き合わすのは忍びない。だからお弁当の配達がてら気分転換してもらえば…というこれは、ママさん達の気遣いであった。

 まあ中には、

「たるんでるヤツがいたらケツに蹴り入れてかまわねーからっw」

 なんて言う元ヤンママさんもいたが、それはそれで面白く思いながら出かけた才子は、長閑な鬼怒恵村の風景を改めて楽しむ事が出来たのだった。

 才蔵は外出を嫌う。自然に対する頓着なんて当然として皆無である。なんだかんだ才蔵にベッタリな才子もアウトドアの経験が殆んどない。

 色々と目立つ外見でコミュ力も高く、しかも頑張り屋さんな彼女は学校でも職場でも人気者となるのが常であったが、その本質は才蔵と均次以外で深い付き合いをする必要を感じないドライ女子──というか、器用に猫をかぶれるだけで、意外にも人付き合いが苦手だったりする。

 だからさっきまでの和気あいあいとした雰囲気は楽しめても正直、しんどかったりもして。

 そんな才子にとって『ぶらり田舎の田園風景を眺め歩く』という経験は、とても新鮮に感じられ──ていたのだが。


 その清々しさの中で異彩を放つ一画があった。


「うぷ、ぉが、ぷふー…」
「ぇっと…義介さん…?」


 そう、義介だ。義介がえずいて涙目になりながら作業をしている。重労働で腹を空かせているだろうに、

「どぅぼぅぇ…うぅ…お…昼飯かの…生憎じゃがあまり食欲がこう、なくてのぅ…」


 と、弁当を見ても全く嬉しそうにしない。でも、まあ、そうなるのも無理はない。


「…大変そう、てすね…」


 何を原因としてえずいているかと言えば、餓鬼の解体なのだから。自分もやった事のあるアレ。といってもそのお蔭で【解体】のスキルを取得したのだから悪いばかりの経験ではなかった…そう無理矢理に思う事にしていて、だから。

(頑張ってね義介さん…一人で。)

 とか心の中で言いながらスルーしようとする才子はやっぱり逞しい──のだが、

(うーん、でも…)

 …義介とはひと悶着あったが結局、家から食から、兄の教育から、大変お世話になっていて──だから、

「え~っと。あの…私、お昼は済ましてきたんで。義介さんと皆さんはご飯にして下さい」

 と促しながら。『このままトンズラしてしまいたい』と思いながら。『じゃないと折角の気分転換が台無しになってしまう』と分かっていながら。

(…あーもう)

 猫っかぶりのドライ娘にはなり切れない。基本としてお人好し。それも才子の本質な訳で、


「えっと…、それ餓鬼の解体、手伝いましょうか?」

 あー、言ってしまった。

「ぬ……良いのか?しかし…こんな汚れ仕事は流石に…」

「あー気にしないで下さい。均兄ぃに鍛えられてるんで。あ、でも、言っときますけど。お昼休憩の間だけ、ですからねっ?」

「お、おう、当たり前じゃ、それでも助かる。…かたじけないの」

「ハイ、じゃぁ、今のうちに食べちゃって下さい!あ、この解体用の刃物凄ーい!使っていいですか?」

「おう、存分に振るってくれ。当家自慢の剥ぎ取り刀じゃ。先々々代がこさえた一級品よ、きっと気に入るじゃろう」

「…うん、これなら捗りそ」

 じゃ、ないから。
 あ~あ…結局また、引き受ける。
 なんだかんだと均次をディスるが、
 似た者同士な才子なのであり、
 

『【解体LV2】に上昇しました。』


 まんまとその均次の術中にはまる才子なのである。彼の思惑通り、【解体】レベルを上げてゆく。

 才子と均次が行動を共にしていたあの時、彼女は【拙速】という加速系スキルを取得していた。

 その性能は『移動速度よりハンドスピードを重点的に上げる』というもので、手先が器用な者が使い手となれば、戦闘だけでなく色々な作業で活躍する。

 才子がフル活用して解体すれば、比喩抜きに八面六臂を思わせるものとなり…

「おお…なんという…技前よ…」

 義介は感心しきり感謝感激感動感涙雨アラレ。他の男衆も、

「ぬお、なんっちゅー早業…」
「なあ俺…目がおかしくなったんかな…あの娘の手が六本に見えるんだが…」
「いや、六じゃない。八本だな。俺にはそう見える」
「ああ、俺にも見えてるぞ。乳が4つも…すっっげえなんだアレ…っ!」
「確かにすげえ。あんなブルンブルンさせて…痛くないのか?……って、どこ見てんだどこをっ!まあ俺も見てる訳だけど…」
「ふっ、俺は、六つに見えるぞ?」
「なんで上から目線!?」
「甘いなお前ら、注目するなら尻だろう」
「だから何の上級者気取りだよ?」

 と、要らぬ方向へ脱線していた。それを見た義介は、


「馬鹿者どもめ…黙らぬか…っ」


 と、これでもかとドスを利かせた声を発し………この村で鬼怒守義介という男を親しく思わない者はいない。しかし怒らせた時の恐ろしさを知らぬ者もいない。

 付いた渾名は『暴君義介』

 その暴君の静かな恫喝に背筋を震わす男衆であったが、でも確かにとも思っていた。

 彼女は善意でやってくれている。それに比べ自分達の脱線は失礼に過ぎた。そんな気付きを得た男衆は、

「うん、義介さんの、言う通りだな…」
「ああ、悔しいが、確かにな」
「む、そうよな、すまん事をした…」
「浮わついていい時じゃぁ、なかったの」
「ああ、そうだな」
「村のためにあんな頑張ってくれて…」
「おぅ、そんな娘を瀆すような目で見ちゃぁ…いかんよな」

「有り難うよ義介。わしらぁみんな、目が覚めた思いじゃ──」



「いや、何を言っておる?」



「「「ぇ…」」」

「何の話をしておるんじゃ、と聞いておる」

「「「え?」」」

「だから。声を出すなと言っておろうが。下手に騒げば気付かれる。『みんなのエッチ!もうやってあげないからっ!』なんて事になったらなんとする?」

「「「あー、はい、…えっと?」」」

「良いか?静観せよ。ここは見守るに限る。このような眼福、そうそう拝めるものではないのだからな…ったくっ!そんな基本も分からん馬鹿どもめ…っ!これだから田舎者は…っ」

 うん、全然違った。というかお前も田舎者だろうがと言いたいけど相手は暴君。集中している時に邪魔すれば何をさせるか分からない。

 だから、やっぱり義介は義介であったと思いながら。エロに関しては最低限のモラルしか守らないのが義介であったと思いながら。良い漢であるがいかんせんのドスケベ野郎な義介であったと思いながらも、

「いや、え?…はい」
「あーはい、うん、」
「ぅん、…うん?」
「ん、む…そうか…の」
「そうだね、そうくるよね」
「そうか?いや、こうくるか」
「そうそう…そうだよ…やっぱ、うん…」

 と、気の抜けた声で返すしかない男衆なのである。

「良いか皆の衆。ただ、静かに。心ゆくまでじっくりと、脳髄に刻まれるほどしっかりと……そう、両の眼に焼き付けるのじゃ。後で不足なく使えるようにの」


(((何に使うつもりだ68歳っ?)))


 とか心の中で突っ込んでおきながら、義介の言い付けを、じっくりしっかり守る男衆なのであった。



 そんな視線を向けられる事はいつもの事過ぎてもう、マルっとお見通しでありながら平然とスルーする才子は、集中を深めていた。

 【拙速】と【解体】の合わせ技で高速化と効率化を両立させる過程で、改めて魔力を理解しようと工夫に工夫を重ねて試していた。

 しかし、この【拙速】というスキルは均次が所持する【韋駄天】のようなパッシブスキルではない。

 アクティブスキルなのであり、任意発動である以上、『ここぞ』という場面で使う代物であり、そんなものを間断なく使い続けたりすれば?


 そう、相当な負荷となる。


 どんなに手際のよさを突き詰めてもこうして、何体も何体も延々と捌いていれば、

『【斬撃魔攻LV3】に上昇しました。』
『【刺突魔攻LV6】に上昇しました。』

 こうなるし、物凄く疲れる。気分だって悪くなる。だから、

『【精神耐性LV3】に上昇しました。』
『【疲労耐性LV1】を取得しました。』

 こうなるし、義介が帰ってくるまで休みなくやっていれば、

『【斬撃魔攻LV4】に上昇しました。』
『【拙速LV3】に上昇しました。』
『【解体LV3】に上昇しました。』


 こうなる。


 家事と子供の面倒でただでさえ疲れていた。その直後にこのブラック作業。しかも全力でやればまあ、こうもなる。


 やはりの頑張り屋さん。

 
 悪い癖である。


 

=========ステータス=========


名前 造屋才子つくりやさいこ

ジョブ 魔食研究家LV9

MP 1350/1350


《基礎魔力》

攻(B)83
防(D)57
知(B)83
精(D)57
速(C)70
技(D)57
運   50

《スキル》

【MPシールドLV1】【MP変換LVー】【暗算LV4】【機械操作LV2】【語学力LV6】

【斬撃魔攻LV2→4】【刺突魔攻LV5→6】【打撃魔攻LV4】

【精神耐性LV2→3】【疲労耐性LV1】new!

【拙速LV2→3】【身体強化LV2→3】

【解体LV2】【魔食調理LV2】【テイスティング(魔食材、魔食料理)LV2】【隠し魔味LVー】

《称号》

『魔力の器』『雷獣の加護』『毒巫女の加護』『乱暴者』

《装備》

『釘バット』


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