8 / 13
P.8
しおりを挟む一センチの身長差。たった一センチだけれど、あなたと彼の繋がりが生まれ、思い出が花咲き、恋しさが育っていることを証明してくれる、掛け替えのない変化だった。
「もう、本当に時間がないみたい」雨宮くんは消え入りそうな声でそう呟き、あなたを真っ直ぐ見つめる。そして声の調子を一段張り上げ、「バイバイ、鈴村さん。僕のこと、思い出してくれてありがとう」
「ううん、ごめん。すぐに思い出せなくて」あなたは弱々しく何度か首を横に振る。そして不意にパッと顔を上げると、まっすぐ彼を見つめ、静かに頬笑いかけた。
「あたしも急がないと。現実で君を待たせてるから」
彼は満足そうに頷いた。僕を、よろしくね――そう聞こえた気がした。
「昴っ……」
咄嗟に一歩、あなたは踏み出す。彼の台詞と、彼が消えてしまうのは、ほとんど同じ瞬間だった。
「……そっちの昴も、元気でね。バイバイ」
あなたは頬を焦がす涙なんてお構いなしに、数秒前まで彼が立っていた場所を見つめ続けていた。窓から射す優しい陽の光で照らされたその場所から、彼の温もりが消えてくのを感じながら――
静寂に浸る図書室に、最終下校を告げるチャイムが鳴り響く。びっくりしたあなたが思わず「ひぎゃっ」と素っ頓狂な悲鳴をあげた瞬間。あなたは何か強い力に引っ張り上げられるような、呼び覚まされるような感覚に襲われる。それは声として聞き取れる響きじゃなく、あなたの意識を無理矢理ノックするような揺さぶり方で。
(ああ……きっとこれ、夢が解ける合図だ――)
直感的にあなたが察したところで、ぷつん、とあなたの世界は暗転するのだった……。
誰かの声が聞こえる。ガヤガヤと賑やかな話し声。初めこそ遠くに感じられた喧騒は、忙しない潮の満ち引きみたいにあなたの鼓膜を刺してくる。
(……あれ、あたし寝てた……? それに、ここって……)
目を擦り、周りを確認する。テーブルに突っ伏して寝ていたせいで少しだけ首が凝っている。のそのそ身体を起こすと、見慣れた内装、天井の照明、ソファの座り心地。そうだ、思い出してきた――ここは近所のファミレスで、「久し振りにファミレスなんてどう?」と学校帰りに寄ったんだっけ、彼と……
「おはよう、茜さん」
声に振り返る。あなたの向かい側の席で、彼――雨宮昴くんが頬杖をつきながら、柔らかい笑みを浮かべていた。短くておしゃれにセットされた髪型、コンタクトレンズの瞳、今みたいにスクールシャツを捲りあげていると一目瞭然の、鍛えられた腕。
「昴……」
あなたの恋人。いつも通りの彼だった。
0
あなたにおすすめの小説
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる